第32話 PGMヘカートII versus PGMヘカートII

 土曜。昨日で生理もや〜っと終わったみたい。月曜はダイブしたけど、それから4日間、平日は具合悪かったからオレだけダイブしてなかったんだよね。

 体調も戻ったし、残り70日を切った第6回VRMMORPG BulletS RECOILに向けて訓練!訓練! と、三人で昼過ぎにダイブ。


 今日の転送先、シューメイとアズサちゃん二人は荒野地帯なんだ。

 オレとシューメイのプレイヤーレベルはMAX300のままだけど、アズサちゃんはまだ150なのでちょ〜っと心許ない。他のチームも300近くになってるはずだし。

『ガードヒール』を使いこなせるようになって自分を防御して被弾を防ぐのを覚えてもらえればOKかな〜。

 ちなみに『ガードヒール』は仲間のHPを大回復はするけど、PVにあるような被弾の治療、ヒールはできない――あれは盛りすぎだよ〜。自分と味方の防御力は大アップするけどね。

 荒野地帯に先に行ってもらったのはハンヴィーを使った移動体からのシューメイの射撃訓練とアズサちゃんの運転練習とレベルアップを兼ねている。二人でしてもらった方がいいしね。

 ハンヴィーは切り札になるから他のプレイヤーには見られたくないけど、慣れておいてもらわないといけない。ま、シューメイに任せておけばいいけど。

 スナイパーのオレは基本、固定位置からの『天の秤目』と『鷹の目』を使った狙撃がメインだから、車上から撃つのはちょっと苦手なんでそこはシューメイ担当ってことで。


 オレは『始まりの街』へ。

 ガンショップに入るやいなや、オヤジさんに「ヘカートIIちょうだ〜い!」と挨拶もそこそこに声をかける。

「うぉ! シノブちゃん。前にあれ重いからな〜って悩んでたのに、買う気になったのか?」

「うん、聞いてたと思うけどさ、ハンヴィーで移動すればいいじゃん?って」他にお客がいないのを確認してオヤジさんに言う。

「なるほどな〜カートII持ちか。PV通りになったってわけか」と店内で映し出されているVRMMORPG BulletS RECOILのPVに目をやる。

「で、シノブちゃんASM338(AWSM)はどうするんだ?」

「あ、あれは歩行移動時に使う〜。それにもう愛銃だから手放さないよ〜」

「なるほどな〜。で、弾は何発いる? 装弾数は7発。それとスコープは?」とくるので「弾は……キリがいいから70かな? あと、スコープは重たくなるからいらな〜い」

「あ、そうか。シノブちゃんには不要だもんな」

「うん……で、これで足りる?」とメニューで残高を表示させる。

「充分充分! って随分と貯め込んでるなぁ。あ、.338ラプアマグナム弾は足りてるか?」と商売っけを出してくる。スコープが売れなかったからかな。

「じゃ〜マガジン100、貰える?」

「ほいきた」

 支払いを済ませ所持銃器・弾丸数を確認――「おっけ〜。じゃ、また来るね〜」

「まいどあり〜」


 ヘカートってギリシア神話の女神ヘカテーの事らしいんだけど、太陽神アポロンの別名でヘカトス(Ἑκατός, Hekatós「遠くにまで力の及ぶ者」、または「遠くへ矢を射る者」)の女性形なんだって。狙撃銃に打って付けの名前だし、フランス人ってネーミングセンス良いよね〜。

 今日は前に……いつだったっけ? 忘れちゃったけど、同じ旧市街地のそのときと違うビルの屋上に向かう。

 手ぶらなのに途中いつものように声をかけられるけど、適当にあしらいながら。

 後をつけてくる者もいなかった。ま、この前もそうだけど通常のPvPで『赤目金髪のスナイパー』に勝とうなんて十年早いんだよねっ。


 屋上に到着しPGMヘカートIIと12.7x99ミリNATO弾を2弾、実体化させる。発射速度は825m/s。う〜ん、この銃重いけど重機関銃弾薬を使うだけあって、装着されているマズルブレーキかっこいいよな〜。『SA○II』でシノンちゃんがこれ使ってるの見て憧れてたんだよな〜。

 折りたたみを解除して銃床を下にして持つ。ずっしりと重い。しかも延ばすと全長1,380ミリってことは、オレの身長と10センチしか違わないから取り回しがちょ〜っと辛いかもな〜。

 ま、いざとなりゃ大会の終盤でハンヴィーの上から、アズサちゃんに『ガードヒール』かけてもらいながら撃てばいいか……。

 前方に二脚、後方に一脚、ポッドを備えているし、重量はASM338(AWSM)の2倍、スコープ非着装でも13.8キロだから、か弱き乙女じゃフェンス越しにプローンポジションで射撃するしかないんだよね。

 弾を装填し、身をかがめてPvPON。『鷹の目』でレンジ2キロメートルを索敵――PvPOKの赤い『▼』マークを探す――。

 と、一人、いたぞ……ん?プレイヤー名Red――ってあのR? まさかアイツか? だとしたらまだ活動してたんだ!

『天の秤目』のレティクル内に見えたのは、1,480メートル先のビル屋上にPGMヘカートIIを持った――女性だった!

 前々回の第四回大会のときは顔なんてよく見てなかったから気がつかなかったけど、ヤツも思った通り赤目だ。凛々しい顔つき。漆黒の長髪、長身でPGMヘカートIIがよく似合ってる。

 前回大会ではチームM6も参加してなかったし、他のチームにもいなかったから『鷹の目』が使えなくなって、てっきり引退したのかと思ってたんだ。

 良かった……と同時に急に申し訳ない気持ちが浮かび上がる。

 THX-1489を手に入れたことでオレだけが『鷹の目』を使えるようになり、それで優勝した――実は心の奥底に蟠りがあったんだ。

 だけど……うん! ここは……ここは銃と弾丸の世界だ! これは勝負、PvP。自分の能力、スキルと知識、そして火力を最大限使って戦う。それの何が悪いんだと、気を取り直す。せめて『鷹の目』を使っていることを悟られないように『天の秤目』で照準を合わせアシストシステムをONにし、ラインを出す。

 LOCKONに気がついたようだ。お互い同じ発射速度825m/sのPGMヘカートII。勝負あるのみ!


 ――勝者はコンマ数秒トリガーを引くのが早かった方に約1.79秒後、決まった。

 オレはトリガーを引くと同時に激しく噴出されたマズルからの煙の中、被弾を避けるため今は動いていない空調機に身を寄せ射線を切る。そして『天の秤目』でRを凝視する。ヤツは回避行動を取れなかったようで頭が吹き飛んでいた――。

 対物ライフルの威力、こりゃPvP向きじゃないなぁ……ってオレ、Rにスイカみたいに頭吹き飛ばされたんだよなぁ。ふふっ、これで二勝一敗で勝ち越しだ……。


 しばらく呆けてたけど、ヤツが復活するとやばいんでそろそろLOGOFFしようと思っていると……。

『お〜い、シノブ!いまどこだ〜』とシューメイの声がインカムから聞こえる。

「ん〜どっかのビルの屋上〜」

『なんだそりゃ……なんかお前、気が抜けた声出してるけど、どうしたんだ?』

「え~そう? あ〜……いまRと勝負して勝った〜」

『まじか! ……だから気が抜けたのか?』

「う〜ん、たぶん」

『まぁ俺たちには因縁の相手だからな! 仕方ねぇか〜』

「そだね~」

『俺らはそろそろLOGOFFするけど、シノブはどうするかな?ってな』

「うん、オレもそろそろLOGOFFしようとしてたとこ……」

『りょ〜かい。んじゃお先に』

「うん、お疲れ〜」


 わだかまりが無くなり、これで第6回大会も全力で戦えそうな気がしてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る