第16話 社員証の写真
翌火曜日、昨日と同じようにドアフォンのチャイムで目が覚める……んぁ? 今何時だ? まだ7時だよ。
パジャマの前がはだけて、乳首ちょっと勃ってる……ノーブラだから仕方ないか。
前を合わせ直して、「は〜い」とドアフォンのモニターを見るとアズサちゃん。
「忍さん、おはようございま〜す」
「おはよう〜アズサちゃん。は、早いねぇ〜」と招き入れる。
「ええ、秀明くんの家から来たんで……」心なしか顔がつやつやしてる気がする。
そうかぁ、英明といっぱいしたんだろうなぁ~いいなぁ……、
「し、忍さん? わたしの顔に何かついてますか~?」
「い、いや。いつも通りかわいいな〜って。あれ、英明は?」
「朝ご飯食べて、もう少ししたら会社に行くそうです~」
「じゃ、うちらも行かないとね……」
「忍さんも朝ご飯食べなきゃだめですよ〜。放っておくと朝ご飯抜きで出社するんですから」
「う、うん……」
「今朝は簡単に昨日買っておいたパンと卵でフレンチトーストにしますから、ちょっと待っててくださいね〜」
あ〜、友達の彼女じゃなかったらな〜ってまた昨日と同じようなことを考えるけど、これはこれで嬉しいな。。
「ありがと〜。じゃ、コーヒー淹れるかな〜」
「あ、おねがいします。あと、はやくブラつけてくださいな。乳首、勃ってますよ」
「うわ、ごめん……恥ずい」
「では、いただきま〜す」
「はい、めしあがれ〜」
「うわ、なにこれふわっふわ! 美味しい!」
「でしょ〜? 卵液に浸して先に電子レンジで1、2分温めてから焼くと美味しいんですよ〜」
「へ〜電子レンジも使い方次第なんだねぇ」
「レンチン食材に使うだけが電子レンジじゃないんですよ〜」
「そ、そうだね〜」
朝ご飯を頂いた後、「そういえば今日は忍さん、鼻声も治って髪の毛ちゃんと乾かして昨日より良いですね。あ、そうだブラシ持ってきたんでキレイにしましょう」
「え、いいよ〜。ポニテにしておけば……」
「だめですよ〜ポニテにするにしても、ちゃんとブラッシングしてからじゃないと」
「ふ〜ん、いろいろ大変だな〜女の子をするのも……」
「そうですよ〜」と言いながらブラッシングしてもらい、先日の大きな黒リボンをつけてもらう。
「うん、完璧! 今日はもしかしたら社員証の写真も撮り直すかもしれませんから、撮影前にもう一度直しましょう」
「え、いいよ〜」
「だめですよ〜」すっかりスタイリスト気取りだ……。
「ん〜じゃ、お任せするね〜。社員証の写真撮るんだったら今日もスーツの方がいいかな?」
「え、ブレザーとスカートとニーハイじゃ……」
「え~あのパンツ丸見えの? ダメダメ!」
「個人的にはあっちの方が良いんですけど〜そうですよね〜男性社員が……」
「そ、そうじゃなくて、オ……わたしが恥ずかしいの!」
結局パンツスーツで出社。
「おっはようございま〜す」と女子っぽく挨拶しながら入室。
「おはよ〜」
「おはようございます」
男性社員の視線がちょっと気にはなるけど……今日もパンツスーツだから大丈夫、大丈夫。
英明はいつも通り仕事を続けながら「おう、おはよう」と一言。
勤怠PCで出勤を選択してカードキーをタッチ。仕事の続きを始める。
今取り掛かっている内容はCOBOLソースリスト――紙なんだよねぇ――のコードから仕様変更を読み取って、設計書としてエクセルに落とし込む。
あ……昨日は気にしてなかったけど、椅子の高さが合わないな〜。どおりで作業しづらいんだ。高さを合わせて……。
しかしなんか机が広いなぁ……ディスプレイ、キーボードとマウスを手前に寄せて……改めて自分が小さくなったのを実感する。
アズサちゃんの予想通り、総務部の佐藤さんから社内SNSで社員証の写真を撮り直すようChatで呼ばれたので、総務部へ。
アズサちゃんも「スタイリストですから〜」と言いながらついてくる。
「高岡さん、なんかちっちゃくって可愛くなっちゃいましたね〜。でもその赤目と金髪と黒リボン、似合ってますよ〜」と佐藤さんが言い出す。
「そうそう、男性社員が放っておかないですよ〜」と田中さんも。
「い、いや、まだ心は男なんで……そういう事態は……」
「いやいや〜そういうのも『あり』ですよね〜」とアズサちゃんがオレの髪とリボンを直しながら言う。あ〜なんかやっぱりアズサちゃんって……。
「じゃ、撮りますよ――秋山さん、髪直し終わったら一緒に写り込まない! 家族写真じゃないんですから!」と佐藤さん。
「アズサちゃん、な、何やってんの?」
「えへへ」
写真を撮り終わり「後は『ICカードのデータは前のまま』って指示を受けてますから、今のカードキーのデータをそのまま新しい写真のカードにコピーしますんで、ちょっと待っててくださいね〜」と佐藤さん。
「あ、そういえば今度、勝野さんと秋山さんと三人で暮らすんですって?」と佐藤さん。
「え? あ、そうですけど、三人同じ家とか部屋じゃないですよ」
「勝野さんたら、両手に花ねぇ〜」と田中さん。
「いやいや、そんなんじゃないですってば〜」アズサちゃんはちょっと困り顔だ……。
などと言っている間にコピーが終了し新しい社員証を渡される。
「高岡さんって、下の名前が女性でもオッケーな『忍』なんですね〜」と佐藤さん。
「そうなんですよね……もういないですけど、よくお袋が『本当は娘が欲しかったの〜』なんて言ってましたよ」
「あら〜、じゃこんなに可愛くなった『娘』さんの姿を見せられなくて残念ですね」と田中さん。
「んも〜外見だけなんですけど〜『娘』なのは〜」
「あ〜ごめんなさい……わたしってつい思ってること言っちゃうんで……」
「いえいえ〜。じゃ、ありがとうございました」
「失礼します〜」とアズサちゃんと総務部を出る。
今日は20時にまたあの二人が来るからアズサちゃんと定時に上がり、昨日と同じように一緒にスーパーで食材を購入。
ついでにショッピングセンターに寄って「あのスカートじゃ恥ずかしいから『短くない』スカート買う!」とアズサちゃんに宣言。
普通に会社に着て行けそうな丈、それでも膝上5センチかな?――のプリーツスカートとついでにハイソックス、替えのブラウスを購入。
あれ? まんまJK? でもブラウスにリボンつけてないからJKじゃないし〜
「じゃ、あのスカートはわたしの前だけで履いてくださいね〜」とアズサちゃん。
「う〜ん、気が向いたらね〜」
「え〜」
あと何日かしたら、これが日常になるんだろうか……ちょっと嬉しいな。
なんて思い、少しだけ近所の目を気にしながら帰宅し部屋に入る。
アズサちゃんが夕食を作ってくれている間、トレーナーとジーンズに着替えて今日のお風呂は食後にして加熱式タバコを吸う……あ〜やっと落ち着けたなぁ……。
「……あ、アズサちゃんごめん。つい一人のつもりでタバコ吸っちゃってるけどいいかな?」
「加熱式なら全然かまいませんよ〜。それ、良い匂いですね? なんかブルーベーリーみたいです」と言ってくれる。
「うん、そうなんだけど吸ってる本人は匂いがあんまりしないんだよ」
「え〜? そうなんですか〜?」
「うん。マスカットのを試したら自分も匂いわかったけどイマイチ合わなくて、ず〜っとこれにしてるんだよね」
夕食が出来上がってしばらくしてドアチャイムが鳴る。
「は〜い」
ドアフォンのモニターを確認。シューメイ隊長のご帰還だ。
「あ〜腹減った〜」
「なんだよいきなり〜! 今アズサちゃんが夕飯作ってくれて、待ってたとこだよ〜」
「おう」
どかっと座り込む。まるでこの家のご主人様だな。
「じゃ、今運んでくるね〜」アズサちゃんと二人で食卓代わりのテーブルに料理を並べる。
「では、いただきま〜す」
「いただきます!」
「めしあがれ〜」
少し食べ始めたけど、「う〜お腹は空いてるんだけど、なんかちょっと食欲が……」
「忍よ〜、腹が空いてちゃ戦はできないぞ」
「いや戦じゃないし、昨日の文書を確認して押印するだけだから」
「そうですよ〜。でも忍さんらしいですね……ご飯は後にしてホットミルクでも飲みますか?」
「うん、そうする〜。ありがと〜」
「なんか忍、だいぶ女の子っぽい話し方ができるようになったみたいだな〜」と英明。
「そう? 嬉しい?」
「んな訳ないだろ! アホ!」
「あははは」
「わたしは妹ができたみたいで嬉しいですよ〜」
「お〜い!」
ホットミルクを飲みながら、みんなで食事と莫迦話をしているうちにそろそろ20時だ。
彼らが来る時間だな……と食器を片付け始める。
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