第28話 ブルーマンデーとイエローベース

 昨日は21時くらいに二人は戻ってきて、夕食も済ませたとのこと。

 オレは食欲がなかったからちょうどよかったのかな?

 二人にダイブを誘われたけど、「昼間にダイブしたから今日はいいや」と食事も摂らずシャワーだけ浴び、22時頃ベッドに潜り込んだ。

 月曜、朝7時――スマホのアラームが鳴る。昨夜はほとんど眠れなかった。

 しかも今日からまた仕事か……仕事だるいなと思いながら、ぼーっとアラームを止める。ブルーマンデー症候群とはよく言ったもんだな。

 でも原因は、昨日ダイブしたときにガンショップのオヤジさんにから聞いた、おそらくユーサクが言ったであろう『シノブさんって、リアルとアバターがおんなじで赤目金髪で可愛いんだよ〜』ってのなんだけどね。

 ベッドの上でうだうだしてると、ドアをノックする音とアズサちゃんの声。

「忍さんおはようございま〜す、調子悪いですか〜? コーヒー淹れましたよ〜」

「う、うん。調子は悪くないけど……ちょっと……」と答え、起き上がってパジャマのままリビングに行く。

「昨日さ、昼間に一人でダイブしたときに――」とアズサちゃんに、淹れてくれたコーヒーを飲みながら昨日のことを話す。

「ね、なんか怖いでしょ? また街の中で会ったらどうしようとか、もうダイブしない方がいいんじゃないかな〜とかいろいろ考えちゃって、あんまり眠れなくて。会社に行きたくない……」

 データはクラウドに上がってるから在宅で作業できるし。

「あ〜女の子ならではですねぇ〜。わたしも学生のころ似たような事ってありました〜」

「そ、そうなの〜?」

「はい。でもみんなで出社して、しばらくお休みの日は外出を避けて、もし出かけるなら私たちと一緒にいれば」

「そうかなぁ……ん〜でもやっぱり怖いなぁ……」

「大丈夫ですよ〜ダイブだってソロじゃなくてチームS・S・A三人一緒なら最強じゃないですか〜」

「そ、そうだよね……」なんか後輩になだめられてカッコ悪いな。

 それにしても、女子ってこんなに弱いんだな〜。もしかしてオレって精神的にも女子化しちゃったんじゃないか? と、もうひとりの妙に冷静で俯瞰している自分がいる一方、アズサちゃんのことがお姉さんっぽく思えてきたり……いやいやいや、これは、アズサちゃんは女の子としては大先輩だからそう思うんだ。しっかりしろ〜オレ!

 なのに「い、一緒に出社してくれる〜?」と思わず口に出してしまう。

「はい! いつも通りに出社しましょ〜。だから大丈夫ですよ〜」と、またなだめられてしまう。


 そんなやりとりをしていると英明が起き出してくる。

「ん? 忍、具合でも悪いのか?」と心配される。

「実は――」と英明にも昨日のことを話す。

「んだよ、そんなのは俺がリアルでもVRMMORPG BulletSでも守ってやるから安心しろよ!」

「あ、ありがと……」

「ったく忍よ〜まるっきり女の子だな〜」

「う、うっさいな〜」

「お? やっと元気出てきたみたいだな」

「も〜やっぱり英明は脳筋だ」

「んだと〜」

「はいはい、二人ともじゃれてないで朝ご飯作りましたから食べちゃいましょ」

「じゃれてね〜」

「お、お母さんか〜い」

「ふふっ」


 朝食後、「で、会社なんだけど三人なら行けそうな気がする……」ぼそっとつぶやく。

「ん。そうか」

「それはよかったです〜。昨日お見せできればよかったんですけど〜忍さんの会社用お洋服まだまだ足りないから買ったんですよ〜」

「え〜3、4日前『しばらくはこれで大丈夫〜』ってアズサちゃん言ってたじゃん」

「あれ〜そうでしたっけ〜? まぁお洋服はたくさんあったほうが楽しいですからね〜」と、オレの部屋で買い込んだ服の展示会を始め出す。

 9時半にウチを出ても出勤時間には充分間に合うんで、まだ1時間半以上あるから大丈夫だな。

「トップスはアイボリーのシフォントップス、ミルキーオレンジのコットンニットに、あとライトイエローのカーディガン……」

「え〜? 3着も〜?」

「まだありますよ〜グレージュのフレアスカート……」

「あ、このフレアスカートかわいい……黄色いカーディガンに合いそう」

「ですね〜」

「へ〜、あ、あと何これ?」

「ネイビーのオールインワンセットアップですよ〜。ちょっと大人〜って感じで、これわたしのお薦めです〜」

「なんか高そう……あ、このネイビーの上と、さっきのフレアスカートの組み合わせって良いかも〜」

「忍さん、それ良いですね〜。じゃ今日はこの組み合わせで、ライトベージュのパンプスにしましょう! 髪はポニテじゃなくて、ハーフアップで」

「うん! ネイビーのトップス、グレージュのフレアスカートにライトベージュのパンプスとハーフアップ?……OLさんっぽいねぇ〜」でもこんなに買っちゃって払えるかな?

 気になったので聞いてみる。

「ね、アズサちゃん、これ全部でいくら……?」

「え〜っとですね〜8万円くらいですかね〜」

「ひぃ〜何でそんなに高いの〜? ちょっと払えるかな〜」――って、そういえば賠償金とかプロ契約料とかっていつ貰えるんだっけか?

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