第7話 3年前

 今から約3年前のある日――

 秀明と一緒に、会社近くの定食屋で昼飯を食べているときのこと。

 3度の飯よりゲーム好きの秀明がスマホを見ながら突然、「おい忍! めちゃ面白いオンラインゲームが今度リリースされるんだけど、事前登録していた初回版に当選したぞ!」

「あに? 今度はどんなの? ってかこの間のもうやめちゃうのか?」

「おう! 今度のは『VRMMORPG BulletS』っていってな、仮想現実内でシューティングができるやつなんだぞ! しかもその初回版、ペアが組めるんだぜ。感謝しろよな」

「ペア? ってか、オレもやるのか? 梓ちゃんはどうすんのよ?」

「ああ、アイツはゲームやらないからな。忍、前にシューティングやりてーって言ってたろ?」

「うん。銃で相手を倒すのって1度やってみたかったんだよな」

「そうだろそうだろ〜 で、初回版当選者は、何万ゴールドだかもらえて一定レベルのアバターと装備が選べるんだよ」

「ふ〜ん。じゃ、今度オレ女性アバター使おうかな……」

「わ、出た! 童貞の妄想!」

「うっさいな〜 銃をバリバリ撃つ女の子ってカッコイイんだぞ!」

「ま、そうだけどな……俺はそうだな……自分の体格と同じような近距離戦用のにしよう」

 と、スマホで事前登録をしていたらしいサイトのアバター一覧を見せてくれる。

「あ、秀明ならこのT-9000が似合うんじゃね? 身長180センチの」

「お、そうだな……なら、おまえはこっちでいいんじゃね? 好みの長身・黒目・黒髪ロングだし」

「ん〜そうだな、身長165……オレとおんなじじゃん。違和感なくていいかもな〜あ、装備? 銃とかはどうすんの? オレ全然わからんし」

「ま、それは俺にまかせとけって。今度の土曜日の午前中にはギアが届くから昼過ぎ俺んちに来てくれ。忍もPC持ってくれば、一緒に設定できるからよ」


 ◇


 土曜日、秀明の部屋で2人してアカウント設定から始める。

「お、これが自慢のゲーミングノートPCだな?」

「うん。今はこれで事足りるんだ」

「俺もこの馬鹿でかいでタワー型やめてノートにすっかな〜」

「ノートじゃ拡張性ないからそれでいいじゃん。だいいち持ち歩かないだろ?」

「まぁな」

「で、梓ちゃん、今日は本当に一緒じゃなくていいのか?」

「ああ。ゲームはしないって言うから、遊ぶのは明日だ。今日は、おまえにつきあってやるからな〜」

「はいはい……」


「――アカウントできたか? 俺はシューメイで登録したぞ」

「うん。オレもシノブで登録した」

「なんだよ、そのまんまじゃん。ま、いっか。じゃログオンしたら装備を選ぶぞ」

 まだギアは被らない状態で、ユーザーページで装備を選ぶ。

「秀明はこのT-9000にするんだろ?」

「おう。忍はやっぱりこれか?」と女性タイプの長身・黒目・黒髪ロングのT-0814を指さす。

「うん。本当はこっちのTHX-1489ってのにしたいけど、めちゃくちゃ高い……」

「なんだ? このちっこい子……あ、レアスキル『天の秤目』持ちなんだな。スナイパー御用達だな。ま、ゴールド貯まったら買うんだな。その前にそれに見合った技術と銃が必要だる?」

「そうだね……で、銃は?」

「予算的に最初はM16A3かな……重量は3.35キロ。有効射程は最大五500メートルで、フルオートモデルだしな。これなら近距離でもアサルトライフルとしても使える。弾丸は山ほど買っておかないと……」

「同じ銃なら、弾丸も共通で使えるから便利だね」

「だな。あと俺はこれも買うかな」と銃剣OKC-3Sを指す。

 メニューからアバターと、銃・装備他一式を選んで購入。余ったゴールドで銃弾5.56x45mm NATO弾マガジン20発入りを購入。


「じゃ、ちょっとギア被ってダイブして、モンスター相手に練習するか……」

 秀明はベッドに、オレは床に寝てギアのボタンを押してログオンすると――VRMMORPG BulletSシステムのログオンシークエンスアナウンスが聞こえてくる。


『最初に視覚と聴覚がVRMMORPG BulletS SYSTEM制御下に入ります――成功しました。次に四肢の触覚・味覚・嗅覚の身体感覚がアバターと同期します――成功しました。ようこそVRMMORPG BulletSの世界へ。コマンドはすべてメニューから操作が可能となりました。メニューは右手人差し指を上から下へスワイプすると表示できます。次回以降、このアナウンスをスキップするには、メニューでOFFを選択してください』――10数秒ほどでVRMMORPG BulletSの世界にダイブした。


 転送ポイントのゲートから降り、しばらく周囲を見渡したり手足を動かして身体の動きを確かめてみる。

 アバターとの一体感は素晴らしく、視覚、聴覚とそれに物を触ったときの手触りとかは現実世界と違和感はなく、ほとんど自分の身体といってもいい。

 サラサラとした長い髪も心地よい。

「お、シノブ〜その格好かわいいじゃん! 似合ってるぜ〜軍服姿」

「シューメイこそ、なかなか強面ですげーな」

 そして、ここはどうやら廃墟っぽいけど都市のようだ。

「ここって、いわゆる始まりの街なのか?」

「たしかそうだったと思う。他にもいろいろあるらしいけど、転送ポイントはプレイヤーレベルで選択できるらしい。ま、メニューにマップもあるから迷子にはならないしな……んじゃ、ちょっくらここを離れて、郊外で射撃練習してみるか?」


 それが、オレがこのVRMMORPG BulletSにどっぷりハマった日だった――

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