第8話 VRMMORPG BulletS初期の頃

 近距離にいるスモール級のモンスターをマップで探し出し、狙って撃つ――

 でも、なかなか弾が当たらない……というか、射撃なんて初めてだから、撃ったときの反動で弾道がそれるし、痛覚は無効らしいけど、肩に響いて大変だ。

 女性アバターだから、非力らしく銃も重く感じる。リアルすぎるなぁ……。

「誰だよ? M16A3は超低反動だっつったのは?」とオレ。

「おまえな、火薬使って弾を発射してるんだから反動はあるんだぞ。空気銃だって反動あるんだからな。反動がいやならレーザーガンしかないぜ」とシューメイ。

「レーザーガンじゃシューティング気分出ないだろ? それにPvPじゃ実弾のほうが圧倒的に有利だし」と言い返すと、

「なにおまえ、PvPに興味あるんか?」と驚かれる。

「だって、やるならPvPだろ?」

「おまえ、意外に凶悪だな……」

「え? そう?」

「でも今の腕じゃ、PvPどころかレイド戦でも足手まといになるだけだぞ……だいいち、銃の構え方がなってない。立って撃つとポジショニングが難しいし、相手から撃たれ放題になっちまうから、少しでも姿勢を低くするために、片膝を地面につけて撃つニーリングと、地面に寝そべって撃つプローンの姿勢を覚えたほうがいいぞ」


 その日は何発か撃って、始まりの街の転送ポイントに戻り、ログオフして終了。ま〜初日だからこんなもんかな――でもなぁ……。


 ◇


 言われた事が悔しくて、シューメイがいない平日と土日の夜――たぶん梓ちゃんとのデート中――は1人でダイブ。

 都市部を離れた近郊で、ポジショニングの練習をかねてスモール級を片っ端から倒す。

 廃墟っぽい場所でも都市部だと他のプレイヤーがいるし、女性アバター1人だとちょっかいを出されるのが嫌だったから、移動中はフード付きマントをかぶっていた。

 少しずつだけど射撃の腕が上がり、ゴールドも貯まっていった。

 もっとも銃弾も補充しなけりゃいけなかったから、一気には増えなかったけど。


 何週間か経ったある金曜の夜。シューメイと時間を合わせてダイブし、狩りを開始する――

「そういえばシノブ、いつの間に射撃そんなに上達したんだ?」

「ああ、誰かさんと違って毎日訓練してたのさ〜」

「なに〜? そういえばおまえってコツコツタイプだったな……」

「へへ〜ん」

「なら、今日は都市部に戻って、そこらあたりにいる少人数のチームに参加してレイドに出てみるか?」

「う〜ん、どうだろう。ま、やってみるか!」

 このVRMMORPG BulletSはよくある異世界ゲームとは違い、空なんて飛べないから移動は徒歩やバイクなどの車両しか手段がない。ここもリアルさを追及している仕様だ。

 銃弾や装備は使用時に実体化させるんだけど、一度実体化させるとログオフするまでストレージに戻せない――こんなところもリアルだ――だから、郊外から都市部へ移動するには自力で運ばなきゃならない。


「あ〜、銃が重たい〜! 肩に食い込むぅ〜!」

「うるせぇな。俺はおまえの分の弾薬まで持ってんだぞ。それに比べたら、まだマシだろ?」

「だってオレ、今、女の子だから力ないし〜」

「な〜にが『女の子だから〜』だよ! 中身は童貞のおっさんのくせに!」

「なんだと〜童貞は余計だっつ〜の!」

 言い合いながらながら、やっと都市部へ到着する。


 レイドチームは、前衛2人、後衛2人の合計4人が多い。

 それ以外にも前衛1人、後衛2人とか、前衛2人、中衛1人と後衛2人とかもあるし、もっと大規模なレイド戦の場合はその数倍になるらしい。

 このゲームはサービス開始したばかりだからか仕様なのか、いわゆるギルド案内所なんてのは存在していない。あってせいぜい募集掲示板くらいなもんだ。これも銃と弾丸の世界を再現してるっぽい。

 だから3人以下のチームやソロのプレイヤーが臨時メンバーを探しているはずだ。

 その中でオレたちみたいな凸凹コンビの2人組がいたので、シューメイがでかいほうの男に声をかける。

「俺はシューメイ。前衛やるつもり。こっちは後衛予定のシノブってんだけど、俺たち今日が初めてのモンスター狩りなんだ。一緒に組ませてもらっていいか?」

「おーいいぜ! あ、俺はカイ。俺たちも今日初めてなんだ。前衛だ。こっちは後衛のユーサクだ」

「よろしく〜じゃ、セオリー通りにいけそうだね!」とユーサク。

 彼らも同じ初回版当選組で、息が合っているようだ。

「あ、よろしくです」とオレはあくまでも女の子を貫く。

 まぁ、女性アバターでも、中身ほとんどは男だ。けど、オンラインゲームでリアルのことを聞くのはご法度だからな。ま、仕草とかでそのうちバレちゃうだろうけど。


「じゃ、カイにリーダーをまかせる」とシューメイ。

「オッケー。じゃ、ルールを決めようか。ゴールドは4人で分配、ドロップしたアイテムは、最終的に倒した者が獲得。で、どうだ?」

 全員異論はなく、臨時チームが編成される。

「じゃまずはミドル級を狙ってみるか」マップでカイが獲物を探し始める。

「11時の方向、距離約1キロ――ミドル級が3体か……」

「近くには別チームいないから、俺らで倒そうよ」とユーサク。

「了解!」全員で移動を始める。

 距離300メートル位まで近づき、まずは前衛のカイとシューメイが先制攻撃。

 まず3体のうち1体を狙い、倒す。

 後衛のユーサクとオレは援護射撃と、残りを狙う――

 オレは最初プローンポジションで狙い、撃つ――フルオートでマガジンを使い切ったと同時に1体を倒せた!

「やるじゃんシノブ!」とシューメイ。

「日頃の訓練のおっかげ〜」とあくまでも女の子っぽく。

「ん〜負けてらんないな〜あっ、くっそ、外した……」とユーサク。

 マガジンを入れ替え、オレは残りの1体を今度はニーリングポジションでフルオート連射――ヒット!

 そこへすかさずシューメイがアタックし、倒す。

「イェーイ!」

「やったね〜シューメイ!」

 それからまた獲物を探し、約2時間ほどで、合計7体を倒した。

 約束通りゴールドは4人で分配。すべてミドル級だったためか、アイテムはなかった。


「じゃ、今日はこれぐらいにしようか?」とカイ。

「ああ。じゃ、また今度会えたら一緒にやろうぜ! 俺らはペアではほとんど金曜22時くらいにダイブするけど、シノブはほぼ毎日ソロで都市部を離れた近郊でゴールド稼ぎしてるんだ。な?」とシューメイ。

「うん。早くゴールド貯めてもっと上級のレアスキル持ちのアバターと狙撃銃を手に入れたいんだよね~」

「目標があるんだ〜すげーな! 今日初めてなのに、あのヒット率だから凄腕のスナイパーを目指してるんだ?」とユーサク。

「うん、そうなんだ……」ちょっと照れるな〜

「じゃ、またな! シューメイ、シノブ!」

「おう!」

「またレイドしようぜ〜シノブ〜」

「またよろしくです〜」

 シューメイと始まりの街の転送ポイントに戻り、ログオフ――現実世界に。


「初レイド、大勝利だったな! 忍、ほんとすげーな!」

「うん、マジあんなにヒットするとは思わなかった〜 ん〜面白い! これこれ、こういうのをやりたかったんだよな〜!」

「忍よ、アバターに合わせてもうちょっと女子っぽくしたほうがいいかもな〜」

「あ〜それな〜 でもいずれバレるだろうから、いいんじゃね〜?」


 それよりも早く、あのTHX-1489を手に入れたい――

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