第32話 『鷹の目』で掴んだ優勝
プレイヤーレベルはPvPを幾度となくこなし、当時のMAXレベル250に到達していた。
これで、前回の優勝者たちを相手にしても、今度こそ優勝できるはずだ。
なんてったって、『鷹の目』を手に入れたんだ。それに『天の秤目』を組み合わせれば、あのチームM6にも引けを取るはずがない。最悪、一騎討ちになったとしても……それが叶えばいいけど。
あのチームにいるRed、オレの頭を吹き飛ばしてくれたヤツも『鷹の目』を使えるはずだから、最後まで当たらなければ、オレたちにも勝機はあるはずだ。
戦闘フィールドに転送されると同時に、予想通り『鷹の目』が発動。視野が一気に広がり、マップと同じように俯瞰できるようになる。システムの位置情報が直接視界に映し出され、全体の状況が一目で把握できる。
前回大会の欠場などを含め、上位4チームはフィールドの四隅に転送され、チームM6は対角線上の約11,200メートルほど離れた山岳地帯に配置されていた。
オレたちは荒野に転送され、周囲は丸見えの状態だった。そこで『鷹の目』を駆使して、フィールド中央付近に位置する廃都市方面に向けて、10分後のスキャン前に進軍を開始することにした。周囲で敵チームを見つけ次第、背後や側面から奇襲する戦術をとるつもりだ。
約50メートル離れ、12時方向へ並行して移動しているシューメイの位置を、『鷹の目』の位置情報共有機能で表示させる。続けて、『11時方向、距離200。次は1時方向250――』とインカムで指示を出し、近くの敵チームを片っぱしから排除させていった。
あ、誤解のないように言っとくけど、もちろんオレもアシストシステムを使ってM16A3で何人か倒してる。一度実体化させたAWSMはクソ重いから、終盤に使う予定だ。
そして、前回よりも早い約1時間半後、残ったのはやっぱりチームM6とオレたちだけだった。
場所は中央付近の廃都市。
お互いの距離は2,000メートルもなかったが、他のビルが邪魔で、『鷹の目』を使わなければ目視では確認できなかった。
「アイツら、なんか動きが前回大会と違くない?」とインカムでシューメイに聞く。
『ん〜、そういえばそうかもな……前に比べて移動速度も遅いし、だいいち固まって移動してるな?』
「そうなんだよね。こっちに向かって来てるみたいだけど……」
まるで、『鷹の目』が使えなくて仕方なく? とは思ったが、そのことはシューメイには黙っておいた。
『それなら次のスキャンの前に、ぶっ放してやろうぜ。シノブが温存してるAWSMをさ!』
「そうこなくっちゃな!」
『おう! じゃ先に俺がMと他をヤるから、シノブはRedを――』
「みなまで言うなよ、これはオレのリベンジだからな! じゃ、前進開始だ!」
オレはRedとの距離を、約8分かけて1,460メートルまで縮めた。身長が低くなった分、歩幅も短くなり、移動に時間がかかる。階段もあったし、少し遅れたのはそのせいだろう。
10階建てのビルの屋上に陣取ると、AWSMを実体化させ、プローンポジションを取って構える。念のため、アシストシステムをONにした。
『鷹の目』でRedを探す――いた、いた。
あと1分で次のスキャンだ。間に合った。
オレの推測が正しければ、相手リーダーのMにはオレの位置はわかるけど、Redにはわからないから、位置を教えるはずだ。
――スキャンの瞬間、やはりレティクル内でMがRedにオレの位置を伝えているのか、こちらを見て何か指示を出している様子が確認できた。迷わず、トリガーを引く。
バレットラインに沿って、.338ラプア・マグナム弾の弾頭は約1.74秒後にRedの頭をブチ抜いた。
すかさずボルトを引き、第2射で隣のMの頭もぶち抜く。
2人の【▼】が【DEAD】に変わった。
「シューメイ悪い、Mもヤッちまったから、残りよろしく〜」とインカムでシューメイに伝える。
『てめ〜、俺の獲物を〜! 残り全部、俺がヤっちまうぜ!』
「い〜よ〜」
さてと、シューメイの援護しなくちゃな〜と、『天の秤目』で見ると……お〜お〜、500メートル付近からM16A3をフルオートでめちゃくちゃ撃ちまくって突っ込んで行くのが見える。
『鷹の目』で確認すると、チームM6のプレイヤー【▼】が、あっという間に残り4人全員【DEAD】になっていた。
◇
そして、チームS・Sは第4回VRMMORPG BulletS RECOILの優勝チームになった。
優勝賞金が入金されたのをメニューで確認し、2人で大会会場付近のバーで祝杯をあげる。
とはいえ、アバターでいくら酒を飲んでも酔わないから、味わうだけなんだけどね。
もちろん大会会場で他の連中と祝杯をあげるのも良かったけど、敗者からの視線、特にMの連中とは顔を合わせたくなかったんだ。ヤツらも同じ思いだったらしく、早々に引き上げたようだった。
「なぁシューメイ、『鷹の目』って今はオレしか使えないみたいだよ?」
オレは思っていた疑問と、確証を得たことをシューメイに伝える。
「なるほどな。だからおまえ、スキャンを待ってからRedを撃ったんだな。外れてたらちょっと危ない賭けだったな」
「うん。でもヤツらの動き、『鷹の目』を使ってたなら前大会と同じ戦略にしていたと思うんだよね。今日のオレたちみたいに、っていうか、まぁ今日のは『鷹の目』ありきの戦略と戦術で、ヤツらを真似したんだけどね」
「そうだな。たしかに『鷹の目』は使ってなさそうだ……というか、使えなくなってたみたいだな。――俺たちは次の大会で完全にマークされるから、戦略と戦術は変えないにしても、何か装備にプラスアルファしないとな」
「賞金で何買う? オレのも一緒にしてさ」
「ん〜シノブって車、運転できるか?」
「免許は持ってるけど完全ペーパーだよ。だって維持費もかかるし、必要ないじゃん?」
「ま、そうだがここは免許なんて不要だから、ちょっと練習すれば大丈夫じゃないか?」
「で、何? 戦車でも買うの?」
「アホ、そんなの売ってるわけ――あるかもな、あそこなら」
「あ〜あるある! あのオヤジさんなら戦車の1両や2両、在庫抱えてそうだよ」
「んじゃ、ちょっくら見に行ってみるか!」
「うん……でも戦車って普通自動車と同じように運転できないんじゃない?」
「だな〜 なら戦闘用の車両があるか聞いてみるか」
「いいねぇ〜そうしよう! んじゃ、早速行こうぜ〜」
「オヤジさ〜ん! 勝ったよ〜!」
「オス!」
「おお、シノブちゃんにシューメイ隊長! 観てたぜぇ〜優勝おめでとう!」
「えへへ〜ありがとう〜」
店にいた客たちも、「あ、チームS・Sだ!」と言いながら、拍手と声援で祝福してくれる。
「『鷹の目』のおかげで勝てたよ……」とオヤジさんに小声で報告する。
「お〜やっぱりな。あの戦略、前回のチームM6と同じだったよな。でも何で彼らは同じ戦略をとらなかったんだ?」
「わたしの推測なんだけど〜Redって人、『鷹の目』使えなくなってるんじゃないかな?」
「あ〜なるほどな〜 それならわかるわ」
「でしょ〜?」
ここからは普通の声で「で、オヤジさん、戦車ってある?」と聞いてみる。
「はあぁぁぁ? 戦車だぁ?」
オヤジさんの大声で店中の客が振り返る。
「オヤジさん、声大きいぃ!」
「いや、シノブちゃんが戦車なんて言うから。ここは銃と弾丸の世界だぜ。戦車なんてあるわけ……戦車ねぇ……戦車に近いものといえば……」
「え? あるの?」
「いや、ないないない。High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle……つまり、ハンヴィーくらいなら用意できるけどな?」
「え? ハンヴィーって何?」
「簡単に言うと、シノブちゃん、Hummer(ハマー)って知ってるだろ? あれの軍用っていえばわかるかな?」
「あ〜あれね〜なんか平べったいジープみたいな感じのゴツいやつね」
「そうそう」
「じゃ、それと軽油を満タンで95リットルか」
「ええっ? 買っちゃうの?」
オレの意見を無視し、シューメイは注文を続ける。
「銃と弾薬はブローニングM2E2重機関銃と12.7x99mm NATO弾を10帯。あとPSRL-1用のSR-H1を10本と、5.56x45mm NATO弾をマガジンで10……いや100か。あと.338ラプア・マグナム弾、これもマガジン100――今のところそれくらいか」
すらすらと銃と弾薬を注文するけど、シューメイってば戦争でもおっぱじめるんか?
「支払いは隊長? シノブちゃん?」
「今日は俺が払う」
「毎度あり〜 じゃ、ちょっくら待っててくれ」
「ね、シューメイ、やっぱりわたしが運転するの?」
「ああ」
「でもペーパーだよ?」
「練習しろ」
「え〜シューメイが運転してよ〜」
「俺は免許も持ってないし、車を運転したことがない」
「えぇぇぇぇぇぇ! 先にそれ言ってよ〜」
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