第44話 損害賠償金って課税? 非課税? 不課税?
ライバル、Red――ヤツはオレをそうは思ってないだろうけど――との勝負は、2勝1敗で勝ち越しだ。
立役者となったPGMヘカートIIと12.7x99mm NATO弾は、課金したゴールドで購入したものだ。その資金は――
生理が始まって5日目、ようやく体調が少し戻ってきたんだけど、気になることがあって、昼休みに1人で出歩くのはやっぱりまだ怖いから、梓ちゃんに付き合ってもらって社外に出ることにした。
現金は必要な時、例えばスマホでピッとできない自販機のような場合にしか使わない。普段の買い物や飲食はカードやモバイル決済だから、カードの請求額と口座の残高はスマホで確認している。でも、この約1ヶ月間、アバターから戻れなくて女子化しちゃったり、監視されているんじゃないかとビビったり、引っ越しや検査を受けたり、プロ契約を結んだり、生理が来て正真正銘の女の子になったりと、いろいろあって全然チェックしてなかったんだ……。
あ、何回かは梓ちゃんに立て替えてもらった分を引き出したっけ? 通帳記帳しないとな……というわけで、お昼休みに銀行へ行くことにした。
本当の目的は、損害賠償の振り込み期日が確か今日だったから、示談書通りに振り込まれたのか気になっていたんだよね。自分が言うのも変なんだけど、電子データってなんだか信用できないからね。
ATMで記帳――通帳には『振込 カ)アストラル・ゲームス *100,000,000』、そして残高欄には『100,084,597』と記載されていた――下5桁はカードの引き落とし後の残高なんだけど、9桁の数字なんて仕事以外で初めて見た!
「あ、あ、あ、あ、梓ちゃん……ふ、振り込まれちゃ〜!」
「忍さん、ちょっと落ち着きましょう……示談書上ではわかっていましたけど、いざ現実に数字を見るとたしかに慌てちゃいますよね〜」
「う、うん……こ、これって税金は……損害賠償って課税? 非課税? それとも不課税?」
「とりあえず、通帳ちゃんとポーチにしまって、退社してからおうちで3人で考えましょ〜?」
「そ、そうだね……」
う〜ん、損害賠償金って税金かかるのかなぁ? 国税庁のサイトには「損害賠償金等は非課税」と書いてあるけど、さらに詳しく読んでみると、「心身または資産に加えられた損害について支払われる相当の見舞金」とあって、さらに「非課税となる見舞金は社会通念上、それにふさわしい金額に限られる」とも書いてある。
所得税法第9条 、第51条、第73条、所得税法施行令第30条、第94条、所得税基本通達第9条19項、23項……あちこちにバラバラに記載されてるんだよね。
億単位の金額って、社会通念上ふさわしい金額には思えないけど、生身が変えられちゃったから、心身または資産に加えられた損害に対する見舞金としては相当するとも思えるし……。
帰宅して夕飯を食べた後、「損害賠償金が今日振り込まれてたんだけどさ〜」と話し始める。
「税理士に相談…それとも、アストラル・ゲームスに聞いたほうがいいのかな〜?」
「そうですね〜」
「いや、示談書の第一条で、現実世界でアバターと酷似した身体での生活を強いられる状態になったと認めてる以上、心身または資産に加えられた損害について支払われる見舞金に当たるから、非課税じゃないか?」と冷静に言う秀明。
「なら、確定申告しなくても、もしバレたらこの金額の調査で国税が動くはずだから、言われたら示談書を見せれば問題ないってこと?」
「そう。税務署から突っ込まれても、示談書がモノを言うだろうな……たぶん」と秀明。
「た、たぶんって……」
「あいつらが示談書の開示を許すかどうか、わからん」
そりゃそうだ。
自室に戻り、国税庁のサイトを見ながら考える。
もしこの損害賠償金が課税対象だった場合、税額はいくらになるんだろう?
給与所得があるから、まずはお給料分だけ年末調整してもらい、翌年に副業分を雑所得として確定申告するんだよね。
計算してみるか。まずは損害賠償金を副業による雑所得として、10,000,000円と仮定。損害賠償金に対して経費はゼロだから、所得金額はそのまま10,000,000億円。で、40,000,000円以上だから税率も一番高い0.45。
控除額の4,796,000円を差し引いた額に0.45をかけると――42,841,800円が税金……ってことは手元には57,158,200円しか残らない? むぅ〜、ほぼ半分かぁ〜
実際には地方税もかかるわけだから、絶対に非課税にしなくちゃな〜
秀明はああ言ったけど、素人考えじゃダメだからやっぱり確定申告時に税理士に相談するしかないよね。
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