第41話 第6回VRMMORPG BulletS RECOILに備えて

「シノブさんって本当に女の人だったんですね!」なんて言ってたのが、全然知らないヤツじゃなくて、ユーサクでよかった。

 一番怖いのはやっぱりリアル――現実世界のほうだ。だけど、あいつならオレの生身が女性だと知っても、変なことをするようなタイプじゃない……とは思う。けど、やっぱり油断は禁物だよな。


 秀明や梓ちゃんが言ってたように、休日は出歩かないか、出退勤時や休日は誰かと一緒にいればいい。

 それに、よく考えたらゲーム内では怪我をさせられることもなければ、ましてや暴行なんてありえない。なんか自分でも、ここ最近ちょっとビビりすぎてた気がするなぁ。


 そう思い直したオレは、シューメイとアズサちゃんと別れ、単独で廃都市に向かうことにした。

 ここならPvPやりたいヤツらがうじゃうじゃいる。実戦訓練にはうってつけだ。


 ――のはずだったんだけど、AWSMを実体化させてもいないのに、行く先々で「シノブさん、今日はPvPっすか〜?」とか、「次の大会PV見ましたよ〜 お手柔らかに頼んます!」なんて声をかけられる。うざったいったらありゃしない。

 いちいち相手するのも面倒だから、「そうよ〜」とか「手なんか抜かないわよ〜」と適当に返しておいた。最初の目的地だった廃都市はスルーして、その手前にある旧市街地でPvPすることに決める。この辺もプレイヤーレベル高めのヤツらが多いし、PvP勢が集まるスポットだ。


 わざと目立つように表通りの10階建てビルを見上げてから、裏口へ回り非常階段を昇る。ここに来るまで、後をつけてくる足音が2、3人分は聞こえてたけど、10階の一室で場所を確保するまではPvPモードをONにしなかった。


 ヤツらの魂胆なんてお見通しだ。大会でもない通常のPvPでオレを倒せば、「金髪赤眼のスナイパーを撃破した!」ってハクがつく――そんなところだろう。

 きっと、オレがPvPモードをONにした瞬間に仕掛けてくるはずだ。まずは階段そばの部屋で窓を背にし、入り口を狙う形でM16A3を実体化。構えを整えてから、PvPモードをONにする。


 『鷹の目』が発動し、視野が広がる。レンジを50メートルにセットして赤い【▼】を探すと――いた! 開け放ったドアから2人が飛び込んでくる。窓際で他のプレイヤーを狙っているとでも思ったんだろうな。

 だが、甘い。M16A3を構えたまま、アシストシステムをONにするまでもなくフルオートで連射。2人の【▼】は一瞬で【DEAD】に変わる。


 お生憎様~ 金髪赤眼のスナイパーはM16A3だって使いこなせますけど?

 さて、残り1人か。お、ヤツは少し賢いな。屋上にいる――なるほど、ロープで降りてくるつもりか。ラペリングね。

 こっちはマップを見なくても相手の動きが手に取るようにわかる。今はちょうどオレの真上。窓から突入しようとしてるな。

 空になったマガジンをリロードし、窓際に位置を取る。降下中のヤツに向かって、上方にM16A3をフルオートで連射。ヤツはロープが切れたように一気にバランスを崩し、体を捻りながら地上に落下――【DEAD】の表示が出ると同時に静寂が訪れる。

 うわ~見てるだけで痛そう。でも大会中じゃないから痛覚は無効だし、数分後には復活してるだろうな。


 レンジを500メートルに広げて周囲をスキャン。赤い【▼】はいない。M16A3を担いで屋上に移動する。念のため、さっき倒した2人が復活して屋上に来られないよう、ドアを開けたら手榴弾が爆発するトラップを仕掛けておく。

 え? 「自分はどうやって降りるつもりだ」って? 簡単、M16A3で手榴弾を撃ち抜いちゃえばいいの。明日になればシステムが自動で修復してくれるし――あ、それより屋上でログオフするのが一番早いし楽でしょ?


 それにしても、屋上からの眺めが最高だなぁ~ 風がちょっと強いけど、むしろ気持ちいい。

 さてと、今日のAWSMのお相手は誰かな……。レンジを1,500メートルに切り替える。


 あれ? さっき別れたカイとユーサクがいるじゃん。

 カイはPvPモードがONの赤い【▼】、一方でユーサクはOFFの緑色の【▼】のまま――なるほど、スポッター役のつもりか?

 『天の秤目』で距離を測ると、1,230メートル先――よし、捉えた。ターゲットをカイに絞る。

 アシストシステムをONにしてバレットラインを照射。風速10メートル、9時から3時方向の横風に対応した補正値がシステムから提示される。それに従って狙いを調整し、カイの頭を一発で撃ち抜いた――これが、さっきのアズサちゃんへの非礼に対するせめてもの仕返しだ。

 【▼】が【DEAD】に変わるのを確認すると、次はユーサクだ。


 緑色だったユーサクの【▼】が、カイの【DEAD】を見た瞬間に赤へと切り替わる――反撃するつもりだな? でも、甘い。

 ユーサクが動き出す前に即座に第2射を放つ。バレットラインがユーサクの動きを正確に捉え、再び【▼】が【DEAD】に変わる。


 カイもユーサクも復活までしばらくは動けないだろう。それを確認して、オレはインカムをONにする。

「あ、オレ。アズサちゃんの仇とっといたよ〜」

『なんだよ、それ! 俺たち、ヤツらを追ってたんだぞ。アズサのPvP訓練のためにな!』

『そうですよ〜! シノブさん、ひどいです〜!』

 へ? マジ?


「あ、そういえばカイとユーサクの3時方向、500メートル先に赤い【▼】が2人いたっけな。【▼】だけ見ちゃってプレイヤー名みてなかったわ〜」

『おい、ちゃんと確認してくれよ! アズサに自分で仇を取らせたかったんだからな!』

『私、あのカイって人、本っ当に嫌いなんです!』


「ごめんごめん。でもさ、それなら先に言っておいてほしかったよ〜 ま、どうせ数分で復活するんじゃない?」

『ま、そうかもしれないけどな……復活したら今度こそ手ぇ出すなよ、シノブ!』

「へ〜い、了解〜 アズサちゃん、ちゃんとカイを倒してやんな〜 じゃ、今日はオレ、先にログオフするわ」

『わかりました!』

『ん、お疲れさん』

「うぃ〜、じゃまたね〜」


 今日はここまで。AWSMとM16A3の2丁を持って階段を降りるのはキツそうだったので、その場でログオフすることにした。


 ――その数分後、屋上で仕掛けた手榴弾が爆発したのは言うまでもない。

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