第25話 今日は一人で

 翌日曜日。昨日は疲れて24時過ぎには寝ちゃったからまた早起き。でもスマホを見るともう7時か。

 英明とアズサちゃんはまだ起きてない様子……また昨夜もえっちしたんだろうな。ま、今のオレには関係ないけど……。

 とりあえずコーヒーでも〜とキッチンへ行き、電気ポットでお湯を沸かしてコーヒーを淹れ、TVを点ける。二人を起こさないように消音にして、と。

 そういえば先週の日曜日はニュース番組で『VRMMORPG BulletSでトラブル』とかやってたよな――今日はそんな内容もやってない。世間の関心が他に移ったか、栗山さんたちというかアストラル・ゲームスかアストラル製薬がうまく収めたというか隠蔽したのかな?

 あれから一週間、女の子のアバターの姿になって、栗山さんたちが来て示談やら精密検査、再LOGONテストとかおまけにプロ契約とか本当、目まぐるしかったよな〜今日ぐらいは静かに一人で過ごしたいな……。

 あ、そうだ。今日二人はアズサちゃん用のPC買いに出かけるんだっけ。ならちょうどいいな、ってもまだお店が開くには数時間あるな。

 大したニュースもやってないので部屋に戻る。

 自室用のTV、買おうかな。でもほとんど見ないし大抵のことはスマホでことが足りるけど、なんせ手が小さくなっちゃったから今の機種だと大きすぎて片手じゃ持ちにくいんだよね。

 二人について行ってビックリカメラで、今の6インチから5インチ程度のに機種変しようか……でも今日はやっぱり一人でいたいし、悩むところだなぁ。


 ベッドの上にぺたんと座ってスマホをいじりながらうだうだ悩んでるうちにアズサちゃんが起きたようだ。キッチンからパンと目玉焼きの焼けるいい匂いと音がしてくる。

 しばらくしてドアのノックの後「おはようございま〜す」と、いつでも出かけられるようにもう着替えたアズサちゃんが入ってくる。

「あ、おはよ〜。いい匂いするね〜」

「はい、朝ご飯できましたよ〜。あ、忍さんもうコーヒーお飲みなんですね〜」とベッドわきにあるデスク上のPCとギアの横に置いてあるマグカップを見て言う。

「うん、さっき目が覚めて淹れたんだ。でもまた飲もうかな〜」

「じゃ淹れますね〜」と言いながら出ていく。

 あ〜オレも着替えなきゃ。ブラつけるのもだいぶ慣れたな〜。今日は着飾る必要ないからトレーナーとジーンズでいいか。

 着替えてから冷たくなったコーヒーが入ったマグカップを持ってリビングへ。あ、もうトーストと目玉焼き――オレの好みの半熟で、塩コショウが置いてある。

 あれ、二人分? 英明まだ寝てるな。

「では、いっただきま〜す」

「はい、召し上がれ〜。今朝も食材ないからこれだけなんですけど〜。ごめんなさい」

「え、アズサちゃんが謝ることなんてないよ〜、昨夜は研究所から真っすぐ帰って来たんだし、夕食だってある材料で作ってくれたじゃん」

「そうですけど〜」

「今日PC買いに行くついでに食材買えばいいじゃん? 英明と二人で新婚さんみたいにさ〜」

「え〜忍さんは一緒に来ないんですか〜?」

「ん〜この一週間めまぐるしかったから、今日はゆっくりしようかな〜って思ってさ」

「そうですね、先週は大変でした〜。でも一緒に行きましょうよ〜」

「う〜ん、今日はやっぱり一人でいたい気分かも」

「そうなんですか~」


 ここのところ、アズサちゃんと一緒に朝食を摂るのが当たり前になってる。親友の彼女だけど、オレは身体はもう女だから別にいいのかな? でもやっぱりちょっとなんか変な感覚。

 アズサちゃんはすらっとして背が高いしスタイル良いし可愛いし。第一巨乳だ! と、ちらっとアズサちゃんの胸を見たオレの心を見透かしたように「じゃ、今度二人だけで女の子デートしません? わたしブラ新調したいし、それに忍さんの新しい服と下着選んであげたいし〜それに忍さんスイーツ好きですしね〜」

「う、うん。ありがと〜」う〜ん、女子化してから5期下の後輩なのにどうも調子が狂うな〜。ま、女性としてはアズサちゃんの方が20数年も先輩だしな。

 そのうち英明がいつものように「腹減った……」と起き出してきたので、アズサちゃんは甲斐甲斐しくトーストと目玉焼きを作り始めた。


 10時前に英明とアズサちゃんが出かける。

 さぁ〜てと、久々の一人の自由な時間! 何して過ごそうかなぁ〜。

 洗濯とかはいつもアズサちゃんがやってくれてるし、引っ越したばかりだからまだ掃除する気も起きないし。

 あ、そうだ、鍵! 洋画では各個人の部屋って鍵掛かるようになってるよね。日本はそういう部屋ってあまり見ない気がする。

 アズサちゃんならいいけど、英明に入ってこられたらイヤだし。昨日はオレの大声を心配して入ってきてくれたのはよかったけど……。

 内側からしか開けられない鍵みたいなのって、百均とかにあるかな?

 ついでにドコデモショップに行って小さめのスマホに機種変更しようかな? あ、でも身分証明書が要るんだっけ? 車の免許証しかないけど写真は男のままだしダメだよね。ちょっとググってみよう。

 オンラインショップなら機種変更するのに身分証明は不要かも。

 契約者情報は名前・生年月日・住所・電話番号・メールアドレス……あ、住所変更してないけど大丈夫かな? ってそもそも住民票移してないし。

 支払いはクレジット、これも住所変更してないや。でも両方とも必要ならオンラインで変更できるし、申し込み時に違っててもオッケーかな?

 商品受け取り方法は宅配便で会社宛でもいいし、料金プランは特に変更ない。うん、大丈夫そうだ。

 でも大きさが気になるから、今日は見るだけでもショップに行ってみようと出かけることにした。

 もう11時過ぎだから二人が戻る前に帰らなきゃ。

 まずは百均でトイレの『スライド式の鍵』みたいな物を探す、探す、探す……あ、あった。『ラッチ』っていうんだ。取り付けは――付属の木ネジじゃダメだから両面テープで付ければいいか。壁とドアに段差がないからオッケーだ。

 無理矢理開ければ剝がれちゃうけど、音で気が付くしね。

 次はドコデモショップを覗く。あ、今使ってるスマホより小さいけど、『第5世代』ってのがあるな〜これならちょうどいい大きさだな。嬉しいことに顔認証じゃないし。

 と、スマホを手に取ると、これモックじゃない、実機だ。

 女子化して目が良くなったから表示が小さくても大丈夫だし〜と設定をいろいろ変更してると、「学生さんですか? 社会人でも25歳以下なら割引になりますよ〜」とショップの店員さんが近づいてくる。

「あ、今日は大きさを見にきただけなんで大丈夫です〜」とそそくさとその場を離れた。

 う〜ん、この『可愛らしい』見た目が裏目に出たな〜。中身は33歳独身童貞のおっさんなんだけどな!


 なんかちょっと悔しいから駅前の喫煙コーナー、SMOKING CORNER Supported by JTSでタバコ吸って帰るか〜。

 加熱式タバコをポーチから取り出し、お気に入りのベリーフレーバーのタバコスティックをセットしてスイッチを入れプハ〜と一服。

 案の定、隣でタバコを吸ってるお兄ちゃんがガン見してくるけど無視。

 まぁこんな『赤目金髪の美少女』が加熱式とはいえタバコ吸ってりゃ目立つよね。でも見た目が外国人っぽいから声はかけられないで済んだので、余裕で一本吸ってマンションへ戻った。

 帰宅してすぐに鍵を取り付ける。

 両面テープだからちょっと心許ないけどし、これで外からはすぐには入って来られないから一安心かな。ってちょっと自意識過剰かもだけど、別に変なことをするわけじゃないしプライバシーってのがあるしね。


 久々に一人になって、半年前のことを思い出す……。

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