第5話 朝おんの翌日

 VRMMORPG BulletS初期の頃のことを思い出しているうちに、寝てしまった。

 翌日、元に戻れた夢を見て目が覚める……も、やっぱりアバターの姿のままだった。

 ベッドの上に見事なぺたんこ座りでへたりこんでぼーっとしていた……しばらくするとお腹が鳴り出す。そういえば昨日は英明たちが買ってきてくれた野菜ジュースとミックスサンドしか食べておらず、夕食も摂らなかったんだ。

 いま何時だ? 昨夜も早寝したから6時半だ。

 のそのそ起きだして、お湯を沸かす。カップ麺でも食べよう。

 今気づいたけどメガネなくても物がよく見えるようになってるな。これってアバターの身体だからだろうな。乱視がひどく、左右で縦方向と横方向に見え方が違って星なんて一つじゃなくて、縦と横に数個ずつ見えるんだよな……。

 そんなことを思い出しているうちにお湯が沸いたので、カップ焼きそばにカヤクを入れてお湯を注ぐ。焼いてないのに『焼きそば』なんて、矛盾してるな……まるでなんか今の自分みたいと思いながら、3分後お湯を切ってソースとふりかけを混ぜ混ぜ……。

「いっただきま〜す」あ、オレの声かわいいな……なんて思いながら食べ始める。

 昨夜の英明の言葉を思い出す。

『128人が16人に減ったとしても、それってもしかしたら簡単に接続が切れたプレイヤーが112人であって、残りの16人って……』――そうだよな。

 いまだにアバターの姿のままってことは、おそらくシステム的に最悪のケース、同期が解除出来ないってことなんだろうな……。

 ユーザーページを見ても、メールをチェックしても進捗は書かれていない。


 なんとなく普段あまり見ないTVをつける。

 日曜の朝なんてどうせTVショッピングしかやってないよね〜と、期待せずにザッピングするとニュース番組をやってて画面左上に『VRMMORPG BulletSでトラブル?』の文字が出てる――。

 え? これって……。

 MCとなんか胡散臭いコメンテーター。そしてアバター姿の男が映り、なにやら捲し立てている。

 このアバター、シューメイみたいな接近戦用っぽい姿でスキンヘッドに顔は古傷だらけ――いかにもって感じだ。

 その男が「わたしはVRMMORPG BulletSで強制LOGOUTされて、今現在もこのアバターの姿で元に戻れていないんです」

「それってつまり、VRMMORPG BulletS内の姿のままってことですね?」と間抜けな感じでMCが聞く。

 コメンテーターは「これは絶対、VRMMORPG BulletSのバグであなたは被害者なんですよ! なんとしてでも……」

 オレと同じ状況の人がネット内だけではなく、TV、マスコミに表立って出てきてしまったようだ。

 そしてスキンヘッド男が「私以外にも十数人、同じような人がいるんですよ! VRMMORPG BulletSの運営は、事故以降『現在、引き続き安全な手法での同期切断対応を行なっております』の一点張りで、なんの進展もないんです! しかも、何名かがギアを被ってダイブして、死亡してるっていうじゃないですか!」

 あ〜運営からのメールに書いてあった【重要】の部分をすっ飛ばして説明してるし。

 事を荒立ててどうしようってんだ?


 ダイブして死亡した人がいるなんて眉唾ものだし……と、呆れてると英明から電話がかかってくる。

『忍! 起きてるか? いまTVで大変なことになってるぞ!』

「うん、今見はじめたところ……」

『なんだよこいつ、事を荒立ててもしょうがないのに何やってるんだろうな?』

「オレもそう思う……原因はVRMMORPG BulletSだけど、これじゃ事態を悪化させる一方だよな」

『世の中には目立ちたいっつーか、事を荒立てるヤツがいるからな』

「うん。オレはこのまま運営の対応を信じて待つつもりだけど、もし身バレとかしたらヤバいよな」

『あのアバター男が出てきたってことは、おまえの身バレ、可能性もゼロじゃあないな……でもこれってもしかしたらチャンスかもしれないぞ?』

「へ?」

『ほら、おまえがアバターの姿のままになった事を会社に説明するのにちょうどいいだろ?』

「あのな〜その前にアバターが女性ってのが……」

『そりゃ自業自得ってもんだろ?』

「うぅぅ~それ言われるとなぁ……」

『まぁ、オレもアズサも知ってるから、証人にもなれる』

「ん〜それはそうだけどさ〜。それより身バレしてマスコミとかに押しかけられたら嫌だ……」

『ん〜それはなんともならないな……。ま、とりあえず今日もそっちに行くから安心しろ――あ、なんか買って行くか?』

「とりあえず、食べ物と飲み物! 昨日買ってきてもらったサンドウィッチしか食べてなくて、今やっとカップ焼きそば食べてるだけだから……」

『なんだよ〜。全然食ってないんかよ〜。あ、あとアズサがまた何着か服、持って行くってさ』

「えぇぇ〜もうファッションショーは懲り懲りだよ〜」


 英明とアズサちゃんが来るまでTVを観る。

 スキンヘッド男が、胡散臭いコメンテーターに煽られてVRMMORPG BulletSを訴えるような事を言ってる……んな事したってアバターから戻れるもんじゃないのになぁ。

 民事訴訟を起こして損害賠償で訴えたって、判決が下るまで数年はかかるだろうし、そんな事する前に同期解除はされるはず……だよなぁ……なんか自信無くなってきたけど。


 今日は日曜だし運営の中の人も休日出勤して対応してくれてるんだろうな。下手すりゃあの強制LOGOUT以降、英明が言うように徹夜だったりして……なんか自分の状況を忘れてちょっと気の毒になる。

 つくづくオンライン系システムやってなくて良かったな――あ、銀行のシステム改修やってたときは土・日・夜間や12月29日から1月3日に載せ替えるなんてのはザラだったけど、それってトラブったわけじゃないし、期日はあったしね。。

 マスコミ?プレイヤー?が暴露したことでVRMMORPG BulletS側になんか動きがあるかと思い、サイトを見ても放送のせいで案の定『503 Service Unavailable』となってる――これじゃどうにもならないな〜。

 朝一番でサイトをチェックしなかったのをちょっとだけ後悔したけど、そうかメールなら……とメールをチェックするとやっぱり来ていた。


 そこには――。


  Title:【緊急】VRMMORPG BulletS 重要なお知らせ3

  【高岡 忍】様

  いつも本VRMMORPG BulletSをお楽しみいただきありがとうございます。

  本日早朝、TS-TVの報道番組におきまして、下記の報道がございました。

  1.『現実世界においても『アバターの姿となっている』状態のプレイヤー様が十数名存在している。

  2.何名かがギアを被りダイブして死亡した。

  お知らせしております通り、1.に関しましては、【高岡 忍】様を含め16名のプレイヤー様につきまして同期切断対応を継続中でございます。

  しかしながら、2.に関しましては、全くの事実無根であり、番組に出演されていた『プレイヤー』と称する方の推測に過ぎませんし、『プレイヤー』と偽っている可能性もございます。

  この件に関しましては該当プレイヤー様の特定作業を行なっております。

  従いまして、皆様におかれましては引き続き安全な手法での同期切断対応を行なっておりますので、対応が完了し、御報告さしあげるまで、決してギアを使用してのダイブを試みないでいただけますよう、お願いいたします。

  また、今回のような風説の流布が発覚次第、告訴も含めた刑事および民事の法的措置を取る用意があることを申し添えておきます。

  重ね重ねこの度はプレイヤー様にご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。

  今後とも、本VRMMORPG BulletSをよろしくお願いいたします。


 なんか進捗、警告、弁明と謝罪がごちゃ混ぜになってるぞ。

 運営の中の人も大混乱だな……でも最初のメールから見直してみたけど、事実を広めることに関して禁止の文言ってなかったな。

 これは運営の落ち度じゃないか? ま、どっちみちオレは公表もする気はないし、第一自分の身を守るのと、早く同期切断されるのを待つだけだな……。

 プレイヤーの特定なんて16人しかいないんだから、もう完了してるんだろう。

 だから出演していたスキンヘッド男って、運営のメールの通り『プレイヤー』じゃない可能性大だな。

 それもあって、今回のメールには警告的な文言が入ってるんだろうな……そんなことを思っていると……。


 ピンポ〜ン♪

 ドアチャイムの音がする。あ、英明たちだ……。ん? ちょっと早いかな。ま、いっか。

「は〜い! 今行くよ〜」

 オレはうかつにもドアフォンのモニターを見ずに開錠し、チェーンを外してドアを開けてしまった。


 そこにはスーツ姿の男が二人、立っていた……。

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