第23話 約一週間ぶりのVRMMORPG BulletS本番環境
前回、Rは『鷹の目』が使えなくなっていた。その推測というかオレの観察力で優勝できたようなもんだったなぁ。
三人別々に更衣室で検査着に着替え終え、崔部長がVRMMORPG BulletS SYSTEM本番環境へのLOGONテストの最終チェックをしている間、待ちながら1年前を思い出していた。
そうだ、半年前はシューメイが運転出来ないお陰で……と思い出しかけたとき「では、準備ができましたので高岡さんと勝野さん、電極テープを額に貼りマシンに入ってください。秋山さんの準備が出来次第、三人同時にVRMMORPG BulletSにLOGONしていただきます」と崔部長の指示。
「はい」
「わかった」
「秋山さんはまだ数回しかダイブしていませんが、不安はないですか?」と電極テープをアズサちゃんの額に貼りながら聞く。
「はい、大丈夫です~」
オレたち二人は看護師さんから受け取った電極テープを貼り付けマシンの中に入り仰向けに寝る。
「準備OKです」
「俺もだ」
やがてカバーが閉じ、カプセル内の照明が点灯。
先ほどと同様に崔部長が「LOGONシークエンスを始めます」と言うと、システムアナウンスが聞こえ10数秒ほどでクローズ環境ではない本番環境のVRMMORPG BulletSにダイブ。はっきりしてきた視覚で周囲を見回すと『始まりの街』の転送ポイントにいた。
左右にはT-9000姿のシューメイと、T-0814こっちはアズサちゃんだな。
「あ、アズサちゃんのアバター、懐かしいなぁ〜。昔のわたしだ〜」VRMMORPG BulletS内では女性を演じているので、っていうか今は現実世界でも女性になっちゃったので普通に女性っぽく話す。
「わぁ〜シノブさんって、現実世界と全く同じなんですねぇ〜」驚いた様子のアズサちゃん。
「こうなると、あっちとこっち、どっちが本物かわからんな……」とシューメイ。
改めてそう言われ、気になったので自分の顔や手足をパタパタ触って質感、感触はあっちと変わらないのを確かめ、次にメニューで今まで何でそんな物があるのか意識してなかったけど『鏡』を実体化させる。これっておしゃれ用だったのかな? などと思いながら映った自分の顔や髪、目の色を改めて見てみる。
よし、完全にあっちと同じ美少女が写ってる!
「あはは、わたしもそう思う。でもどっちも『わたし』だよ〜」
そう、このVRMMORPG BulletSの全アバターは生身と見まごうばかりに精巧にデザイン&プログラムされていて、崔部長の意気込みが感じられる。
インカムを通じて『みなさん、VRMMORPG BulletSはいかがですか? 特に高岡さん、アバターに違和感などないですか?』と崔部長の声。
「はい、現実世界と同様に可愛いです!」
『ははは! 高岡さん、冗談がお上手で!』へ〜崔部長って必要以上のことは話さず、いつも考え事をしている顔だけど、こんなふうに笑うんだ。ちょっと驚いたな。
「えっと、本番環境でもメニューは通常に機能している様です。まだ武器や装備は出してないですけど、これから試してみます。あ、『鏡』を出しました。今まで使ったことなかったんですけど、これって女性アバター用ですか?」
『いやいやいや、それはサバイバル用の装備ですよ。直接見ることができない場所を見るですとか』
「そうか〜なるほどですね」サバゲーはやったことないから知らなかったな〜ってVRMMORPG BulletSもいわゆるサバゲーか?
『高岡さんは「鷹の目」があるからあまり必要ではなさそうですね』と崔部長。
「そうですね〜。ま、今のところは自分の顔を見るくらいですかね〜」
『標準装備なので、そんなことを仰らずに何かにご活用ください』
「は〜い」
『では勝野さんと秋山さんは、メニューから銃を実体化させて射撃のテスト。高岡さんは「鷹の目」のテストをします』
「はい……あ、アズサちゃんは武器持ってたっけ?」
「え〜っと、シューメイくんのと同じM何とかってのを買いましたよ〜」アズサちゃんはVRMMORPG BulletS内では秀明と呼ばずちゃんとシューメイと呼んでるな。
「あ〜M16A3ね。中短距離なら扱いやすいし、第一、弾も三人で共有できるからいい選択だね」
「おう。シノブも普段はM16A3を使ってるしな。あとはハンドガンがあれば接近戦でも有効かな。ま、それはおいおいと」
「そうだね〜」
『高岡さん、PvPONにして「鷹の目」が発動するか確認してください。レンジは2キロメートルで』と再び崔部長の指示。
「りょ〜かい」
他の二人もM16A3を実体化させ、何発か下に向け試し撃ちをしてから二人で街の中心部を離れて行った。スモール級でも狩るのかな?
オレはメニューでPvPONに。視野が広がる。レンジを2キロメートルに合わせPvPOKの赤い『▼』マークを探すもいない。ここは『始まりの街』だからレベルが低いプレイヤーが多いからPvPするヤツも少ないだろうな。
「崔部長、半径2キロメートル以内にはPvPONにしているプレイヤーはいませんね」
『はい、合ってます。ではレンジを4キロメートルに広げてください』
『鷹の目』は視野のレンジを意思で数メートルから数キロメートルで自由に変えられる。下手すりゃ地球全部が見えるんじゃないかな? 怖いからやったことはないけど。っても見えるのはこのVRMMORPG BulletS SYSTEMの範囲内だろうけどね。
レンジを切り替えると、いたいた。3,512メートル先12時方向に一人、1,980メートル……3時方向に二人。崔部長に伝えると、『はい、合ってます。「鷹の目」も正常ですね』
ふ〜良かった。
『では30分ほど軽くチームS・Sのシノブさんの復活をアピールしていただけますでしょうか』
「あ〜、そういう作戦ですね。承知しました〜」
オレはASM338(AWSM)を実体化させ、あまり移動はしたく無かったので先ほど二人プレイヤーが見えた近い方の3時方向に向かう。
途中――、
「あ、チームS・Sのシノブだ」
「え? あの『赤目金髪のスナイパー』?」
「ああ。先週の強制LOGOUT以来見てなかったけど……」
と話している声が聞こえてくる。
それに軽く手を振り「残業で大変だったんだよ〜」と答えてそのまま有効射程距離のポイント付近まで移動。
向かった先で『鷹の目』で再度PvPONにしているプレイヤーを探すと、一人に減っている。
きっとPvPで勝った方だろうな。プレイヤー名は『P』。知り合いじゃないからいいか。
近くのビル屋上に移動し、ターゲットを再度『天の秤目』と『鷹の目』で捉え、一応『PvPするぞ』の意味で足元に一発撃ち込む。ターゲットが気が付いたことを確認した後、アシストシステムをONにし、礼儀正しくラインを出しターゲットの眉間に第二射。
「さ、て、と」シューメイたちは何してるかな〜とPvPONを解除し、インカムでシューメイを呼び出す。
「おーい、お二人さん。今どこ〜?」
「ああ、スモール級を3体倒したから、これからアズサをいつものガンショップに連れて行くんだけど、お前も用が済んだら来いよ」
「うん、『鷹の目』のテストも完了したから、これから行くよ〜」
「おう、待ってるぜ」
どっこいしょっと……一度実体化させて次に使うまで持って歩くのはしんどいな……。
重い重い重い……崔部長に再収納できる様システム変更の依頼をしよう……と思って歩きながらいつものガンショップに到着。
「オヤジさ〜ん! おっ久しぶり〜」
「お〜シノブちゃん! 久々だな〜どうしてたんだ?」
「いや〜残業で大変だったんだよ〜。で、今日から完全復帰ってわけ〜」
「お〜そりゃおめでとう! でもリアルの仕事のが大事だもんな〜」
「まあね〜。あ、シューメイ、アズサちゃんのことは?」
「ああ、新たにチームS・Sに加入したと伝え済みだ」
「は〜いチームS・S・Aのアズサで〜す」とアズサちゃん。
「最初はシノブちゃんがコンバート前に戻っちまったのかと驚いたぜ。しっかしシューメイ隊長は両手に花でまったく焼けるぜ! 別の意味でVRMMORPG BulletS RECOILのライバル以外に敵プレイヤーが増えるぞ〜」とオヤジさん。
「なんのことだ?」
「あ〜あ、シューメイってこういったところがなんかズレてるっていうかさ〜」
「そうですね〜。でも私たちってそんな関係じゃないんですけどね〜。周りのプレイヤーはそうは見ないかもしれないですね〜」とアズサちゃんは冷静だ。
「あ、そうだシノブさん! わたしとシノブさんがベタベタしてれば、少しは誤解が解けるかもです〜」
「えぇぇぇ?」
「ああ、そうかもな」
「シ、シューメイまでそんなこと言う〜?」
「ほ〜ん、そういった関係ね……っと」
「オヤジさんなにやってるん?」
「いや、チームS・S・Aのデータ登録を、」
「他になんか入力してません?」
「企・業・秘・密! だ」そう来るか~
そろそろLOGONして30分かな? インカムで崔部長に連絡。「テストも一通り終了したんで、そろそろLOGOFFします」
『了解です。ではメニューからLOGOFFしてください。システムログをチェックしますのでその間、お着替えになって休憩していてください』
「は〜い。じゃ移動しようか?」
「ああ」
「は~い」
アズサちゃんのレベルに合わせ『始まりの街』まで戻る。
アズサちゃんは最初は「手を繋いで歩きましょうよ〜!」と言ってきたけど恥ずかしいからイヤ! と断ると、今度は身長差があるんで背後からおおい被さってくる。あ〜元童貞現処女にはハードル高すぎだし、歩きにくい〜
仕方なくそのままで歩いていると、途中「あれ?チームS・Sだ」とか、「女の子一人増えてんじゃん、元カノ?」とかいろいろ聞こえてくる。
やっぱりシューメイ敵を増やしたなぁ。
他には「女性アバターは男が多いっていうけどな〜」とか聞こえたけど、はいはい、わたしこの前までそうでしたけど何か? って感じで受け流した。
転送ポイントまで戻ってLOGOFF――。
◇
現実世界に戻りしばらくぼーっとして、ゆるゆるとマシンから起き上がる。
「本番環境にLOGONもダイブもできて、無事にLOGOFF完了してよかったぁ〜」
うぅ〜んと、大きく伸びをする。
「ああ、そうだな」
「よかったです〜」
「身体はTHX-1489のままだけど〜」
「まぁ無事でなによりだ」
「あ、あはは。そうだね〜」
「ですよ〜」
私服に着替え、いつの間にか現れた助手に後についてくるよう促され三人で控室に戻る。
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