第21話 アストラル・ゲームスの目的

「再LOGONテスト終了です。お疲れ様でした」と崔部長も安堵したようだ。

 ちゃんとLOGOFFできた安心感からか、ぼーっとしていると「おい、忍どうした? 大丈夫か?」

「忍さん!」二人から声をかけられる。

「大丈夫〜無事LOGOFF出来て安心してぼーっとしちゃった。ほら、今朝LOGOFF出来ないで大声出しちゃってみんなを起こしちゃったじゃん?」

「そうだな」

「逆夢だったんですよ〜」


「それではしばらく休憩したのち、本社サーバーに接続した本番環境のVRMMORPG BulletSへのLOGONを行っていただきます。先ほどお願いしましたが、お二方もダイブしていただけますでしょうか?」と崔部長が二人に言う。

「ん〜さっきは付き合うとは言ったが、やっぱりお前らの意図を聞きたい」

「――それでは別件のお話もありますので、休憩中に栗山からご説明させていただきます。申し訳ないですが高岡さん、一旦検査着から着替えて控室に移動していただけますでしょうか?」と言った後、なにやら電話をかけ始める。

 しょうがないな〜と思いながらまたワンピに着替えはじめる。

「看護師さん、また後で着るから検査服はロッカーに入れたままにしてていいですか?」

「いいですよ〜。検査とかテストとか大変ですね」

「まぁしょうがないですよね〜」と言いながら着替えて皆に合流し控室に。


 今度は一条教授も同席していた。

「皆様お飲み物は何になさいますか?」と助手の一人が聞いてくる。

「あ、じゃわたしコーヒー。ホットで」

「俺も」

「わたしは……紅茶がいいです」

「かしこまりました」

「で、休憩がてら皆様にご報告と依頼があります」と栗山社長。

「では、一条教授よろしくお願いいたします」

「わかりました。先ほど、高岡さんは99.9パーセント人間で、DNAの塩基対は約60億からできていると説明しました」

「はい……」何を言われるんだ……? コーヒーを飲む手が止まる……。

「DNAから染色体が作られていることはたしか中学3年あたりで学習すると思いますので、みなさんご存知だと思います。そしてこの染色体は人間では一つの細胞に46本で23対あり、そのうち44本22対は常染色体、残りの2本1対は男女の性別を決定づける性染色体です。その性染色体にはX型とY型の二種類があり、XYのペアで男性、XXで女性になります」

「ええ」「うん」

「あ、わたしそれ忘れてるかも~」

「つまり人間の男性の性染色体はXY、女性の性染色体はXXなんですが、高岡さんの性染色体はⅩYのままなんです」

「じゃ、オレってそのうち男に戻るんですか?」ゴクリと唾を飲み込む。

「いや、それは内性器、外性器共に未発達ですが完全な女性ですのでほぼ100パーセントありません。高岡さんとは全く異なりますが、例えば男性への性分化に障害が生じた『アンドロゲン不応症』の女性はXY染色体を持っています。これが先ほどお知らせしていなかった事項です」――未発達ねぇ。

「ん〜そっか〜。ま、このまま女の子でもいいと思ってるから別にいいのかなぁ」

「まぁそうしょげるな」

「そうですよ〜。せっかく可愛い女の子になったんですから楽しみましょ?」

「う、うん……」

「それでは、もう一件。これはこちらからの依頼なんですが、皆様には私共アストラル・ゲームス専属プロゲーマーとして契約していただきたいのです」と栗山社長が提案を持ちかけてくる。

「はぁ? プ、プロゲーマー? 契約ぅ?」

「ん〜今勤めている会社はどうするんだ?」

「わ、わたしこの前始めたばっかりで……」

「お勤め先には私共からお話をして、勤務時間外の稼働ですので副業として認めてもらう予定です」

「うわ、また上へ圧力か〜」

「あんたらも強引だな」

「それに秋山さん、ご安心ください。貴女がチームを組むのはVRMMORPG BulletS RECOILで二連続優勝のチームS・Sですよ? これ以上心強い味方はおりません。それに契約いただければ、私共は皆様を全面バックアップいたします。ゴールドも報酬として換金できるようにいたします」

「え、VRMMORPG BulletSってゴールドはリアルマネーに換金できないはずじゃ?」

「そうだな。しかも全面バックアップなんて八百長だろう?」

「いえいえ、専属ゲーマーならスポンサーとしてバックアップは当然でしょう? マネーの件は未公開なんですが、プレイヤーにゴールドをオンライン通貨に換金可能にしてユーザー数アップする計画があるんですよ」

「それって、日本国内では非合法なんじゃ」

「はい。私共アストラル・ゲームスはサーバーをUS本社に移して、プレイヤーにゴールドをオンライン通貨に換金可能にしユーザー数をアップする計画があるんです」

「かなりグレーゾーンですねぇ」

「ま、そのあたりはなんとでもなります。あと高岡様、ちょっと妙だとは思いませんか?」

「え、何がです?」

「本来ならVRMMORPG BulletS RECOILでは10分スキャンのマップしか使えないですが、レアスキル『鷹の目』は常時使用可能、しかもMPが減らない有利な展開で二回優勝できたこと」

「い、言われてみれば……でもあのレアスキルって他の『視覚系強化のアバター』にも搭載……」

「いえ、『鷹の目』はVRMMORPG BulletS SYSTEMと直結した一人のプレイヤーにしか解放できない仕様なんですよ」と崔部長が補足する。

「はい。崔が申し上げた通り『鷹の目』は高岡様、今は貴女にしか使えないSランクのレアスキルなんです」

「あ、でも第3回の大会で敗れたときに10分前のスキャンでは確認できなかった……敵チームのRに頭を吹き飛ばされたんですよ? あれは『鷹の目』を使わないとできない戦術だったはず……」

「私は『今は』と申し上げました。あのときはプレイヤーRed様つまりR様に解放していましたが、高岡様がアバターをTHX-1489にコンバートした時点で崔部長が、これは私情を挟んでいるので注意は致しましたが、高岡様に解放しました。そうだろう?」

「はい。申し訳なかったですが解放させて頂きましました。ユイ……いやTHX-1489に」……そうだったんだ、だからRに勝てたんだ。

「で、早い話、俺たちにVRMMORPG BulletS RECOILで勝ち続けろということだな?」

「さすが勝野様、ご理解が早い」

「で、それでユーザー数はアップできるのか? 仮に無双になった俺たちが優勝し続けても?」

「はい。勝負は時の運ですから優勝し続けるのは難しいですし、プレイヤー様は常に強い相手を倒したい、自分たちのチームが優勝したいと思ってらっしゃいますからね」

「ま、そりゃそうだな。でもなあ……」


「わかりました。専属プロゲーマーとして契約しますよ」英明の考えとは異なるけど、オレはそう答えた。

「忍、ちょっと気が早くないか?」

「いや、せっかくユイちゃんと同じ身体になったんだ。ついでになんだったらこの美少女を活かして広告に出てもいいと思うよ」

「えええええ?」

「それって素敵です〜」

「高岡様は実に前向きでいらっしゃいますね! 勝野様と秋山様はいかがなさいますか?」

「もうこうなりゃ一蓮托生だ」

「わ、わたしも参加します〜」

「じゃ、今日からチームS・S改めチームS・S・Aかな?」

「では私は契約の準備を致しますので、皆様は本番環境のVRMMORPG BulletS SYSTEMへのLOGONテストを行っていただきたいのですが……崔くん、よろしくお願いします」

「承知いたしました。では、皆様先程の場所へお願いします」


 栗山社長に、『鷹の目』は今はオレにしか使えないと言われた。だけど1年前の第4回VRMMORPG BulletS RECOILで実は気が付いていたことを思い出した。

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