第26話 ディフェンディングチャンピオン

 半年前、ディフェンディングチャンピオンとして迎えた第5回VRMMORPG BulletS RECOIL――プレイヤーレベルは二人ともMAXの300だ。

 前大会と同様に欠場などで繰り上げを含めたシード権がある第4回大会の上位4チームは、戦闘フィールドの四隅に転送され、オレたちは山岳地帯にいた。転送完了と同時に『鷹の目』が発動。

 はは〜ん、ここは前回チームM6が転送されていた場所――つまり有利な場所って訳か。

 続いて転送されてくる予戦通過組12チームの転送状況を確認。

 前回まで予戦組はランダムに転送って聞いてたけど、なんか上位から反時計回りに転送されてるみたいだ。仕様変更されてるな。

 準優勝だったチームM6のことが気になり参加チームを確認したけどその名はやっぱりなく、プレイヤー名Rも他のチーム内になかった。

 そのかわり、フィールド中央付近の廃都市にいるNo.14は見覚えのあるチーム名チームK・Y。メンバーは、カイとユーサク。3年前に初めてパーティを組んだ同じ初回当選組の二人だ。

 12時方向、50メートルほど離れた場所に待機しているシューメイに「おーい、カイとユーサクがいるぞ〜」とシューメイのマップに位置情報を共有し、インカムで知らせる。

『お〜ほんとだ。ヤツらとはたまにレイドするくらいで、大会では戦ったことなかったな』

「そういえばそうだね〜。突然強くなったとか〜?」

『わからん。それより今回の戦略は?』

 オレはASM338(AWSM)を実体化させ、「今いる山岳地帯はかなり有利だから、あまり移動しないで近づいて来たヤツを撃つ!」とシューメイに伝える。

『了解。じゃ、シノブは狙撃に徹して俺は先制攻撃ってことだな』

「そうそう。最終的にはフィールド中央部で『あれ』使おうか?」

『あ〜ハンヴィーか。じゃ、運転はシノブな。俺は前回出番がなかったPSRL-1と、ハンヴィーにブローニングM2E2搭載して使うか』

「戦争するんか〜い」

『まあな〜』

「さーて、あと3分で初回のマップ表示で敵が動き始めるから作戦開始だな」

『了解。じゃ共有表示されてる射程内に来たやつは、今回はシノブの指示なしで手当たり次第に倒すぞ』

「いいよ〜ん。じゃ警戒しつつ、行っくぜ〜!」

『おう!』

 一番不利な荒野に転送されたチーム以外の上位チームは動きが鈍いのが『鷹の目』で確認できる。その為か中位チームが近場の上位チームに次々と向かって行く。

 オレたちのチームも例外ではなく、敵チームが近づいてくる。

 下位チームは転送された遮蔽物が多い中央付近の廃都市で戦闘を繰り広げているようだ。

 終盤では上位チームも廃都市に集まるだろうから、ハンヴィーで移動しながらロケットランチャーで片っぱしから攻撃することになるかな?

 今回は最初から狙撃中心だから、オレは前回よりも更にMP温存に徹して『天の秤目』は使わず『鷹の目』とスコープで近づいてくる敵を狙撃する。

 シューメイは戦略通り射程内に来た敵を片っ端から倒している。


 3回目のスキャン後――30分ほど経過したころ「そろそろフィールド境界に沿って9時方向に進もうか? あ、オレ移動速度遅いから合わせてくれよ〜」

『ああ!』

 近づいてくる敵を倒しながらマップ更新の間隙をついて移動し、敵チームを潰していく。

 だけどやっぱりASM338(AWSM)重すぎ〜。移動しながらの戦闘には合わないや。


 1時間で自分たちを含め、約半数の7チームが残っている。

「シューメイ、1時間で残りあと7チームってちょっと遅くね〜?」

『ああ、そうだな。最初上位チームの動きが鈍かったからな』

「今回最初っからASM338(AWSM)出したの失敗だったぁ〜重いわ~」

『好きでした苦労だろうが』

「ま〜そうなんだけどさ〜。そろそろ12時方向の中央部に降りて落ち着いて狙撃したいよ〜」

『じゃ、そうするか。No.7の移動距離が他に比べて若干多いな。車両使ってるのか?』

「そうかもね、そしたらこっちも対抗して……それにしてもNo.14のあいつら、あんまり移動してないで囲まれてる?」

『気になるか? 多分通常のマップで見えない建物内に隠れてるんじゃないか? 廃都市だからな』

「そうか〜。狙撃のしがいがあるな〜」

『好きにしろ……じゃ、現地でいい場所見つけて、そっからある程度倒してくれ。あ、狙撃しながら休んでいいぞ。後でハンヴィーの運転任せる』

「『狙撃しながら休む』って何だよ〜」


 それから40分ほどかけて中央部の廃都市の入り口付近に移動し、オレは廃ビルで絶好のヒットポイントにASM338(AWSM)を据え付け、陣取る。

 最大有効射程は1,500メートル以上。『天の秤目』と『鷹の目』で能力を最大に引き出してやるから、頼んだぜ〜。

 シューメイはハンヴィーのことを忘れたのか、最大射程800メートルのSR-H1を担いで付近の敵が隠れているビルを次々に破壊し『DEAD』を表示しまくる。

「おいおいおい、マップ表示に気をつけろよ〜撃たれるなよ〜」

『わーってる!』

 ま、注意するまでもないか。


 開始から2時間半近く戦闘し、オレたちまだ残ってるな……ま、当たり前か。

 さーてと、残りのチームは……え? まじか? No.14のあいつらじゃん!

「シューメイ見たか? あいつらと一騎討ちだ」

『ああ。わかってる。あいつらが隠れてるビルを周囲からSR-H1で叩いて燻り出すから、シノブは止めを刺してくれ』

「ちょいちょいちょいちょい、シューメイお前死ぬ気か?」

『バーカ、あのゲームじゃないから死なね〜よ。それよりお前こそ殺られるなよ。優勝できなくなっちまう』

「あ、ああ。んじゃ、殺られる前に殺るから、ヤツらを燻り出してくれよ〜」

『了解!』

 それから約5分間、シューメイの鬼攻撃で燻り出され、最後まで戦ってくれたカイとユーサクに敬意を表しアシストシステムをON。ラインをカイの頭に照射し.338ラプアマグナム弾を一発撃ち込む。

 急いでボルトを引き、『天の秤目』でユーサクを捉え第二射。

 距離832メートル、1秒かからずカイの頭が吹き飛ぶ。続いて後方50メートルのユーサクの頭も。

「やった……お〜い、シューメイどこだ〜?」

 応答がない……。

『鷹の目』で見ると、カイとユーサクの手前50メートルに『DEAD』表示……。


「あ、あの莫迦ぁぁ~~!」

 思わず泣き笑いして第5回VRMMORPG BulletS RECOILはチームS・Sの優勝で終了した。



「あのさ〜運転できなくても、せ〜っかく銃座と増加装甲してるんだからハンヴィー実体化させてそこからロケットランチャー撃てば死ななくて済んだんじゃないかい? カイとユーサクの場所、わかってるんだし」

「……完全に忘れてた」

「ま、いっか〜。とりあえず酔わないけど乾杯だ〜」

「おう!」

 今回は二度目の優勝ということで、会場のラウンジで二人で祝杯を上げることにした。


 と、そこへカイとユーサクがやって来る。

「シューメイさん、あれズルいっすよ〜でもタイマンでは勝ちましたからね!」とカイ。

「ふん! 二対一じゃタイマンじゃないだろ」とそっけないシューメイ。

 ユーサクは「シノブさん、前回優勝といい『赤目金髪のスナイパー』の二つ名の通り本当にすごいスナイパーになったんですね!」

「あ、うん……」『鷹の目』を使った二度の優勝……ほんのちょっとだけ、それも一瞬戸惑ったけど、「ありがと〜」と返した。

「今日は『おめでとう』は言いますけど、次は俺たちが言わせますからね!」とカイとユーサクはLOGOFFした。


「んじゃ、俺たちも戻るか……」

「うん、じゃまた明日〜」

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