第37話 ディフェンディングチャンピオン
半年前、ディフェンディングチャンピオンとして迎えた第5回VRMMORPG BulletS RECOIL――プレイヤーレベルは、2人ともMAXの300だ。
前大会と同様、欠場などで繰り上げがあったシード権を持つ第四回大会の上位4チームは、戦闘フィールドの四隅に転送された。オレたちは山岳地帯に転送された。転送完了と同時に『鷹の目』が発動。
「はは〜ん、ここは前回チームM6が転送された場所――つまり、有利な場所って訳か」
次々と転送されてくる予選通過組の12チームを確認する。
前回まで予選通過組はランダムに転送されると聞いていたけど、どうやら今回は上位から反時計回りに転送されているみたいだ。仕様変更されているな。
準優勝だったチームM6のことが気になり、参加チームを確認したけど、その名はやっぱりなく、プレイヤー名『Red』も他のチーム内には見当たらなかった。
その代わり、フィールド中央付近の廃都市にいるNo.14は、見覚えのあるチーム名チームK・Y。メンバーはカイとユーサク。3年前に初めてレイドチームを組んだ、同じ初回当選組の2人だ。
12時方向、50メートルほど離れた場所に待機しているシューメイに「おーい、カイとユーサクがいるぞ〜」とシューメイのマップに位置情報を共有し、インカムで知らせる。
『お〜ほんとだ。ヤツらとはたまにレイドするくらいで、大会では戦ったことなかったな』
「そういえばそうだね〜 突然強くなったとか〜?」
『わからん。それより、今回の戦略は?』
オレはAWSMを実体化させ、「今いる山岳地帯はかなり有利だから、あまり移動せずに、近づいてきたヤツを撃つ!」とシューメイに伝える。
『了解。じゃ、シノブは狙撃に徹して、俺は先制攻撃ってことだな』
「そうそう。最終的にはフィールド中央で、あれを使おうか?」
『あ〜、ハンヴィーか。じゃ、運転はシノブな。俺は前回出番がなかったPSRL-1と、ハンヴィーにブローニングM2E2を搭載して使う』
「戦争すんのか〜い」
『まあな〜』
「さーて、あと3分で初回のスキャンが来るから、敵が動き始めたら作戦開始だな」
『了解。じゃ、共有されている射程内に来たヤツは、今回はシノブの指示なしで手当たり次第に倒すぞ』
「いいよ〜ん。じゃ、警戒しつつ、行っくぜ〜!」
『おう!』
一番不利な荒野に転送されたチーム以外の上位チームは、動きが鈍いのが『鷹の目』で確認できる。中位チームが次々と近くの上位チームに向かっていく。
オレたちのチームも例外ではなく、敵チームが近づいてきている。
下位チームは、転送された遮蔽物が多い中央付近の廃都市で戦闘を繰り広げているようだ。
終盤には上位チームも廃都市に集まるだろうから、ハンヴィーで移動しながら対戦車弾で片っ端から攻撃する戦略だ。
今回は初めから狙撃中心で行くつもりだから、オレは前回以上にMPの温存を徹底し、『天の秤目』は使わず、『鷹の目』とスコープで近づいてくる敵を狙撃する。
シューメイは戦略通り、射程内に入ってきた敵を次々と倒している。
3回目のスキャン後――30分ほど経過したころ――「そろそろフィールド境界に沿って9時方向に進もうか? あ、オレ移動速度遅いから、合わせてくれよ〜」
『ああ!』
近づいてくる敵を倒しながら、スキャンの合間をぬって移動し、敵チームを潰していく。
だけどやっぱりAWSM重すぎ〜 移動しながらの戦闘にはあまり向いてないな。
1時間で自分たちを含め、約半数の7チームが残っている。
「シューメイ、1時間で残りあと7チームってちょっと遅くね〜?」
『ああ、そうだな。最初、上位チームの動きが鈍かったからな』
「今回最初っからAWSM出したの失敗だったぁ〜 重いわ〜」
『好きでした苦労だろうが』
「ま〜そうなんだけどさ〜 そろそろ12時方向の中央部に降りて、落ち着いて狙撃したいよ〜」
『じゃ、そうするか。No.7の移動距離が他に比べて若干多いな。車両使ってるのか?』
「そうかもね、そしたらこっちも対抗して……それにしてもNo.14のあいつら、あんまり移動してないで囲まれてる?」
『気になるか? たぶんスキャンに引っかからない建物の地下とかに隠れてるんじゃないか? 廃都市だからな』
「そうか〜狙撃のしがいがあるな〜」
『好きにしろ……じゃ、現地でいい場所見つけて、そこからある程度倒してくれ。あ、狙撃しながら休んでいいぞ。あとでハンヴィーの運転、まかせる』
「狙撃しながら休む……って何だよ〜」
それから40分ほどかけて、中央部の廃都市の入り口付近に移動し、オレは廃ビル屋上、絶好のヒットポイントにAWSMを据え付け、陣取った。
最大射程は1,500メートル以上。『天の秤目』と『鷹の目』で能力を最大に引き出してやるから、頼んだぜ〜
シューメイはハンヴィーのことをすっかり忘れたのか、最大射程800メートルのSR-H1を担いで、付近の敵が隠れているビルを次々に破壊し、【DEAD】の表示を出しまくっている。
「おいおいおい、マップ表示に気をつけろよ〜撃たれるなよ〜」
『わーってる!』
ま、注意するまでもないか。No.7の車両をSR-H1で破壊してるしな。
開始から2時間半近く戦闘して、オレたちまだ残ってる……ま、当たり前か。
さーてと、残りのチームは……え? まじか? No.14のあいつらじゃん!
「シューメイ、見たか? あいつらと一騎討ちだ」
『ああ、わかってる。あいつらが隠れてるビルを周囲からSR-H1で叩いて燻り出すから、シノブはとどめを刺してくれ』
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、シューメイ死ぬ気か?」
『バーカ、あのゲームじゃないんだから死なねぇよ。それよりおまえこそヤられるなよ。優勝できなくなっちまうぞ』
「あ、ああ。んじゃ、ヤられる前にヤるから、ヤツらを燻り出してくれよ〜」
『了解!』
それから約5分間、シューメイの鬼攻撃で燻り出され、最後まで戦ってくれたカイとユーサクに敬意を表してアシストシステムをON。ラインをカイの頭に照射し、.338ラプアマグナム弾を1発撃ち込む。
急いでボルトを引き、『天の秤目』でユーサクを捉え、第2射。
距離832メートル、1秒足らずでカイの頭が吹き飛ぶ。続いて後方50メートルのユーサクの頭も。
「やった……お〜い、シューメイどこだ〜?」
応答がない……。チームメンバー表示のシューメイのHPはゼロ。
『鷹の目』で確認すると、カイとユーサクの手前50メートルに【DEAD】表示……。
「あ、あのバカぁぁ~~!」
思わず泣き笑いしながら、第5回VRMMORPG BulletS RECOILはチームS・Sの優勝で終了した。
◇
「あのさ〜、運転できなくても、せっかく銃座と増加装甲してるんだから、ハンヴィー実体化させてそこから対戦車弾撃てば、死なずに済んだんじゃないか? カイとユーサクの場所もわかってるんだし」
「……完全に忘れてた」
「ま、いっか〜 とりあえず酔わないけど、乾杯だ〜」
「おう!」
今回は2度目の優勝ということで、会場のラウンジで2人で祝杯を上げることにした。
と、そこへカイとユーサクがやって来る。
「シューメイさん、あれズルいっすよ〜 でもタイマンでは勝ちましたからね!」とカイ。
「ふん! 2対1じゃタイマンじゃないだろ」とそっけないシューメイ。
ユーサクは「シノブさん、前回優勝といい、金髪赤眼のスナイパーの二つ名の通り、本当にすごいスナイパーになったんですね!」
「あ、うん……」 『鷹の目』を使った2度の優勝……ほんのちょっとだけ、それも一瞬戸惑ったけど、「ありがと〜」と返した。
「今日は『おめでとう』は言いますけど、次は俺たちが言わせますからね!」とカイとユーサクはログオフした。
「んじゃ、俺たちも戻るか……」
「うん、じゃまた明日〜」
オレたちもログオフした。
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