第13話 『鷹の目(Hawk Eye)』発動条件

 オレはTHX-1489とASM338(AWSM)を手に入れてから、新しい身体――身長165センチから148センチへの身長差、体力差――と狙撃銃、フルオートからボルトアクションへの変更に慣れるため、しばらくは毎晩ダイブして半年後の第4回VRMMORPG BulletS RECOILに備えた。

 ASM338(AWSM)にはシュミット&ベンダー社製5-25×26スコープが装備されているけど、スコープだけでもカタログ値で約一キロあるからPvP大会対策用に少しでも軽量化する為、ミドルからラージ級モンスター相手にスコープを外しても射撃ができるよう訓練した。

 THX-1489のスキル『天の秤目』を使えば自分の視野にレティクルが映りズームと測距もできるから、アシストシステムなしでも射撃ができる。

 でもあまりスキルを使いすぎるとMPを消耗するから、PvP大会開始後から中盤はアシストシステムを使用して温存し、終盤戦でスコープとスキルを併用する戦術を考えた。

 一方ガンショップのオヤジさんが『噂だけど』と言っていた『鷹の目』は、その発動条件が全くわからなく、1ヶ月経ってもそれらしいスキルは発動しなかった。

 やっぱりガセネタだったんだろうか?


 プレイヤーレベルは第3回大会で3位入賞し230に上がった。転送場所の限定は200以上になったので解除された。ちなみに現在のMAXレベルは250で、優勝者組のはずだ。

 そんなある日、PvPで戦術を試すため旧市街地にダイブする。

 旧市街地ならそこそこレベルの高い連中もいるし、ビルの上からの射撃には打って付けだ。

 ビルの屋上に陣取り、メニューでASM338(AWSM)を実体化させ、PvPONに。

 すると同時に視野が一気に広がり、マップと同様に俯瞰できるようになる。しかもズームイン・ズームアウトもできる。通常ならメニューでマップを表示しないと確認できないプレイヤー名と位置が、それこそ『空から地上を見下ろす』ように『▼』マークと一緒に目に入る。マップと同じくPvPOKのプレイヤーは赤、OKでなければ緑だ。

 そうか! これが『鷹の目』――発動条件はPvPONだったんだ。

 実際VRMMORPG BulletS RECOILでは自動でPvPONになる。

 これなら10分ごとに更新されるチームリーダーの位置表示を待たず、しかも敵全員がわかる!

 やっぱり、前回3位で敗れたときの相手、優勝したチーム……なんていったかな、あのチームにも『鷹の目』を持つプレイヤーがいたんじゃないか?


 とりあえず、今はPvPに集中だ。

 一番近くの赤い『▼』マークのターゲットは『天の秤目』で確認した距離は1,232メートル。これなら一発で倒せる。

 相手はこちらをマップ上に確認してはいるだろうが、まさか遠距離から撃ってくるとは思っていないようで、緩慢な移動速度だ。.338ラプアマグナム弾の銃口初速は880〜915m/sだから、1.3秒くらいで着弾するはずだ。

 最初はスキルを使わず、アシストシステムをONにし、ターゲットをサークル内に捉え、安定したと同時に発射し、胸部を撃ち抜き、倒す。

 相手はラインが見えた途端に撃たれたんだから驚いただろうな。

 次のターゲットは距離1,511メートル――今度はアシストシステムなしで『天の秤目』だけで狙う。ラインを出さない『闇討ち』だ。

 着弾までに1.7秒近くになるからターゲットが動いた場合、アシストシステムがOFFなので命中率は下がるけど、もしヒットしなければ素早く二射目で倒せばいい……が、次のターゲットも一発で倒せた。

 大会以外ではあまり闇討ちはしたくないし、『鷹の目』の発動条件がわかったのが大収穫なのでPvPを切り上げる。


 PvPONを解除して、どこかをうろついているシューメイをインカムで呼び出す。

「シューメイ、今どこ? あ? 郊外でロケットランチャー撃ってるぅ? 遠いなぁ……まいっか。ガンショップのオヤジさんが言ってたレアスキル『鷹の目』の発動条件がわかったよ」

『ほう。なんだった?』相変わらずそっけない。

「もうちょっと喜んで欲しいなぁ〜。PvPONにするとスキルが発動して、視野がマップみたいに広がってプレイヤー名と位置が見えるんだよ?」

『じゃ、VRMMORPG BulletS RECOILはPvPON状態だから、10分ごとのマップ更新を待たずに相手の位置がわかるな』

「たぶん。実際にVRMMORPG BulletS RECOILで確認したわけじゃないけどね。あとさ、前回3位で敗れたときの相手、優勝したあのチームにも『鷹の目』持ちがいたんじゃないかな?」と自分の推測を話す。

『ああ、いきなり撃たれた10分前のマップ上には見当たらなかったヤツらだな……たしか「チームM6」だったな』

「それだ。そのときの映像って観られるんかな? どうやって撃ってきたのか知りたい」

『公式戦だから、データ残ってるはずだ。ガンショップに行って聞いてみるか』

「うん。じゃ、オレ旧市街地のビルにいるから先に行くわ」

『ああ、俺も移動開始する』

 実体化させた銃、やっぱ重いなぁ。こんなの担いでPvP出来るかな? とちょっと弱気になりながらも、なじみのガンショップに到着。


「こんにちわ〜」

「お、シノブちゃん! 今日はソロかい?」

「ううん、あとからシューメイも合流するよ〜。今日はこいつでPvPやってたんだ。しっかし重いねぇ」と背中にスリングで斜め掛けしたASM338(AWSM)を見せる。

 そして小声で「例のスキル発動した……」

「え? シノブちゃんまじかい?」オヤジさんも声をひそめる。

「うん、PvPONにすると視野がマップみたいにばぁ~って広がってさ、OKじゃないヤツまでプレイヤー名と位置が見えるんだ」

「なーるほどなぁ。10分ごとのマップ更新待たないで相手、倒せるな!」

「そう思ってさ、前回の相手『チームM6』だっけ? あいつらの中に『鷹の目』使いがいそうな気がして……うちらが倒されたときの映像と位置データとかって観られる?」

「ああ、公式戦だから観られるよ」

「じゃ倒された10分前からの観てみたい……ヒントがあるかも知れないから」


 そうこうしているうちにシューメイ到着。

 二人ともオヤジさんに招かれて店の事務所に入る。

「じゃ、10分前からの映像とマップデータ。それとプレイヤーの位置データを同時に表示するぞ」とオヤジさんがモニターを操作する。

「うん、お願いします」

「ああ、そうしてくれ」

 戦闘中の10分ごとのマップではリーダーも表示されていない。何か遮蔽物に隠れていたんだろうな。映像では確かに洞窟のような場所にいる。

 が、システムの位置情報ではチームM6リーダー、マサシ他五人がはっきり表示されている……もしかして『鷹の目』って、このシステムの位置情報そのものが見えるんじゃないか?

 オレたちとの距離はこのとき約2,500メートル。

 おそらくこの後の10分間に『鷹の目』を使いながら射程内に移動してきたんだろう。徒歩で移動していることも映像で確認できる。

 移動距離は10分間だと約800メートルだけど、それは平坦な場所の場合だから、戦闘中だしそのときのエリアは丘陵地帯だったからもっと速度は遅くなる。

 移動距離が仮に700メートルだとしたら、少なくとも射程1,800メートルの狙撃銃でオレは撃たれたことになる。

 案の定、データでは1,790メートルの距離から敵チームプレイヤーR――Redがオレを狙撃している。

 その間、R以外のリーダーを含めた五人はさらに先行していた。おそらくシューメイを倒すために。

「ね、わたしが撃たれたときの映像あるかな?」

「あるけど……ちょっとグロいぞ」

「ん〜いいや、見せて」……うわっ、頭直撃でスイカが吹っ飛んだようだった。

「げぇ〜っ」

「ほらみろ……」

「ん〜ラインも出てないから、スコープだけで1,790メートル直撃ってすごい腕だね……」

「ああ。シノブが撃たれた後、2発目に警戒して回避行動と反撃を開始したが、俺も数分後にやられた。が、そのときはラインが見えたな。先行していた五人が中距離から撃ってきたんだろう」とシューメイ。

「射程1,800メートルでスコープのみってことは……相当の腕か、シノブちゃんと同じ『天の秤目』使い……もしかしたら『鷹の目』もそいつか?」とオヤジさん。

「なにか心当たりがあるの?」

「……いや、射程1,800なら銃はPGMヘカートIIあたりだとは思うけど、オレの店ではまだ売ったことないな……っていかん個人情報だ」

「あ、あははは」

「PGMヘカートIIだったら銃単体のスコープ非着装でも重量は13.8キロだから移動速度が遅くなるから、遠距離からシノブちゃんを倒す。そして先行してる他の連中が中距離からシューメイ隊長を倒したんだろうな」とオヤジさんも同じ考えだ。

「ASM338(AWSM)の約2倍の重さかぁ……とてもわたしじゃ持てないや」

「『鷹の目』使いがあのチームにいそうなことはわかったな、大収穫だ」

「うん、次の大会じゃチームM6とは最後まで当たりたくないなぁ」

「そうだな……じゃオヤジ、今日は情報ありがとう」

「いいってことよ」

「ありがと〜。またなんか情報あったら教えてね〜」

「じゃな、シノブちゃん」

 プレイヤー、Redか……オレと同じ赤目かな?

 その日はそれで切り上げ、LOGOFFした。

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