第22話 『鷹の目』で掴んだ優勝

 プレイヤーレベルは、PvPを幾度となく行い当時のMAXレベル250になっていた。

 これで前回優勝者連中を相手にしても今度こそ優勝できるはずだ。

 なんてったって『鷹の目』を手に入れたんだ。それに『天の秤目』を組み合わせればあのチームM6にだって引けを取るはずがない。最悪一騎討ちになったとしても……だといいなぁ。

 あのチームにいるR、オレの頭を吹き飛ばしてくれたヤツも『鷹の目』を使えるはずだから最後まで当たらなければオレたちにも勝機はある。


 予想通り、戦闘フィールドに転送されると同時に『鷹の目』が発動し、視野が一気に広がりマップと同様に俯瞰できるようになる。『システムの位置情報』が直接『見える』。

 前回大会の欠場などで繰り上げを含めた上位四チームはフィールドの四隅の地点に転送され、チームM6は対角線上の11,313メートルほど離れた山岳地帯にいた。

 オレたちが転送された場所は荒野で周りから丸見えだったのでフィールド中央付近の廃都市方面に移動しつつマップ表示される前に『鷹の目』を使い、敵チームの背後あるいは側面に回り込んで奇襲する戦術をとった。

 50メートルほど離れ、12時方向へ移動しているシューメイのマップに『鷹の目』の位置情報を共有機能で表示させ、「11時方向200、次は1時方向250――」とインカムで指示を出して近くのチームを片っぱしから倒させた。

 あ、誤解のないように言っとくけど、もちろんオレもアシストシステムを使ってM16A3で何人かは倒した。

 一度実体化させたらASM338(AWSM)はクソ重いから、終盤に使う予定だ。


 そして、前回よりも早い約1時間半後に残ったのはやっぱりチームM6とオレたちだけだった。お互いの距離は2,000メートルも無かったけど、視界の悪い森林地帯だった。

「シューメイ、アイツらなんか動きが前回大会と違くない?」とインカムで聞く。

『ん〜そういえばそうかもな……前に比べて移動速度も遅いし、第一固まって移動してるな?』

「そうなんだよね。10分ごとのマップ更新でこっちに向かって来てはいるみたいなんだけど」

 まるで『鷹の目』が使えなくて仕方なく? とは思ったけど、そのことシューメイには黙っていた。

『それなら次のマップ更新の前にこっちがアイツらに近づいて、ブッ放してやろうぜ。シノブが温存してるASM338(AWSM)をさ!』

「そうこなくっちゃな!」

『おう! じゃ先に俺がM他をヤるから、シノブはRを――』

「皆まで言うなよ、これはオレのリベンジだからな! じゃ、前進開始だ」


 そう言うや否やオレはRとの距離を約8分かけて1,500メートルまでに縮め――身長も低くなって歩幅も短くなった分、移動に時間が掛かるんだよね――ASM338(AWSM)を実体化させプローンポジションを取り、構える。

 システムアシストは使わず『天の秤目』でRを捉える。いたいた。

 タイムを見ると、間に合った……あと1分で次のマップ更新だ。

 オレの推測が正しければ相手リーダーのMにはオレの位置はわかるけど、Rにはわからないから位置を教えるはずだ。

 ――マップ更新の時間、思った通りレティクル内にMがRにオレのいる位置を伝えているのか、こちらの方を見て何か指示している様子が見える。

 すかさずトリガーを引き、約1.67秒後にRの頭をブチ抜いた。

 急いでボルトを引き、第二射で隣のMの頭もぶち抜いてやった。

 二人とも『DEAD』表示になる。


「シューメイ悪りぃ、Mもヤッちまったから、残りよろしく〜」インカムでシューメイに伝える。

『てめ〜俺の獲物を〜! 残り全部俺がヤッちまうぜ!』

「おねが〜い」

 さてと、シューメイの援護しなくちゃな〜と『天の秤目』で見ると……お〜お〜距離500メートル付近からM16A3をフルオートでめちゃくちゃ撃ちまくって突っ込んで行くのが見える。

『鷹の目』の表示であっという間に残り四人もすべて『DEAD』になった。



 そしてチームS・Sは第4回VRMMORPG BulletS RECOILの優勝チームになった。

 優勝賞金が入金されたのをメニューで確認してから二人で大会会場付近のバーで祝杯をあげる。

 ってもアバターでいくら酒を飲んでも酔わないから味わうだけなんだけどね。

 もちろん大会会場で他の連中と祝杯を上げるのでも良かったんだけど、敗者からの視線、特にMの連中とは顔を合わせたくなかったんだ。ヤツらも同じ思いだったらしく早々に引き上げたようだった。


「なぁシューメイ、『鷹の目』って今はオレしか使えないみたいだよ?」

 オレは思っていた疑問と、確証を得たことをシューメイに伝える。

「なるほどな。だからお前、スキャンを待ってからRを撃ったんだな。外れてたらちょっと危ない賭けだったな」

「うん。でもヤツらの動き、『鷹の目』を使ってたなら前大会と同じ戦略にしていたと思うんだよね。今日のオレたちみたいに、っていうか、まぁ今日のは『鷹の目』ありきの戦略と戦術で、ヤツらを真似したんだけどね」

「そうだな。確かに『鷹の目』は使ってない。というか使えなくなってたようだな。次回大会からは完全にマークされるだろうから何か今の戦略にプラスアルファしないとな」

「賞金で何買う? オレのも一緒にしてさ」

「ん〜シノブって車、運転できるか?」

「免許は持ってるけど完全ペーパーだよ。だって維持費もかかるし必要ないじゃん?」

「ま、そうだがここは免許なんて不要だから、ちょっと練習すれば大丈夫じゃないか?」

「で、何? 戦車でも買うの?」

「アホ、そんなの売ってるわけ――あるかもな、あそこなら」

「あ〜あるある! あのオヤジさんなら戦車の一両や二両在庫抱えてそうだよ」

「んじゃ、ちょっくら見に行ってみるか!」

「うん……でも戦車って普通自動車とおんなじ様に運転できないんじゃない?」

「だな〜。なら戦闘用の車両があるか聞くか」

「いいねぇ〜そうしよう! んじゃ、早速行こうぜ〜」


「オヤジさ〜ん! 勝ったよ〜!」

「オス」

「おーシノブちゃんとシューメイ隊長! 観てたぜぇ〜優勝おめでとう!」

「えへへ〜ありがとう〜」

 店にいた客たちも「あ、チームS・Sだ」とか言いながら、拍手で祝福と声援を送ってくれる。

「『鷹の目』のおかげで勝てたよ……」とオヤジさんに小声で報告。

「お〜やっぱりな。あの戦略、前回のチームM6と同じだったよな。でも何で彼らは同じ戦略をとらなかったんだ?」

「わたしの推測なんだけど〜Rって人、『鷹の目』使えなくなってるんじゃないかな?」

「あ〜なるほどな〜。それならわかるわ」

「でしょ〜?」

 ここからは普通の声で「で、オヤジさん、戦車ってある?」

「はあぁぁぁ? 戦車だぁ?」オヤジさんの大声で店中の客が振り返る。

「オヤジさん、声大きいぃ!」

「いや、シノブちゃんが戦車なんて言うから。ここは銃と弾丸の世界だぜ。戦車に近いものといえば……」

「え? あるの?」

「いや、ないないない……ハンヴィー(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle:高機動多用途装輪車両)くらいなら用意できるけどな?」

「え? ハンヴィーって何?」

「簡単に言うと、シノブちゃんハマー(Hummer)って知ってるだろ? あれの軍用っていえばわかるかな?」

「あ〜あれね〜なんか平べったいジープって感じのゴツいやつね」

「そうそう」

「じゃ、それと軽油を満タンで95リットルか。銃と弾薬はブローニングM2E2重機関銃と12.7x99ミリNATO弾を……10帯。あとPSRL-1用のSR-H1を10本と、『5.56ミリNATO弾』マガジンで50……いや100か。あと.338ラプアマグナム弾これもマガジン100――今のところそれくらいか」すらすらと銃と弾薬を注文するけど、シューメイってば戦争でもおっぱじめるんか?

「優勝賞金分で足りるけど支払いは、隊長? シノブちゃん?」

「今日は俺が払う」

「毎度あり〜。じゃ、ちょっくら待っててくれ」

「ね、シューメイ、やっぱりわたしが運転するの?」

「ああ」

「でもペーパーだよ?」

「練習しろ」

「え〜シューメイが運転してよ〜」

「俺は免許も持ってないし、車を運転したことがない」

「えぇぇぇぇぇぇ! 先にそれ言ってよ〜」

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