第34話 戸籍上の性別
月曜朝恒例の『会社行きたくない〜』から始まった今週も、なんとか二人のおかげで乗り切った。
新プロジェクトも始まったから仕事も忙しくなり、副業の方もVRMMORPG BulletS RECOILに備えて平日夜と昨日土曜も丸一日訓練したから、今日はお休みしようか〜? と三人でコーヒーをいただきながら話しているところに携帯に崔部長から連絡があった。午後一番で訪れるとのこと。
何でまた急に? しかも日曜日だよ? と頭を巡らすも思いつかない。
まぁ今日は特に出かける用事もないしね〜と崔部長の来宅を待つことに。
13時ジャストに崔部長が来宅。
なんでもロサンゼルスへ奥さんのキャロラインさんと娘さんのユイちゃん二人の墓参りに帰国していて、その足で来てくれたらしい。
「はい、こちらCompartes chocolate(コンパーテスショコラティエ)のチョコレートです。ロサンゼルスの人気のチョコレート店のものですよ」と言いながらアズサちゃんに渡す。
「わぁ〜嬉しいです〜。ここってセレブ御用達のお店なんですよねぇ!」
「よくご存知で。あ、あとこれはお二人に……」とBath&Body Works(バスアンドボディーワークス)のハンドソープとハンドクリームですと言いながら、めちゃくちゃキラキラのラメが入ったパッケージをアズサちゃんとオレに渡してくれる。
「あ、わたしにも? ありがと〜」
「これも素敵ですぅ〜。このお店アロマキャンドルや香水とかもあるんですよね〜」
「そうなんですよ。でも香りは好みがあるのでスキンケア用品にしました」と、崔部長は気を遣う人なんだな。
「あとシューメイさんには、」と言いながら取り出した高さ約30センチのオスカー像のレプリカを渡す。こっちはビニールに包まれただけの簡易包装なので目立つ目立つ。
「あははは!これイイ! 無表情なところがシューメイのT-9000にそっくりぃ〜!」「ですねぇ〜!」アズサちゃんと二人で大爆笑。
「こ、これをどうしろと……」むくれる秀明。
四人でひとしきり談笑。
コーヒーをアズサちゃんが淹れなおしてくれ、「今日訪問させていただいたのは――」と崔部長が本題に入る。
「高岡さんの戸籍上の性別のことなのですが、今後のことを考えますと……」あ〜そうだよね〜外見と性別が解離してるしね〜。
「そうですよね、この『美少女』で戸籍が男なんて、」
「オイ、びしょうじょって誰だ?」
「あん? 秀明てめ〜、オレどう見ても美少女以外のなにもんでもないだろうが〜?」
「び・し・ょ・う・じ・ょは、『てめ〜』とか『オレ』なんて言葉は使わないぞ!」
「はいはい、二人ともやめてください!」といつものようにアズサちゃんが止めに入る。
崔部長はまた始まったという顔をしながら「話を進めさせて頂きたいのですが。戸籍上の性別を『女性』に変えるには少々『裏技』を使わなければいけないのですが、高岡さんはいかがされますか?」
いかがする……つまり戸籍上の性別を戸籍操作するとかで女性にするということだよね。身体はもう元には戻らないし、女性として振る舞うのにも少しは慣れてきてる……かな?
あ、でもさっきみたいに『オレ』とかはたまに出ちゃうけど……でも示談書とプロ契約書に戸籍云々って文言入ってたっけか? でもこのままの戸籍じゃいろいろ支障があるのは確かだけど。
「そ、それって戸籍操作するとか?」
「いやいやいや、それはちゃんと日本国内法に従った手続きをしますよ」
「それなら安心です。そうですね……もう女性として生きることにしてますし、戸籍の性別変更が可能ならお願いします。両親は他界してますし、親戚とも疎遠ですんで……」
そう言うと秀明とアズサちゃんはちょっとしんみりした顔になったので「だ、だってもうオ……わ、わたしもうこんな美少女だしぃ〜」
「そ、そうだな」
「そうですよね〜」
「では、性別変更を弊社顧問弁護士を通じてTS市の家庭裁判所に申請します。ここで『裏技』なんですが、男としての『高岡忍』さんは『性同一性障害者』とし性別適合手術(SRS)済みで、『性別の取扱いの変更』『名の変更許可』申請することを承諾していただきたいのですが」
「適法であれば大丈夫です。それに関して何か書類とか押印とかは?」
「それは申請時に必要なんですが、まず性別の変更手続きには六つの要件を満たす必要があるがあるんです。それをご説明しますね」
説明によるとこうらしい。
1.二人以上の医師により、性同一性障害であることが診断されていること
2.18歳以上であること
3.現に婚姻をしていないこと
4.現に未成年の子がいないこと
5.生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
6.他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること
「なるほど」つまり、性同一性障害ということね。まだ心は男なんだけどな……とは思ったけど仕方がないか。
「1に関しては問題ないですか?」
「はい」
「では、1から4と6は満たしているんですが、引っかかりそうな箇所は5の解釈なんです」
「はあ」
「実際には『女性』としての『生殖腺』つまり子宮・卵巣・卵管等は存在していますので、『男性』としての『生殖腺』はなく機能を永続的に欠く状態と診断書を作成させます」
「あ、中央研究所の!」
「はい。親会社のアストラル製薬の医師の診断書でクリアします」
「お手数かけます。あ、あと名前は『忍』から『しのぶ』にしてください」
「承知しました」
オレの代理人からの申立てが受理され、『女性』の『高岡しのぶ』となったのはそれから約1年後の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます