第42話 フレンドリーマッチ

 日曜日の夕方。

「いや〜疲れた〜」秀明が研修から帰ってくる。

「おかえりなさ〜い英明くん。お疲れ様〜部屋着に着替えてくださいな〜」いつものように甲斐甲斐しいアズサちゃん。

「すぐ夕ご飯にしますね〜」とキッチンに立つ。

「おう、サンキュ」

「おけり〜」オレは普通に英明を迎える。


 荷物を置いてスウェットに着替えてきた秀明。開口一番「デート、どうだった?」とオレに聞いてくる。

「は、はいぃぃ?」

「俺が留守するって言った時、アズサが『忍さんとデートするんだ〜』って言ってたからな」

「ま、まぁ、あれがデートといえばデートと言えなくもないかなぁ……」

「アズサはさ、忍のことほんと妹と思ってるから、よろしくな」

「う、うん……」


「な〜に二人でこそこそ話してるんです〜? ほらみんな、ご飯できましたから取りに来てくださいね〜」

「おう」

「は、は〜い」


 夕食時、「英明くん、土曜日に忍さんとデートしちゃった〜。忍さん、髪キレイになったでしょ〜? それからネイルもしたんだよ〜気がついた?」

 オレは秀明に、ほら〜とネイルを見せるも、

「ん? あ、そういえばそうだな〜」といつもの薄い反応。

「んも〜まったく秀明ったら〜! 少しは女の子の変化に気がつかないとダメでしょ〜? おっぱいばっか見てないで〜。わたしだって髪も整えたし、ネイル付け替えたんだから〜」

「あ、ああ」

 あ〜なんか普段の二人の会話だな〜。


 そんな話をしている時、オレの携帯が鳴る。栗山さんだ。

「もしもし〜高岡です」

「日曜の夜分にすみません――」

 栗山さんからの話は2点。

 要望があった『鷹の目』の有効無効の切り替えと、装備のストレージへの再格納機能の実装は特に問題なく完了した。

 参加チームについては思ったより集まりが悪く――過去準優勝以上のチームリーダーに連絡して2週間以上経っても参加希望が3チーム――1ヶ月前の開催を、3週間前に変更したいとのこと。

 オレは異論もないので、承諾し電話を切った。


「フレンドリーマッチって、たしか次の日曜日でしたよね〜?」とアズサちゃん。

「う〜ん、なんかヤツらの陰謀か?」

「ま〜た秀明そんなこと言うし〜」

「ま、本当にチームが集まらないんだろうな。大会前で皆忙しいだろうし」

「でも1週間延ばしてもチームは増えないんじゃないかな。賞金も出ないしさ。でも次大会のシード権はもらえるらしいよ?」

「そうなんだ……俺らは『鷹の目』なしでの戦闘シミュレーションがメインだから影響はないな」

「そうだね〜。相手3チームならアズサちゃんのリアルスキル『暗記』で行けそうじゃん?」

「ええぇ〜?」


 翌日会社で女子社員から、「そのネイルどしたの〜?」「あ、かわいい色〜」とか、「髪キレイになったね〜」と割と受けがよく、オレは1週間余裕ができたのもあり、大満足だ。

 秀明もアズサちゃんとオレの擬似姉妹ごっこにもなんだか余裕を持って見ていられるような感じだった。

 特にもめることもなく平日夜は数時間、土曜はほぼ半日訓練を続け、銃弾を山ほど買い込む。契約通り代金はアストラル・ゲームス持ちだ。



 フレンドリーマッチ当日。

 あらかじめ『鷹の目』は無効にしてあると崔部長から聞いている。

 そしてVRMMORPG BulletS RECOIL本戦とは異なり、4キロメートル四方のフィールドで、廃都市だけとのこと。

 それなら狙撃に有利な場所を押さえられそうだ。戦闘フィールドは狭いから、1時間以内に決着はつくだろう。


 参加するチームは結局4チームで、相手はチームMR、チームK・Y。残る1チームは4人編成で初手合わせのチームP4……Pって前にP Kで倒したヤツかな? ま、『P』なんてプレーヤーはどこにでもいるだろうけど。

 転送されるまでの10分間、アズサちゃんが待機場でチーム名と人数を覚える。武者震いか恐怖か、ちょっと震えてるアズサちゃんの肩をシューメイが抱いてあげている。

 リーダーの場所さえわかれば、その周辺50メートルくらいにはメンバーがいるから『天の秤目』で索敵できるはずだ。


 10分後、戦闘フィールドに転送され、聞いていた通り『鷹の目』は発動しない。

 廃都市なので決めていた戦略通り最初の10分スキャンの前にほとんど転送場所から移動しない。当然、ハンヴィーは未使用。

 オレは狙撃に有利で屋上が広そうな10階建てのビルに昇り『天の秤目』で数十メートル範囲内を索敵。周囲には敵がいないことをインカムでシューメイとアズサちゃんに伝えると、二人は9時方向の隣のビルに潜り込む。


『つまらんなぁ。この狭いフィールドで4チームだと、こっちから打って出ないと全チーム膠着状態じゃないか?』

「それもあるかもな〜。第一賞金出ないし〜」

『またそれか』

「まぁ今日はシード権欲しいチームは動いてくるだろうし、短期戦になるから10分スキャンでリーダーを見つけたら場所を指示する。シューメイはロケットランチャーで敵を燻り出して。接近戦になっても、レアスキルは使わないように。アズサちゃんはシューメイのサポートよろしく。同じくレアスキルはできるだけ使わないように」

『はいぃ〜』

『わかった。で、シノブは?』

「オレは敵を見つけ次第、ASM338(AWSM)で狙撃する。もちろんシステムアシストなしでね。あと、相手がRedだったらPGMヘカートIIで対抗する……たぶん」


 さ〜てと、あともう2分で最初のスキャンだ。

 屋上の大型空調室外機のコンクリート製土台の間に潜り込み、ASM338(AWSM)を実体化させる。

 これなら付近に敵がいてもRedでもない限りオレを倒すことはできない……よな。たぶん。

 カイとユーサクは前回と同じようにどこかの建物内に潜んでるだろう。けど、バレットラインが見えたらシューメイに指示する。

 マサシとRedは……真っ向から勝負してきそうだ。念の為PGMヘカートIIも実体化させておくか。

 一番わからないのはP4……ま、バレットラインか銃撃音がしたらその付近を覗いてみるか。


 ――最初のスキャンで、MRが3時方向、P4は12時とうまくバラけてるけど等間隔ではない。K・Yの二人は思ったとおりマップ上に表示されていないけど、おそらく1時30分方向に隠れてるんだろう。

「K・Y以外の場所、わかったけどどうする〜?」

『一番近いのは?』

「ん〜っとね、12時方向にP4。距離2,400……『鷹の目』が使えればな〜スキャンの間をついて奇襲できるんだけどな〜」

『それじゃこのマッチ戦の意味がない』

「そりゃそうだけどさ〜。次のスキャンまで様子見かな〜」

『ああ』


 2回目のスキャン。

「あ、P4が1,800くらいに近づいてきてるな〜。ちょっと見てみるか〜」

『ほ〜打って出たか!』

「うん、有効射程に入ったらまずリーダーを倒して、その周りを索敵してみる」

『まかせた』

 約4後、ASM338(AWSM)の有効射程に入ったP4のリーダー、ピーチを倒す。

『シノブさん、あと残りはリーダーになったピーターと、ポンチョ、ピートの3人です』

 あ〜だから、P4なのね〜。

「ありがと〜。了解!」

 周囲数十メートルを索敵、残り三人とも『DEAD』表示にする。


 3回目のスキャン。

「お〜K・Yが1時方向、距離2,500にいる。スキャンの間に真っ直ぐこっちに進んできてたんだろうな。あ、MR2時方向、3,200。K・Yに向かっている感じかな。K・Yはシューメイとアズサちゃんに任せる」

『おう、まかせとけ』

『は、はぃ〜』

「MRはオレが警戒し引き受ける! また直接対決だ」


 4回目のスキャン。

「K・Yは同じく1時方向、距離1,700。次のスキャンの数分後、ロケットランチャーの有効射程に入るから準備して」

『それよりMRはどうなんだ?』

「同じく1時方向2,400。勘違いならいいんだけど、K・Yと共闘してるくさい」

『え? あいつらの接点なんて……』

「いや、ゼロじゃないよ。MRに会ったバーって、オレたちの『始まりの街』じゃん? K・Yと会ってても不思議じゃないし、メンバーを探してたしね」

『やばいな……』

「うん、ものすごくやばい。とにかくK・Yは二人でなんとかして。オレはMRの動きに注意する……」


 スキャン5回目。これが多分最後のスキャンだろう。

 1時方向からK・YとMR2チームの攻撃。

 MRのリーダーはRed。当然マサシはスキャンに映らない。レアスキルの範囲にも見えない。

 シューメイはK・Yに対してロケットランチャーをとにかく撃ちまくり、アズサちゃんは支援にまわる。マサシはおそらくオレに向かってきているか、K・Yと合流しているかのどちらかだ。


 オレはといえば、約1,600メートル離れたPGMヘカートIIを構えたRedと対峙。

 訓練したASM338(AWSM)での.338ラプアマグナム弾の有効射程は1,500メートル。あまり訓練していなかったPGMヘカートIIは12.7x99mm NATO弾で1,800。

 いずれにせよ、今のオレは前回対決した時とは違う。ゼロインの基礎知識をゼロから学んだ。

 銃を静止させる。ターゲットに集中せずレティクルに集中……今日は幸いにも無風だ。トリガーを一定の速度で引くだけだ。

 Redはオレが前回同様アシストシステムを使ってくると油断しているはずだ。

 オレは『天の秤目』のレティクルに捉えたRedの頭ではなく左肩を狙い、ゆっくりとASM338(AWSM)のトリガーを引く――。


 ――致命傷ではないが、被弾エフェクトからするとかなりのダメージを与えたはずだ。レティクル内に見えるRedは顔をしかめ反撃してくる様子はない。戦闘続行不能だろう。

 それでもオレはすぐに回避行動を取り、シューメイとアズサちゃんが戦闘を続けている区域を索敵。

 アズサちゃんは可哀想に『DEAD』表示になっていたが、シューメイは健在だった。

 シューメイの1時方向には2つの『DEAD』表示。カイとユーサクか。

 まだ戦っているということは……おそらく相手はマサシ。

 マサシをレティクル内に捉え、オレはASM338(AWSM)で狙撃。



「怖かったよ〜ぉ! 痛かったよぉ〜! シューメイくんが守ってくれなかったよぉ〜!」

 待機場で待っていたアズサちゃんがオレに抱きついてくる。アバターだから泪は出ないけど、ほんとは大泣きなんだろうな。

「まぁあの状態じゃアズサちゃんを守るのはちょーっとキビしかったからね〜。なんせ2対3だったから」

「それにしたってぇ〜」

「まぁまぁ……」アズサちゃんの背中をさすってあげる。

「ほら、シューメイも……」

「アズサ、よく頑張った」アズサちゃんの頭を撫でる。

「う、うん……」


 チームP4とチームK・Yは全員死亡。

 チームM Rは一人死亡、一人戦闘不能。

 チームS・S・Aは一人死亡、二名生存。


『鷹の目』を使わないマッチとしては一応の戦果を残し、フレンドリーマッチは終了した。

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