第19話 紺ブレとプリーツスカートと黒ストと

 翌木曜日、今日はアズサちゃんの胸に顔をうずめようとした寸前に目覚ましで7時に目が覚める。んんん、やっぱりおっぱいは大きい方がいいなぁ……。


 昨夜二人はゲームしたのかな? それとも……。

 昨日までとは違って今日から、正しくは昨夜からなんだけど三人暮らし。

 食事はアズサちゃんにばかり作ってもらうのは気が引けるので、せめて先にコーヒー淹れておこうと、パジャマのままでキッチンに行くともうアズサちゃんが朝食を作り始めてる。

 おっと〜ちょっと顔を合わせづらいけど「おはよ〜」

「おはようございます〜」

「コーヒー淹れるね〜。インスタントだけど〜」

「助かります〜。忍さんよく寝られました?」

「うん。ぐっすりだよ〜。アズサちゃんは?」

「えっと〜昨夜はVRMMORPG BulletSのアカウント登録してアバターはわたしが選んで……あ、オンライン名は『アズサ』で」

「あはは、アズサちゃんもそのまんまなんだ〜」

「はい〜。装備は秀明くんが選んでくれたのを購入したんですよ〜。ダイブしてから銃は秀明くんのM何とかってのを借りて、射撃の練習とか色々したんです。だからまだちょっと眠いです〜」色々ねぇ……。

「デビューおめでと〜。あ〜それM16A3だね〜上手くいった? あ、どんなアバターにしたの?」VRMMORPG BulletS以外の話はやめとこうっと。

「前に忍さんが使ってて、私に似てるって言ってたTなんとかってのです……身長差がちょっとあるんで違和感あるんですけど、なんとか射撃も出来ました〜」

「あ〜T-0814ね〜懐かしいな〜。身長差は何日かすれば慣れるよ〜。そういえば英明はまだ寝てるの?」

「ええ……」

 まぁ昨夜は色々『頑張った』んだろうからまだ寝かせておこう。なんたって通勤は徒歩10分くらいだから9時まで寝てても間に合うしね。

 今日と明日は出勤しなくちゃな。

 そうだ、「ね、アズサちゃん。今日は何着ていけばいいかな?」

「今日こそ紺ブレとスカートですよ! あ、もちろん膝上5センチの普通ので、オーバーニーか黒ストで……」

「オ、オーバーニーはやめよう! それに黒ストって無いよね?」

「あ、買ってありますよ〜30デニールの。ちょっと大人っぽすぎますかね〜」

 デ、デニール? 何だ?「ふ、普通のハイソでいいよ〜」

「え〜それだとOLじゃなくって、普通にJKになっちゃいますよ〜」

「スカート自体、紺とダークグリーンのプリーツスカートでめちゃJKじゃん……黒ストなら少しはOLっぽくなる?」

「まぁ30デニールなら……JKだと60デニールくらいですしね〜」

「ね、デニールって何?」

「わたしも詳しくないですけど、繊維の太さを表す単位で、数値が大きいほどストッキングの糸が太くなるんで、30なら割と透け感も大人っぽいと思いますよ〜」

「透け感ねぇ……そ、そうなんだ……じゃ黒ストにしようか……」

「わかりました〜。じゃ朝ご飯食べたら、また着替え手伝いますからね〜」

「うん、お願い」

「英明起きてこないから、先に食べちゃわない? お腹すいたし」

「そうしましょう!」

 なんか朝食時はいつもアズサちゃんと二人だな。なんかいいな〜。

 今朝見た夢のこと、黙っておこう。

 しばらくして英明が起きてくるけど、開口一番が「腹減った……」だ。もう亭主関白を発動してるなぁ。ま、二人がいいならそれでいいんだけどさ。


 朝ご飯を食べ終わって、オレの部屋で着替え始める。

 ブラってやっぱり窮屈だし自分一人じゃまだ着けるの慣れてないからしばらくはアズサちゃんにサポートしてもらわないとだけど、早く一人で着けられるようにならないとな。だってオレの後ろからブラ着けてくれるんだけど、必ずおっぱいむぎゅ〜ってしてくるし。

「ア、アズサちゃん? ブラ着けてくれるとき、後ろからおっぱいむぎゅ〜するけど、な、何で?」

「え、普通やりません?」

「そそそそうなの? 女子校って怖い」アズサちゃんは中学から短大までず〜っと女子校だったし、身長が高いからいわゆる『王子様』だったのかな?

「わたし、おっぱい大きくて重くて肩凝るんですよね……忍さんよりちょっと大きいくらいがいいな〜って」

「そ、そう? 逆にオレはもっと大きい方がいいな〜。でも大きいと肩凝るし悩みどころだね」

「そうなんですよ〜。これって男の人にはわからない悩みなんですよね〜。秀明くんなんて『おっぱいは大きければ大きいほど良い』とか言っちゃってますけど〜」

「男なんてそんなもんだよ〜」

 とか言いながら、今度はストッキングを履く。お尻とか太ももがちょっと締め付けられて違和感があるんだよね。

「ストッキング、履き慣れないからなんか違和感」

「そのうち慣れると思いますけど、もしイヤなら太もも丈のストッキングにしましょうか~?」

「へ〜そんなのもあるんだ。でもそれってオーバーニーソだよね?」

「ん〜そうですね〜。でも、膝上5センチのスカートなら似合いますよ〜。もう少し丈が短いスカートでもいいかもしれませんね〜。会社帰りに見てみましょうか? あ、そうだ。替えの下着類もそろそろ増やさないと〜。それに! お化粧道具も無いから買いましょうね!」アズサちゃんなんか楽しそうだな……早口だし。

 今日もポニテに黒リボン。きっちりとお化粧もしてもらった。

 着替え終わったので、リビングに戻る。

 出社までまだ30分は余裕があるな〜。アズサちゃんは自分でお化粧をぱぱっと済ませる。さすが本物の女性だ。

 英明は一人でTVを観てる。オレに彼女取られちゃった気分かな〜?

「英明、アズサちゃんから聞いたぞ〜」

「な、何を?」お? ちょっと動揺してるか〜?

「アズサちゃん、VRMMORPG BulletSデビューできたんだってね」

「お、おう。一番最初のお前より腕前は良いみたいだぞ」

「ほほ〜、じゃますます三人でチーム組まないとな〜チームS・S・Aとか〜」

「ま、その前に忍が再LOGONできなきゃな!」

「あ〜そうだ〜、今日は木曜? 明後日か〜」

「ま、大丈夫だろ」

「根拠なしに言わないでくれる〜?」

「まあ栗山さんも崔さんも付いてるから大丈夫だと思いますよ〜」

「アズサちゃんまで〜」

「そろそろ会社行くか。忍はだいぶ仕事が溜まってるからな〜」

「ああ〜それもあったか〜」

 しょうがない! 出社するか〜。



 部屋もマンションもオートロックだからカードキーは忘れちゃいけないし、社員証もまだ自分では『見慣れない顔』の写真だからちょっと戸惑う。

 なんだかカードが増えちゃったな。

 三人で徒歩出勤。

「もしかして三人揃って出社なんて初めてじゃない?」

「そうですね〜新鮮な気分ですね~」

「だな」


 会社に着いて新しい社員証で入室。

「おっはよ〜ございま〜す」と元気よく。

「おす」「おはようございます」二人は普通……。

「おはようございま〜す」

「おはよう」

「あ、高岡さん今日はスカートですね〜。ストッキングと合ってますよ〜」

「でもちょっとJKっぽいですね〜」

「あ〜なんかやっぱりちっちゃくて可愛い」女性社員に囲まれる。

「そ、そう?」

「えへへ〜」アズサちゃん何故か嬉しそう。

 部長が「お! 高岡さん今日はスカートか〜。うんうん」

 最近は容姿についてあれこれ言うとすぐ『セクハラ』判定されるからそれ以上は言わないんだろうけど、なんか部長まで嬉しそうだぞ。

 オレの場合『見た目は女、中身は男』だからどうなんだろう?


 昼休み。昼食はいつも10階にある社食を利用している。この本社ビルはグループ会社も入っているので数社が共同で利用している。

 先一昨日は昼から出社で、一昨日は運営が来るのが気になって食べ損ねて、昨日は引っ越しで有給休暇だったから女子化後初の社食利用。

 英明、アズサちゃんと一緒に行くんだけど、なんかやっぱり『赤目金髪美少女』――自分で言うか〜い――は目立つから振り向かれたり二度見されたり――真相を知ってるのは『開発2部』の人だけだしな。あ〜明日はコンビニ弁当かな。

 いつものA定食を頼む。会計は社員証を読み取って給料から天引きされるから、トレイを受け取りそのまま空いているテーブルを探し、三人でお昼をいただく――んだけど一人前が食べきれない。

 あ〜やっぱり女子化すると、胃も小さくなっちゃうんだな。三分の一くらいしか食べられないや。こりゃコンビニ弁当も無理かなぁ。

 そんなオレを見ていたアズサちゃんが提案してくれる。

「忍さんあんまり量を食べられないみたいですから、わたし明日はお弁当三人分作っちゃいましょうか~?」

「え、本当! それ嬉しいかも!」

「うん。助かる。俺大盛りな」と英明。

「じゃ、明日からはお弁当にしましょう〜。帰りに忍さんのお洋服買いに行くついでにみんなのお弁当箱も買っちゃいましょうね〜」

「うん! あ、そうだ。食材代は三人で分けないとね」

「そうだな。気づかなかった」

「お願いしますね〜」


 お昼を早々に切り上げる。

 その前に「オ……わたしちょっとタバコ吸ってから戻るね〜」と1階の共同喫煙室に行く。

 見知った人に会いませんように……と中学生が隠れて吸うみたいに喫煙室の端っこで。あ〜いつまでこんなコソコソしなきゃいけないんかな〜。

 再LOGONして、LOGOFFしたら男に戻る……なんてことは無いから、運営が女子化を公表でもしてくれればいいのにな。ま、それもないか〜とか思いながら部に戻った。


 仕事が溜まってたから今日は残業するつもりだったけど、「仕事の切りがいいところで終わらせてくださいね〜。今日は色々買い物しなきゃなので〜」と、アズサちゃんに引きずられるようにして閉店30分前ギリギリにデパートへ。

 英明に残りの作業を押し付けてちょっとだけ残業。すまん、英明。

 慣れないレディースフロアをアズサちゃんの後をついて回る。

「忍さん小さいからジュニア用でも良いんですけど、さすがにそれは変ですからXXS~XSのサイズを見ていきましょうか?」

「うん。パンツスーツもXSだったし、それにVRMMORPG BulletSの迷彩服も同じサイズだから大丈夫だと思うな~」

「あ、あの~軍服といっしょにはならないかと~」

「あはは、そうだよね~」


「カラーコーディネイトは、パーソナルカラーがイエベ春ですね〜」

「パーソナルカラー? イエベ春? なにそれ?」

「ベースカラーはイエローで、春に咲くお花のような雰囲気で、暖かく明るくて華やかなイメージで可愛らしくって若々しい印象なんですよ〜」

 へ〜、オレってそんな感じなんだな〜。

「逆にわたしはイエベ秋なんですよ〜。イエベ秋のベースカラーもイエローなんですけど、『秋』なんで落ち着いた都会的な雰囲気。熟した果実や紅葉のような、シックで暖かみのあるイメージを持ってるんですって〜」

 ん〜そうといえばそうかもな〜。

「あ、誤解しないでくださいね〜。『パーソナルカラー』って肌の色、瞳の色、髪の色などを元に個人に似合う色を診断する手法なんで、性格とかのことじゃないですからね〜」

「あ、そうなんだ……オレてっきりパーソナルカラーで性格の傾向がわかるんだと思った」

「でも無関係でもないっていう説もあるんですよ〜」

「なんか奥が深いな〜。アズサちゃんって詳しいねぇ」

「はい〜。いろいろ勉強してます〜」

「じゃ、パーソナルカラーで洋服とコスメ関連を選んでもらおうかな〜」

「ええ、そうしますね〜。色でいうとブラウン、ベージュ、キャメル、オレンジ、コーラルピンクなどですかね〜」

 替えの下着、ブラと太もも丈のストッキングはパーソナルカラーを考慮しないで、ちょっと短めのスカートはブラウン系のチェックで着丈42センチ……パンツ見えるかちょっと気になる……。ワンピースはキャメル色で、コスメ類はさっき言ってた色を元に選んでもらって購入。

「今日もたくさん買い込んだけど……」

「女の子は毎日おんなじ服を着ちゃだめですから、しばらくはこれで大丈夫ですね〜」と涼しい顔でアズサちゃん。

「そうだ。ブラウスだけだと胸元が心許ないからネクタイしようかな……って全部処分しちゃったよ」

「じゃ、新しく買いましょうか〜。ブラウスにリボンだと完璧JKになっちゃいますし〜。それに最近はブラウスにネクタイも変じゃないですからね〜」

 と、オレンジレッドや明るい青の無地や小紋など細かい柄のネクタイを数本追加。

 明日は何着て会社に行こうかな……。



 翌日、上は昨日と同じくブラウスと紺ブレに、昨日買ったオレンジレッド小紋柄のネクタイを合わせる。

 スカートはちょっと短めのスカート。短かめだけど低身長だからなんとかパンツは見えなかった。それに太もも丈のストッキング。おかげで絶対領域できてちょっと満足。

 ローファー履いてるからもろにJKだけど「うん! わたしのコーディネート完璧!」とアズサちゃんが言うからしばらくは任せちゃおうっと。

 今日も三人で出社。今日はアズサちゃんの手作り弁当も持ってね。

 今朝も「おっはよ〜ございま〜す」と元気よく入室。

「おはようございます」

「おはよう」

「わ、またJKが入って来たと思ったら高岡さん!」

「しかも絶対領域!」男性社員たちが色めき立つ。

「えへへ〜」

「なんか楽しそうですね〜」とアズサちゃん。

「うん、なんかちょっと目覚めたかも〜」

 女性社員からも「昔と比べて最近高岡さん、明るくって良い感じですね〜」昔って……まだ数日じゃん。

「そ、そう?」うわ、やっぱり男のときはいわゆる『陰キャ』に見られてたんだ……でもここ2、3日であまり意識しなくても女の子っぽい話し方ができるようになったみたい。

「あ〜高岡さんって、イエベ春だから、茶色系のスカートとレッド系のネクタイが似合ってる〜」

「いいな〜イエベ春。日本人だと2割くらいしかいないんですよ?」

「へ〜そうなんだ〜。でもわたし赤目金髪だから……日本人っぽくないよね〜?」

「あ、そうかも〜」

 女子トークもできるようになった。

 可愛いく明るく見えるようにしなくっちゃね!

 今日はちょっと残業して区切りをつけて――いよいよ明日は精密検査と再LOGONテストの日だ。

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