第30話 第6回VRMMORPG BulletS RECOILに備えて

『シノブさんって本当に女の人だったんですね!』と言っていたヤツが全く知らないヤツじゃなくて、ユーサクでよかったなぁ。

 一番怖いのはリアル、現実世界の方だ。でもオレの生身が女性だと知っても、あいつなら多分そんな変なことはしないだろうとは思ったけど……気をつけなきゃね。

 でも英明やアズサちゃんが言うように休日は出歩かないか、出退勤時や休日は常に一緒にいればいいんだ。

 第一ゲーム内じゃ怪我をさせられることも、ましてや暴行を受けることがないことに気づいたんだ。なんかかなりビビりになっちゃってたなぁ。

 だからその後オレはシューメイ、アズサちゃんと別れて単独で廃都市に向かった。

 ここならPvPやりたいヤツらがうじゃうじゃいるし、いい訓練になる。


 ――のはずだったんだけど、ASM338(AWSM)を実体化させてもいないのに行く先々で「あ、シノブさん今日はPvPっすか〜?」とか、「次大会開催通知のPV見ましたよ〜。お手柔らかに頼んますぜ」とか言われてうざったいったらありゃしない。

 いちいち答えるのも面倒なので、「そうよ〜」とか「手なんか抜かないわよ〜」と適当にあしらって、最初の目的地の廃都市の手前の旧市街地でPvPすることにした。この辺も割とプレイヤーレベル高いし、PvPするヤツも多いしね。

 わざと目立つように表通りの10階建てのビルを見上げてから、裏口にまわり非常階段を昇る。ここに来るまでに足音で2、三人後をついてくるヤツがいるのがわかったので、10階の一室に場所を確保するまでPvPONにはしなかった。

 ヤツらの魂胆は見え見えだ。大会じゃない通常のPvPでオレを倒したら『赤目金髪のスナイパーに勝った』ってんでハクでも付く――ってことなんだろうな。

 オレがPvPONにしたと同時に撃ってくるはずだ。最初は階段そばの部屋に窓を背にし、入り口を狙う形でM16A3を実体化させ、構えてからPvPONに。

『鷹の目』が発動し視野が広がる。レンジを50メートルにしてPvPOKの赤い『▼』マークを探す……お〜開け放ったドアからいきなり二人飛び込んできた。オレが窓から他のビルの相手を狙っていると思ってたんだろうな。

 構えたM16A3で二人ともアシストシステムをONにするまでもなくフルオートで連射し『▼』マークを『DEAD』にしてやる。

 お生憎様〜、『赤目金髪のスナイパー』はM16A3も使えるんですわよ。

 残りもう一人いる――あ、こいつは少しは賢いと見えて屋上にいるな。ロープで降りてくる――ラペリングか。

 こっちはマップを見なくても相手の動きがわかる。ちょうどオレの真上あたりにいる――窓から突入するつもりだ。

 カラになったマガジンをリロードし、屋上からロープで降りてくる途中の相手に向かって窓辺から上に向かってM16A3をフルオートで連射。絶叫とロープと共に地上まで落ち『▼』マークが『DEAD』に変わる。

 うわ〜痛ったそう〜と思ったけど、大会中じゃないから痛覚は無効だし、数分で復活するだろうな。

 レンジを500メートルに――周囲に赤い『▼』マークはいないな。M16A3を担いで屋上に出る。さっき部屋で倒した二人が復活して屋上に簡単に来られないようにドアを開けたら手榴弾が爆発するようにトラップを仕掛ける。

 え? 自分はどうやって降りるって? そんなのM16A3で手榴弾を撃っちゃえばいいじゃん。

 明日になればシステムが自動修復してくれるし――っていうか、この屋上でLOGOFFするのが一番早いし楽だよね。


 それよりも屋上からの眺めいいなぁ〜。風もちょっと強めだけど気持ちいい。

 さ〜てと、今日のASM338(AWSM)のお相手は、とレンジを1,500メートルに切り替える。

 あれ? さっき別れたカイとユーサクがいるぞ。ユーサクはPvPOKではない緑色の『▼』のまま、カイだけが赤い『▼』だ。

『天の秤目』で測距し1,230メートル先に捉えたカイにターゲットを絞る。手順通りにアシストシステムをONにしてLOCKONしたことを通知。風があるからシステム補正に従い即座にカイの頭を撃ち抜いてやった。さっきのアズサちゃんへの非礼のせめてもの復讐だ。『▼』マークが『DEAD』に変わるのを確認。

 緑色だったユーサクの『▼』が赤に変わった。すかさず第二射。『▼』マークが『DEAD』に変わったのを確認して、インカムでシューメイとアズサちゃんを呼び出す。


「あ、オレ。アズサちゃんの仇とっといたよ〜」

『なんだよ、俺たちもヤツら追ってたんだぞ。アズサのPvPの訓練でな!』

『そうですよ〜、シノブさんひど〜い!』

 へ?

「あ、そういえばカイとユーサクの3時方向、500メートルに二人いたっけか。赤い『▼』だけ探してたからな〜」

『おいおい、ちゃんと見てくれよな〜。アズサに自分で仇を取らそうと思ってたんだからな〜』

『わたしあのカイって人、大っ嫌いだから!』

「ごめんごめん。でもそれ、先に言っておいて欲しかったなぁ。ま、あと数分もすれば復活するんじゃね〜?」

『ま、そうかもしれないが、したら今度こそシノブ、手ぇ出すなよ』

「へ〜い。アズサちゃん、カイをちゃんと倒しなね〜。じゃ、今日はオレ先にLOGOFFするわ」

『ん。了解』

『は〜い、お疲れさまで〜す』

「うぃ〜」


 今日はここまでにして、M16A3とASM338(AWSM)二丁も持って10階を降りるのがキツそうだったので屋上でLOGOFFした。


 数分後に、屋上で手榴弾が爆発しことは当然知らなかった。

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