第54話 第6回VRMMORPG BulletS RECOIL
フレンドリーマッチが終わり、ラウンジにも寄らずログオフした。
本戦とは違い、予選もなく18時スタートだったから、そろそろお腹も空いてくる時間だ。
リビングに行くと、「本当に怖くて痛かったよぉ〜」と梓ちゃんが他人の目もないのでグスグス泣いている。
「悪かった、守ってやれなくて本当にすまん。でもな、あれは……」と、秀明がオロオロしている。
まあ、一度くらいは撃たれて死なないとゲーマーとして成長できないしな〜とは思ったけど、口には出さず、代わりに褒めてあげる。
「梓ちゃんのおかげで勝ったようなもんだよ〜 それにしても、チームP4の4人、ピーチ、ピーター、ポンチョ、ピートって、なんだかな〜って感じだよね〜」
「あ、あははは〜」と梓ちゃんが泣き笑いしながら答える。
「梓ちゃんは頑張った! 偉い!」と、オレは梓ちゃんをハグする。身長差で、まるで梓ちゃんに抱っこされているように見えるけど。
「忍さん、ありがと〜」と、逆に梓ちゃんがオレの頭を撫でてくる。
秀明もこんな状況じゃ文句も言えないだろう、へへへ〜と思っていたら、
「忍、おまえどさくさに紛れて何しとんじゃ〜!」
「あ、ばれた〜? あははは〜」と、笑いながら頭を小突かれる。
「痛ったぁ〜! 梓ちゃ〜ん! 秀明が暴力振るう〜!」
「秀明くん! 忍さんは私を慰めてくれてるんですよ〜 誰かさんと違って〜」
「うっ……」
「でも、2人とも気を使わせちゃってごめんなさい……そろそろご飯にしましょうか〜」
「お、おう」
「は〜い」
「あ、そうだ。栗山さんにお礼の電話しなくちゃね」
「そうだな。俺たちのためだけじゃないかもしれないけど、マッチ戦を用意してくれたからな」
「そうですよね〜」
「もしもし〜、高岡です。日曜の夜分にすみません――」と、栗山さんに電話をかける。
フレンドリーマッチの開催に感謝し、予定通り戦闘フィールドに転送されても、『鷹の目』が発動しなかったことを報告した。
最後に、「第6回VRMMORPG BulletS RECOILは必ず優勝しますね!」と伝えて、電話を切った。
◇
「栗山さん、高岡さんからですか?」と、崔が栗山社長に問いかける。
「ああ。『鷹の目』は発動しなかったし、第六回大会は必ず優勝する……と言ってた」
「……」
「予定通り、現時刻から第6回大会開始直前の20時まで『鷹の目』を有効とし、大会開始から終了までは無効にする」
「……」
「まぁ、そんな顔しないでくれ。強者といえど、いつかは負けるものだよ」
「そ、そうですね……しかし」
「崔くん、これは決定事項だ。それにプレイヤーは常に強い相手を倒したいし、自分たちのチームが優勝したいと思っている。ましてや、プロ契約チーム以外でも優勝できるとわかれば、プレイヤー数が増えることに繋がる」
「……承知しました」
崔はタブレット端末で何体かあるアバターからTHX-1489を選び、『鷹の目』――システム位置情報共有サブシステム――のラジオボタンを有効にし、21日後の日曜日20時にOFFになるよう設定した。
◇
3週間後の日曜。
今日は少し余裕を持って大会に臨もうと、19時に3人でログオン。
もう30分もすれば予選が終了し、本戦進出チームが決まる時間だ。
今回は、2度目のディフェンディングチャンピオンとして迎えた第6回VRMMORPG BulletS RECOIL。プレイヤーレベルは、アズサちゃんが150、オレたち2人は前回同様、300だ。
初参加のアズサちゃんはラウンジの隅っこに縮こまっているが、チームS・S・Aのメンバーということで注目の的だ。
19時50分に待機エリアへ移動。
前大会と同様、欠場などで繰り上げシード権を得たのは、第5回大会の上位4チームと、フレンドリーマッチで健闘したチームMRだ。
出場チーム一覧を見ると、チームMRがない。おかしいなと思ってよく見ると、チームMRKYとあり、プレイヤー名がマサシ、Red、そしてカイとユーサク――アイツらやっぱり結託したんだ! ま、こっちは一度断っているから文句の言いようもないけど、釈然としない。
アズサちゃんはぶつぶつと出場チーム名、リーダー名、人数を覚え始めている。
「あ、アズサちゃん。今回は『鷹の目』使えるから無理して覚えなくても……」
「いいえ〜、私『鷹の目』のデータ共有が今回初めてなんで〜、マップと照らし合わせるのに覚えておきたいんですよ〜」
「そういえばそうだね〜 じゃ、リアルスキル『暗記』頼むよ〜」と、そのときは軽く考えていたんだ――
20時に8キロ四方の戦闘フィールドに転送される。
今回の転送先は前大会とは異なる廃都市――マッチ戦と同じだが、何か違和感がある。
なんだ? 転送されると同時に視野が一気に広がり、マップと同様に俯瞰できるように――ならない! つまり、フレンドリーマッチと同じ状態、『鷹の目』が使えなくなっている!
「シューメイ、アズサちゃん! やばい! 『鷹の目』が使えない! どうしよう!」
『シノブ、まずは落ち着け。何かの間違いじゃないか?』
「いや、間違いなんかじゃない! 転送されると視野がマップと同じになるはずなんだ、でもそうならないんだ!」
『事故なのか故意なのか……なんか怪しいな。ヤツらの陰謀か? 速攻で近くのビルの屋上に移動して、遮蔽物に隠れろ。そして、そこで最初のスキャンをやり過ごせ!』
「陰謀?」
『その話は後だ。とにかく移動しろ!』
「わ、わかった。すぐ移動する」
『俺たちはシノブの9時方向のビルに潜る。前回のフレンドリーマッチと同じだ。思い出せ』
「わかった。え〜と、じゃ、アズサちゃん、敵チーム名と人数は覚えてる?」
少し頭がまわり始める。
『はい、ある程度は覚えてます。ですので、チーム名かリーダー名を教えてください。そこから人数を思い出します』
「うん、頼りにしてる!」
最初のスキャンまであと3分。
オレは屋上の『変電設備』とプレートがある、でっかい金属製の筐体――これ、キュービクルっていうんだっけ?――の扉を片っ端から開け、その中で割と空間があるひとつに潜り込む。このときばかりは自分が小柄なことに感謝した。
金属製だからスキャンに引っかからないとは思うけど……。
スキャンの時間――マップを見ると、チームS・S・Aは表示されていない。これで一安心だ。
自分の位置はわかるので、数キロ範囲内の敵を探す――9時方向4,090メートルにMP、3時方向に……げっ、MRKY! 距離2,040だ。
「アズサちゃん、9時方向約4,000メートルにMPってチームがいる」
『あ〜それ、たしか6人編成でした。できれば回避したいですね〜』
「そうしよう……シューメイ、3時方向にMRKY、距離2,040。こっちを先に叩くしかないな。そうしないと挟み撃ちにされる」
『そうだな。MRKYさえ先に叩いておけば、勝機はある』
「今オレ、キュービクルの中にいるんだけど、スキャンをやり過ごせたみたいだから、なんとか3時方向に穴あけて、そこから射程距離に近づいたら狙撃する」
『おい、どうやって穴なんてあけるんだ?』
「2,000じゃ銃声も聞こえないだろうから、こういう時のM16A3さ。ほんとは手榴弾使いたいけどね」
『なるほどな。健闘を祈る。じゃ、ヤツらを倒したらシノブは地上に降りてこい。ハンヴィー用意して派手にやらかそうぜ!』
「そうこなくっちゃな!」
2回目のスキャンの前に、分電盤のブレーカー類の隙間から3時方向へM16A3で銃口を作る。
すぐさま『天の秤目』で索敵と測距。いい具合にMRKYたちがAWSMの射程内に近づいてくる。
ヤツらを倒せば勝機はある!
Red――その姿がレティクル内に入る。落ち着け、オレ。落ち着け……落ち着け!
銃を静止させ、ターゲットに集中せずレティクルに意識を固定。トリガーは一定の速度で引く、それだけだ。
レティクルに捉えたRedと目が合ったように感じたが、構わず頭を狙い、トリガーを引く――
――しまった! 風を考慮していなかった! そう思った瞬間、左肩に重い衝撃を受けた。左腕が被弾エフェクトを煌めかせ、次第に消滅していく。痛みに耐えて回避行動を取ろうとするが、HPゲージはどんどん削られていく。
「ちくしょ〜Redめ〜!」さすがPGMヘカートIIだ。分電盤なんて防壁にもならなかった……。そう思っているうちに、視野がやがて暗転していった。
なぜ優勝できなかったかより、Redにあっさり負けたほうが悔しかった。
けれど、フレンドリーマッチを含めれば、まだ3勝2敗の勝ち越しだ。
◇
気がつくと、待機エリアに1人だった。
シューメイとアズサちゃんはまだ戦っているのだろうな。
そう思っていると、2人が待機エリアに現れた。
「MPのヤツらに瞬殺された」
「またやられちゃいました〜 でも、痛いの少し慣れちゃいました〜」
「あはは〜、残念だったな〜 でも何で『鷹の目』が発動しなかったんだろう?」
「さっきも言ったけど、俺の推測では、フレンドリーマッチのときみたいに運営が『鷹の目』を無効化したんじゃないか? ほら、あいつら前にプロ契約したときに言ってたろ? 『プレイヤーは強い相手を倒したいし、自分たちのチームが優勝したいと思っている』とか何とかさ」
「ん〜、だからって、そんなことするかな〜」
「い〜や、あいつらならやりかねない」
「陰謀ってこと? でもさ、『鷹の目』なしで負けたんなら、それが今のオレたちの実力ってことだろ。現にオレはRedに負けた」
「そっか。でもRedもMPにやられたらしいぜ?」
「まじか。もしかしてMPってプロ集団か?」
「それはわからん。じゃ、俺とアズサはひと足お先にログオフする」
「シノブさん、お先に〜」
「うん、じゃあまたあとで〜」
オレは大会の実況を見るため、会場内のラウンジにあるバーに向かう。
「あ、シノブさ〜ん、今日は調子悪かったっすねー!」
「次回は期待してますよー!」
「どうしちゃったんすか、今日は?」
ギャラリーや、先にやられた連中が次々と声をかけてくる。
「まあ、そんな日もあるのよね〜」と適当に受け流し、実況画面に目をやった。
そのうち、MRKYもラウンジに姿を見せた。だが、カイとユーサクは何も言わず、オレに目を向けることもなく足早に立ち去っていく。
残ったマサシとRedがこちらに近づいてきた。
「シノブちゃんさ〜、何であんなとこに隠れてたわけ?」
「あ〜、やっぱバレてたか〜?」
「そりゃあバレるでしょ。それにさ、何で今日もヘカートII使わなかったのよ?」
「あ〜、あれね。重いしさ〜」
「嘘でしょ。それにさ、今日『鷹の目』使えなかったんじゃない?」
「……なんでもお見通しだな」
どうしてそれを知ってる? まさか、いや……。
「やっぱりね〜」
Redは小さく笑った。
「じゃ、次こそヘカートIIで勝負しなさいよね!」
そう言って、Redはマサシを連れて去っていった。
MPの優勝で幕を閉じた第6回VRMMORPG BulletS RECOIL。
チームS・S・Aの優勝は、半年後に控える第7回大会に持ち越されることとなった――
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