第40話 身バレ? ゲーム内でリアルのこと話さないでよね!
その日の夜、帰宅して夕飯を済ませたあと、梓ちゃんから「一度じゃ覚えられないですよね〜?」と言われ、ハーフアップのやり方をおさらいすることに。
その後、普段は平日の夜に1人でダイブしてるけど、昨日のこともあって今夜はどうしようかな〜と悩んでいると、
「忍さ〜ん、いいですか〜?」とノックの音と梓ちゃんの声が聞こえる。
「ん〜? な〜に〜?」
「秀明くんが、『忍は平日夜1人でダイブしてるけど、俺たちもダイブするか〜 一応プロ契約したんだしな。それに変なヤツがいるんだろ?』って〜」
昼間は仕事の話しかしてなかったけど、秀明も気にかけてくれてるんだな〜と思いながら、リビングに向かう。
「おう、忍。今日から平日もダイブするぞ。俺たち、一応プロだからな」
変なヤツの話には触れなかったけど、その一言が妙に嬉しい。
「う、うん……やろう!」
「よし、じゃあ10分後な。転送先は始まりの街にしておけ」
「りょ〜かい!」
ダイブ前に漏らさないよう、念のためトイレを済ませてからPCを立ち上げ、ギアを装着してログオン。
始まりの街へ転送される――
やがてシューメイとアズサちゃんも転送されてきた。
アズサちゃんは前回と同じバトルスーツ姿だ。
「あら〜? シノブさん、バトルスーツどうしたんですか〜?」と聞いてくる。
「いやいやいや、あれはちょっと恥ずいからさ。運営から指示されたときだけにするし」
今日のオレはいつもの迷彩服だ。
「今日はPvPやりたいんだよね。昨日できなかったし、あと3か月で優勝がかかった大会もあるし」と2人に伝える。
「廃都市はちょっと遠いけど行かない? あそこはPvPやりたい連中が集まってるし」
「おう、行こうぜ」
「わ、私PvP初めてなんですけど、大丈夫ですか〜?」
「な〜に、PvPモードをONにして、マップ上で赤い【▼】を探してだな……シューティングアシストをONにして、バレットサークルの真ん中にバレットライン通りに撃てばいいんだよ」と秀明が説明する。
「かなりざっくりした説明だけどね。ま、わたしの『鷹の目』があればマップなんて使わなくてもすぐ見つけられるから安心してよ〜」
「そ、そうじゃなくてですね〜 アバターとはいえ、人を撃つんですよね〜?」
「そうだが、今から慣れておかないと優勝は難しいぞ」とシューメイ。
「わ、わかりましたぁ〜」とアズサちゃんは半泣きで、かわいすぎるな。
「そういえば大会ってさ、本来なら今頃開催されるはずだったのに、3ヶ月後に延期されたってことかな?」
「あ〜、ちょうどシノブの事件と時期が重なったのかもな」
「だよね〜 でも半年に一回ってちょっとスパン短いよなぁ」
「確かに、一年に一回でちょうどいいよな」
3人でわいわい話しながら、首都を過ぎて廃都市へ向かう。
今日もどこかから視線を感じる――そう思っていたら、12時の方向に見慣れた顔が2つ。カイとユーサクだ。
「お、久しぶりだな」とシューメイが軽く手を挙げる。
「お久しぶりです。前回の大会以来ですかね? あ、今日はチームでのご登場ですか。それにしても、そちらの……懐かしいですね、シノブさんの昔のアバターT-0814って感じの新入りさんですか?」と、どこか嫌味っぽい笑みを浮かべるカイ。
――やっぱりあのPV、こいつらも観たんだな。
「ア、アズサです〜 よろしくお願いします〜」と、少し緊張気味に挨拶するアズサちゃん。
「ああ、なるほど。それでチームS・S・Aか。よろしく」とカイが軽く頷く。
「よろしくね〜 ていうかシノブさんって、本当に女性だったんですね!」と、いきなりユーサクが話を振ってくる。
「昨日の昼間、駅前でタバコ吸ってたでしょ?」と聞かれ、反射的に頷いてしまった――やばい、あの男がユーサクだったのか。
「ほら、俺の言った通りだったでしょ? カイは『オンラインゲームで女性アバターの99パーセントは男』とか言ってたけどさ〜」と、ユーサクが得意げに続ける。
は~い、10日ほど前までわたしも男でしたが何か?――そう言い返したい気持ちをぐっと抑え、「ちょ、ちょっと! ゲーム内でリアルのこと話さないでよね!」と声を張る。
「このアバターはカスタムメイドで、自分にそっくりに作ってもらったの! 子供っぽく見えるけど成人してるし、タバコだって吸うわよ!」
――半分ウソだけどな。
さらに続けて、「それに、アズサちゃんだってちゃんとした女の子なんだからねっ!」と少しむきになって言い返す。
「さすが専属プロゲーマーは違いますねぇ〜」とカイがニヤリと笑う。……こいつ、嫌味ったらしいヤツだな。
「では改めて。アズサさん、チームK・Yのカイです。そしてこちらがユーサク。3ヶ月後の大会、楽しみにしてますからね。せいぜいチームS・S……いや、チームS・S・Aの名を汚さないでくださいよ」と、最後まで皮肉っぽい態度を崩さずに言い放つ。
「ユーサク、行くぞ!」と振り返ることなく歩き出すカイ。
ユーサクも少し戸惑いながら、「じゃ、また!」と手を振り、慌ててカイの後を追っていった。
「うわぁ〜、前のことまだ根に持ってるのか?」
「な、なに! あの人たち? 私、ああいうタイプ、大っ嫌い!」
珍しく――いや、むしろ当然というべきか、アズサちゃんが怒りを露わにする。
確かにアズサちゃんは最近上達してきたとはいえ、まだまだ初心者。あいつらが言ってたことも分からなくはない……でも言い方がな〜
「私、PvP上手くなって、絶対にあの人たちをオーバーキルしますっ!」
「いやいや、覚えたての言葉使ってるっぽいけどさ、それマナー違反だからね? やるとHPが減らされるペナルティ食らうから~」
「えっ? そ、そうなんですか~?」と目を丸くするアズサちゃん。
「ここはPvP職人のオレが……って言いたいとこだけど、アズサちゃんはスナイパーじゃないから、その辺はシューメイから教えてもらうほうが良さそうだな~」
「ああ、そうだな」とシューメイが頷き、「あと、ガードヒールで自分を防御して被弾を減らすのも得策だな」とアドバイスを追加する。
「おお、それいいかもな~」とオレが同意すると、アズサちゃんも気合いを入れ直した表情になる。
「被弾……痛いんですか?」と、アズサちゃんが不安げに聞く。
「うん、普段は痛覚無効になってるけど、大会の時だけ痛覚が100分の1に設定されるんだよね。けど、それでも結構痛いんだよ〜」
「ひぃ〜!」とアズサちゃんが思わず声を上げる。
「ははは、そんなに怯えるなって!」とシューメイが笑う。
「じゃ、シノブはいつもの遠距離射撃で、アズサは今日から接近戦でPvP特訓だな」
「了解〜!」
「は〜い、シューメイ隊長!」とアズサちゃんが元気よく返事をする。
「えっ、ちょっとアズサちゃん? 一応、わたしがチームリーダーなんですけど〜?」と、慌ててツッコむ。
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