第43話 第6回VRMMORPG BulletS RECOIL
フレンドリーマッチが終わり、ラウンジにも寄らずLOFOFF。
本戦とは異なり予選もなく18時始まりだったから、もうそろそろお腹も空く時間だ。
リビングに行くと――「本当に怖くって痛かったよぉ〜」他人の目もないのでアズサちゃんグスグス泣いている。
「悪かった。守ってやれなくて本当にすまん。でもな、あれは……」秀明がオロオロしている。
まあ一度くらいは撃たれて死なないと、ゲーマーとして経験値は上がらないしな〜とは思ったけど口には出さず、かわりに褒めてあげる。
「アズサちゃんのおかげで勝ったようなもんだよ〜? それにしてもなんだっけ? チームP4の4人。ピーチ、ピーター、ポンチョとピートってなに〜? って感じだよね〜」
「あ、あはははは〜」泣き笑いするアズサちゃん。
「アズサちゃんは頑張った! 偉い!」とオレはアズサちゃんをハグする。身長差でアズサちゃんに抱っこされてるように見えるけど。
「忍さん、ありがと〜」と逆にオレの頭を撫でてくる。
秀明もこんな状況だから文句も言えないだろう、へへへ〜と思ってたら「忍、お前どさくさに紛れてなにやっとんじゃ〜!」
「あ、ばれた〜? あははは〜」
頭を小突かれる。
「痛ったぁ〜! アズサちゃ〜ん! 秀明が暴力振るう〜」
「秀明くん! 忍さんはわたしを慰めてくれてるんですよ〜誰かさんと違って〜」
「うっ……」
「でも、二人とも気を使わせちゃってごめんなさい――。そろそろご飯にしましょうか〜」
「お、おう」
「は〜い」
「あ、そうだ。栗山さんにお礼電話しなくちゃね」
「そうだな。俺たちのためだけじゃないかもしれないがマッチ戦を用意してくれたからな」
「そうですよね〜」
「もしもし〜高岡です、日曜の夜分にすみません――」栗山さんに電話。
フレンドリーマッチ開催のお礼と、予定通り戦闘フィールドに転送されても『鷹の目』は発動しなかったことを報告した。
そして、「第6回VRMMORPG BulletS RECOILは必ず優勝しますね!」と電話を切った。
◇
「栗山さん、高岡さんからですか?」と、崔が栗山社長に問いかける。
「ああ。『鷹の目』は発動しなかったし、第6回大会は必ず優勝する……とさ」
「……」
「予定通り、現時刻から大会開始直前の20時まで『鷹の目』は有効にし、大会開始から終了まで無効にする」
「……」
「まぁそんな顔しないでくれ。強者といえど、いつかは負けるものだよ」
「そ、そうですね……しかし」
「崔くん、これは決定事項だよ。それにプレイヤーは常に強い相手を倒したい、自分たちのチームが優勝したいと思っているんだ。ましてやプロ契約チーム以外でも優勝できるとわかれば、プレイヤー数アップに繋がる」
「……承知しました」
崔はタブレット端末で現在無効になっている『鷹の目』のモードを有効にし、21日後の日曜日20時に無効になるようセットした。
◇
3週間後の日曜。
今日は少し余裕を持って大会に臨もうと、19時に三人でLOGON。
そろそろ予選が終了し、本戦進出チームが決まる時間だ。
今回は2度目のディフェンディングチャンピオンとして迎えた第6回VRMMORPG BulletS RECOIL――プレイヤーレベルはアズサちゃんは150、オレたち二人は前回同様の300だ。
初参加のアズサちゃんはラウンジの隅っこに縮こまっているが、チームS・S・Aのメンバーということで注目の的だ。
19時50分に待機エリアに向かう。
前大会と同様に欠場などで繰り上げを含めたシード権があるのは第5回大会の上位4チームと、フレンドリーマッチで健闘したチームMRだ。
出場チーム一覧を見ると、チームMRがない。おっかしぃな〜とよっく見ていくとチームMRKYとあり、プレイヤー名がマサシ・Redそしてカイとユーサク――アイツらやっぱり結託したんだ! ま、こっちは一度断った訳だから文句の言いようもないけど釈然としない。
アズサちゃんはぶつぶつと出場チーム名と、リーダー名、人数を覚え始めている。
「あ、アズサちゃん。今回は『鷹の目』使えるから無理して覚えなくても……」
「いいえ〜、わたし『鷹の目』のデータ共有が今回初めてなんで〜マップと照らし合わせるのに覚えておきたいんですよ〜」
「そういえばそうだね〜。じゃ、スキル『暗記』頼むよ〜」と、その時は軽く考えていたんだ――。
20時に8キロ四方の戦闘フィールドに転送される。
今回の転送先は前大会とは異なる廃都市――マッチ戦とおなじだが、違和感。
なんだ? 転送されると同時に視野が一気に広がり、マップと同様に俯瞰できるように――ならない! つまり、フレンドリーマッチと同じ状態、『鷹の目』が使えなくなっている!
「シューメイ、アズサちゃん! やばい! 『鷹の目』が使えない! どうしよう!」
『シノブ、まずは落ち着け。何かの間違いじゃないか?』
「いや、間違いなんかじゃない! 転送されると視野がマップと同じになるんだけど、そうならないんだ!」
『事故なのか故意なのか……なんか怪しい。ヤツらの陰謀か? 速攻で近くのビルの屋上に移動して遮蔽物に隠れろ。そしてそこで最初の10分スキャンをやり過ごせ!』
「陰謀?」
『その話は後だ。とにかく移動しろ!』
「わ、わかった。すぐ移動する」
『俺たちはシノブの9時方向のビルに潜る。前回のフレンドリーマッチと同じだ。思い出せ』
「わかった。え〜と、じゃ、アズサちゃん敵チーム名と人数は覚えてる?」少し頭がまわり出す。
『はい、ある程度は。ですから、チーム名かリーダー名を教えてください。そこから人数を思い出しますんで』
「うん、頼りにしてる!」
最初のスキャンまであと3分。
オレは屋上の『変電設備』とプレートがある、でっかい金属製の筐体――これキュービクルっていうんだっけ?――のいくつかある扉を片っ端から開け、その内の割と空間がある一つに潜り込む。この時ばかりは自身が小柄なことに感謝した。
金属製だからスキャンに引っ掛からないとは思うけど……。
スキャンの時間。
マップを見ると自分の位置はわかるが、チームS・S・Aの表示はない。これで一安心だ。
その代わり数キロ範囲内には――9時方向4,090にMP、3時方向に……げっ、MRKY! 距離2,040だ。
「アズサちゃん、9時方向約4,000にMPってチームがいる」
『あ〜それたしか6人編成でした。できれば回避したいですね〜』
「そうしよう……シューメイ、3時方向にMRKY距離2,040。こっちを先に叩くしかないな。そうしないと挟み撃ちにされる」
『そうだな。MRKYさえ先に叩いておけば勝機はある』
「今オレ、キュービクルの中にいるんだけどスキャンをやり過ごせたみたいだから、なんとか3時方向に穴あけてそこから射程距離に近づいたら狙撃する」
『おい、どうやって穴なんてあけるんだ?』
「2,000じゃ銃声も聞こえないだろうから、こういう時のM16A3さ。ほんとは手榴弾使いたいけどね」
『なるほどな。健闘を祈る。じゃ、ヤツらを倒したらシノブは地上に降りてこい。ハンヴィー用意して派手にやらかそうぜ!』
「そうこなくっちゃな!」
2回目のスキャンの前に分電盤のブレーカー類の隙間、3時方向にM16A3で銃口を作る。
すぐさま『天の秤目』で索敵と測距。うまいことMRKYたちがASM338(AWSM)の射程内に近づいてくる。
ヤツらを倒せば勝機はある!
Red――その姿がレティクル内に……落ち着け落ち着け、落ち着けオレ!
銃を静止させターゲットに集中せずレティクルに集中、トリガーは一定の速度で引くんだ。
オレはレティクルに捉えたRedと眼が合ったように思えたが、構わず頭を狙いトリガーを引く――。
――しまった! 風を考慮していなかった! と思った矢先、左肩に重い衝撃を受け、被弾エフェクトが煌めく。回避行動をとるも、HPゲージが下がっていく。ちくしょ〜Redめ〜! さすがPGMヘカートIIだけはある。分電盤なんて防壁にもならないな……と思っているうちにやがて視野が暗転した。
なぜか優勝できなかったことより、Redにあっさりと負けた方が悔しかった。
でも、フレンドリーマッチを入れるとまだ三勝二敗の勝ち越しだ。
◇
気がつくと、待機エリアに一人。
シューメイとアズサちゃんはまだ戦っているんだろうな。
と思っていると、二人も待機エリアにやってくる。
「MPのヤツらに瞬殺された」
「またやられちゃいました〜。でも痛いの少し慣れちゃいました〜」
「あははは〜残念だったな〜。でも何で『鷹の目』発動しなかったんだろう?」
「さっきも言ったとおり、これは俺の推測だがフレンドリーマッチの時のように運営が『鷹の目』を無効化したんじゃないか? アイツら前に……プロ契約した時だっけ? 『プレイヤーは常に強い相手を倒したい、自分たちのチームが優勝したいと思っている』みたいなことを言ってたろ?」
「ん〜だからといって、そんなことするかな〜」
「い〜や、ヤツらならやりかねん」
「陰謀ねぇ〜。でもさ、『鷹の目』なしで負けたんだったら、それが今のオレたちの実力ってことだよ。現にオレはRedに負けた」
「そか。でもRedもMPにヤられたっぽいぜ?」
「まじか。もしかしてMPってプロ集団?」
「それはわからん。じゃ、オレとアズサはひと足先にLOGOFFする」
「シノブさん、お先に〜」
「うん。じゃまたあとで〜」
オレは大会の実況を見るため、会場内のラウンジにあるバーに行く。
「あ、シノブさ〜ん、今日は調子悪かったすねー!」
「次回は期待してますぜー!」
「今日はどうしちゃったんですか?」
口々にギャラリーやら、先に倒された連中から言われる。
「まあ、そんな日もあるのよね〜」とはぐらかし、実況に目をやる。
そのうちMRKYもやってくるけど、カイとユーサクは目も合わさず出て行く。
マサシとRedがオレのところに近づいてくる。
「シノブちゃんさ〜、何であんなとこ隠れてたのさ?」
「あ〜やっぱりバレた?」
「うん。それに何で今日もヘカートII使わなかったのよ?」
「あ〜あれ、重いしね」
「うそね。それにあんた、今日『鷹の目』使えなかったでしょ?」
「なんでもお見通しなんだな〜」なんでそれをRedが? いや、まさかそんな……。
「やっぱりね〜」
「ね、前から聞こうと思ってたんだけどさ、崔部長からオレが『鷹の目』使いって聞いてないのに何でわかったのさ?」
「ん〜それは女の勘? かな?」
「う。そ、そうなのか〜」
「そゆこと。じゃ、次こそヘカートIIで勝負しなさいよね!」マサシを引き連れてRedが出ていった。
MPの優勝で第6回VRMMORPG BulletS RECOILは幕を閉じ、チームS・S・Aの優勝は半年後の第7回大会に持ち越された――。
フルダイブゲームシステムから強制ログアウトされたら『朝おん』した件 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima
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