第6話 初お風呂
ワンピースのままだったので、スウェットとジーンズに着替え、しばらくぼーっとしていた。
なんか長い1日だったな……23時まで、まだ時間あるな。お風呂でも入るか。……お風呂、……そう女の子の身体での初風呂!
――これは元童貞現処女にはハードル高いぞ! これもTSFのイベントのひとつだ。まさか自分がやることになるとは……。「ある!ない?」はやったし、着替えは有耶無耶のうちに済ませたし、水着を着るにはまだ季節的に早い――とはいっても幼児体型だしなぁ。
ゲーム内では戦闘するだけで、ダイブは長くても5時間。アバターはそもそも汗をかかないから、服を脱いで自分の身体を見ることもなかった。あ、THX-1489のカタログは、たしか服を着てなかったけど、単なるホログラムだったし。
風呂は元に戻るまでほぼ毎日入るわけだから……まぁ、「ある!ない?」をしたから少しは自分の身体には慣れたといえば慣れたけど……これだから童貞は、と秀明に笑われそうだ。
湯船にお湯を張りながら意を決して全裸になるけど、いざ裸になっても全身が見えないから、ま、こんなもんだろって感じだ。
掛け湯がわりにシャワーを浴びる。男のときより約20センチ近く背が低くなってるんで、シャワーヘッドが遠い。
お湯が溜まったので湯船に浸かる。おお〜今まで少し狭く感じた湯船が広いし深い! 下手すると沈んじゃいそうだ。
賃貸マンションとはいえ、ユニットバスじゃない物件を選んでよかったな〜
ゆったりと手足を伸ばして、リラックス……。
髪を洗うにも、長いからシャンプーをいつも以上に使ってしまった。女の子は大変だなぁ……あ、リンスは普段使ってないから、明日にでも買いにいかなきゃな。
次に身体を洗う。一応女の子の身体だから、いつも使っているボディタオルだと傷がつきそうなのでスポンジで洗うことにした。
大事なところ――梓ちゃんが言うところのつるぺたと胸は手でよく洗って、変な気にならないように注意注意……身体をよく見て触りたいけど、今日はそんな気分じゃないし、23時にユーザーページにログオンできるかが気になったので、やめておいた。
もう1度湯船につかり、考える。もしログオンできなかったら……このままアバターの姿で過ごすことになったら……さっき梓ちゃんには、それならそれで女の子で生きていくしかないよな〜とは強がってみたものの不安しかない。
気を取り直して、バスタオルで身体を拭く。あ、パンツは替えを買ってきてもらったけど、パジャマがないぞ。
仕方なくいつも着ているパジャマの上だけを羽織る。う、なんか男くさい。自分のだからしかたないか……しかもデカイ! これ、リアル彼シャツだなぁ。
髪を乾かすのも一苦労だ。ドライヤーなんて持ってないから、タオルでごしごしして乾かすしかないな。
ほんっと、女の子は大変だ……。
時間を確認するともう23時を過ぎてる! やばいやばい。ユーザーページにいってログオンできるか試してみなきゃ。
昼間に秀明がログオンしてたから、自分のIDとパスワードを入れ直す――やった、ログオンできた!
これで第1関門は突破だな……。
ん? 今回の緊急メンテナンスについてのお知らせに追加報告がある。
『Title:いつも本VRMMORPG BulletSをお楽しみいただきありがとうございます。
緊急メンテナンスの不具合対応完了をお知らせいたします。
XX月XX日23時00分に下記不具合の対応が完了いたしました。
若干名のプレイヤー様が、「2重ログオンできません」のメッセージが表示され、再ログオンができない状態となっておりましたが、修正がすべて完了し正常にログオン可能となりました。
プレイヤーの皆様にご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げますと同時に、このような不具合が発生しないよう、更なるシステム強化に取り組んでまいります。
重ね重ねこの度はプレイヤー様にご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。
今後とも、本VRMMORPG BulletSをよろしくお願いいたします。』
「……なにこれ? こんだけ? すべて完了だって?」思わず声に出してしまう。
タオルで髪の毛を乾かしながら秀明にビデオ電話をかける……も、しばらくコールが続くがすぐに出ない。やがて――
『もしもし?』
「秀明? オレ、」
『お、おう、忍。サイトにログオンできたか?』あら~秀明ったら上半身裸だし。
「うん。できたにはできたけど、運営の不具合完了報告見た?」
『わりい。ちょっと立て込んでて、まだ見てない。今、見てみるから……』
『あ、忍さんだ〜』って梓ちゃんの声がする……なんだよこいつらやっぱり一緒だったか……立て込んでてって……ま、いっか。
『……え、これだけ?』完了報告を見た秀明も同じ感想だ。
「だろ? アバターの姿のままってのやっぱり非公開なんだね。メールの返信来てるか見てみる」
『そうだな、まだギア使っていいかわからんしな』
「うん……あ、来てる」
『なんだって?』
「ちょっと待ってね」そこには――
『Title:VRMMORPG BulletS 重要なお知らせ2
【高岡忍】様
いつも本VRMMORPG BulletSをお楽しみいただきありがとうございます。
不具合完了報告にも記載させていただきましたが、プレイヤー様1,024名が、「2重ログオンできません」のメッセージが表示され、再ログオンできない状態につきまして、本日23時00分に対応が完了し、正常にログオン可能となりました。
また、先ほどメールに記載させていただいた現実世界においても、アバターの姿となっているプレイヤー様128名のうち112名の切断処理が完了いたしました。
しかしながら、いまだ切断対応中のプレイヤー様が、【高岡忍】様を含む16名となっております。
【重要】
現在、引き続き安全な手法での同期切断処理を行なっておりますので、対応が完了し、御報告さしあげるまで、決してギアを使用してのダイブを試みないでください。最悪の事態として、生命に危機を及ぼす事象が発生する可能性がございます。
重ね重ねこの度はプレイヤー様にご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。
今後とも、本VRMMORPG BulletSをよろしくお願いいたします。』
「だって。オレ以外にもアバターの姿のままのプレイヤーが15人いるらしい」
『まじか……』
「うん……まだ引き続きアバターとの同期切断処理をしてるらしいから、最初の128人から16人になったってことはさ、戻れる可能性あるんだよな、秀明?」
『……あ、ああ。そうだな』なんとなく歯切れが悪い。
『忍、冷静になってよく聞いてくれ……』
「……」
『強制ログアウトされてアバターとおまえの接続が切断されずに、もうかれこれ24時間経つよな』
「うん、」
『運営システムの技術者が徹夜してるかは知らんけど、ずーっと対応してるわけだろ? これって通常じゃ考えられない状態だよな……』
「……」
『128人が16人に減ったとしても、それってもしかしたら簡単に接続が切れたプレイヤーが112人、残りの16人って……』
「秀明、言いたいことはわかった……オレもオンライン系じゃないけどSEの端くれ……」
『うん……』
「覚悟はしておいたほうがいい……ってことだろ? わかった」
『すまん、今はこれくらいしか言えない。変に望みを持たないほうがいいかと思って……』
「そうだよな、システムは常に最悪の事態を想定しておかなきゃいけないもんな」
『ああ』
「……疲れたから、今日はもう寝るわ」
『うん。明日またそっちに行くよ』
「うん……じゃな、秀明。サンキュー」
いっそのことギアを使ってダイブしようとしたけど、思いとどまり寝ることにした……。
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