第18話 『鷹の目』発動条件

 オレはTHX-1489とAWSMを手に入れてから、新しい身体――身長は165センチから148センチへ、体力も変わった――そして狙撃銃もフルオートからボルトアクションに変わったことに慣れるため、しばらくの間毎晩ダイブして、半年後に控えた第4回VRMMORPG BulletS RECOILに備えていた。


 AWSMにはシュミット&ベンダー社製の5-25×26スコープが装備されているため、ミドルからラージ級のモンスターを相手に、スキルを使わずスコープだけで射撃できるように訓練を積んだ。

 THX-1489のスキル『天の秤目』を使えばアシストシステムなしでも射撃は可能だが、スキルを多用するとMPを消耗してしまう。そこで、PvP大会の序盤から中盤はスコープとアシストシステムを使ってMPを温存し、終盤ではアシストシステムを使わずスキルを活用する戦術を考えた。


 一方、ガンショップのオヤジさんが噂していた『鷹の目』というスキルは、その発動条件がまったくわからず、1ヶ月経ってもそれらしいスキルは発動しなかった。やっぱりガセネタだったのか?


 プレイヤーレベルは第3回大会で3位入賞し、230に上がった。転送ポイントの制限は200以上になったことで解除されたはずだ。

 現在のMAXレベルは250で、たしか優勝者たちがそのレベルだろう。

 そんなある日、PvPで戦術を試すため、旧市街地にダイブすることにした。

 旧市街地なら、そこそこレベルの高いプレイヤーもいるし、ビルの上からの狙撃にはうってつけの場所だ。


 ビルの屋上に陣取り、メニューからAWSMを実体化させてPvPモードをONに切り替えると――

 視野が一気に広がり、まるでマップのように全体を俯瞰できるようになった。さらに、ズームイン・ズームアウトも自由自在だ。通常ならメニューでマップを開かないと確認できないプレイヤー名や位置が、まるで空から地上を見下ろすように、【▼】とともに視界に入ってくる。マップと同様、PvPモードがONのプレイヤーは赤、ONにしていないプレイヤーは緑で表示される。


 そうか! これが『鷹の目』! 発動条件はPvPモードをONにすることだったんだ。

 実際VRMMORPG BulletS RECOILでは自動でPvPモードがONになる。

 これならスキャンのマップを待たず、チームリーダーだけじゃなく敵全員がわかる!

 やっぱり、前回3位で敗れたときの相手、優勝したチーム……なんていったかな、あのチームにも『鷹の目』を持つプレイヤーがいたんじゃないか?


 とりあえず、今はPvPに集中だ。

 直近の赤い【▼】のターゲットは、『天の秤目』で確認した距離は1,232メートル。これなら一発で倒せる。

 相手はこちらをマップ上に確認してはいるだろうが、まさか遠距離から撃ってくるとは思っていないようで、緩慢な移動速度だ。.338ラプア・マグナム弾の銃口初速は、毎秒880から915メートルだから、1.3秒くらいで着弾するはずだ。

 最初はスキルを使わず、アシストシステムをONにし、ターゲットをサークル内に捉え、安定したと同時に発射し、胸部を撃ち抜き、倒す。

 相手はラインが見えた途端に撃たれたんだから驚いただろうな。

 次のターゲットは距離1,511メートル――今度はアシストシステムなしで、『天の秤目』だけで狙う。ラインを出さない、闇討ちだ。

 着弾までに1.7秒近くになるからターゲットが動いた場合、アシストシステムがOFFなので命中率は下がるけど、もしヒットしなければ素早く2射目で倒せばいい……が、次のターゲットも一発で倒せた。

 大会以外ではあまり闇討ちはしたくないし、『鷹の目』の発動条件がわかったのは大きな収穫だったので、PvPを切り上げることにする。


 PvPモードをOFFして、どこかをうろついているシューメイをインカムで呼び出す。

「シューメイ、今どこ? あ? 郊外で対戦車弾撃ってるぅ? 遠いなぁ……まいっか。ガンショップのオヤジさんが言ってたレアスキル、『鷹の目』の発動条件がわかったよ」

『ほう。なんだった?』相変わらずそっけない。

「もうちょっと喜んでほしいなぁ〜 PvPモードをONにするとスキルが発動して、視野がマップみたいに広がってプレイヤー名と位置が見えるんだよ?」

『じゃ、VRMMORPG BulletS RECOILはPvPモードがON状態だから、スキャンのマップを見ずに相手の位置がわかるな』

「たぶん。実際にVRMMORPG BulletS RECOILで確認したわけじゃないけどね。あとさ、前回3位で敗れたときの相手、優勝したあのチームにも『鷹の目』持ちがいたんじゃないかな?」と自分の推測を話す。

『ああ、いきなり撃たれた10分前のマップ上……スキャンには見当たらなかったヤツらだな……たしかチームM6だったな』

「それだ。そのときの映像って観られるんかな? どうやって撃ってきたのか知りたい」

『公式戦だから、データ残ってるはずだ。ガンショップにいって聞いてみるか』

「うん。じゃ、オレ旧市街地のビルにいるから先に行くわ」

『ああ、俺も移動開始する』


 実体化させた銃、やっぱ重いなぁ。こんなの担いでPvP出来るかな? とちょっと弱気になりながらも、なじみのガンショップに到着。

「こんにちわ〜」

「お、シノブちゃん! 今日はソロかい?」

「ううん、あとからシューメイも合流するよ〜 こいつでPvPやってたんだ。しっかし重いねぇ」と背中にスリングで斜め掛けしたAWSMを見せる。

 そして小声で「例のスキル発動した……」

「え? シノブちゃんまじかい?」オヤジさんも声をひそめる。

「うん、PvPモードをONにすると視野がマップみたいにばぁ~って広がってさ、ONじゃないヤツまでプレイヤー名と位置が見えるんだ」

「なーるほどなぁ。スキャンのマップを待たないで相手、倒せるな!」

「そう思ってさ、前回の相手、チームM6だっけ? あの中に『鷹の目』使いがいそうな気がして……うちらが倒されたときの映像と位置データとかって観られる?」

「ああ、公式戦だから観られるよ」

「じゃ倒された10分前からの観てみたい……ヒントがあるかも知れないから」


 そうこうしているうちに、シューメイが到着した。

 オヤジさんに招かれて、店の奥の事務所に入る。

「じゃ、10分前からの映像とスキャンデータ。それとシステムの位置データを同時に表示するぞ」とオヤジさんがモニターを操作する。

「うん、お願いします」

「ああ、そうしてくれ」

 戦闘中のスキャンではリーダーも表示されていない。何か遮蔽物に隠れていたんだろうな。周囲や上空からの映像では、洞窟のような場所だ。

 が、システムの位置情報ではチームM6全員、リーダーのマサシ他5人もはっきり表示されている……もしかして、『鷹の目』って、システムの位置情報そのものが見えるんじゃないか?

 オレたちとの距離は、このとき約2,500メートル。

 おそらくこのあとの10分間に、『鷹の目』を使いながら射程内に移動してきたんだろう。徒歩で移動しているのも映像で確認できる。

 移動距離は10分間で約800メートルだけど、それは平坦な場所の場合だから、戦闘中だしそのときのエリアは、アップダウンのある丘陵地帯だったからもっと速度は遅くなる。

 移動距離が仮に700メートルだとしたら、少なくとも射程1,800メートルの狙撃銃でオレは撃たれたことになる。

 案の定、データでは1,790メートルの距離から敵チームプレイヤーRedがオレを狙撃している。

 その間、Red以外のリーダーを含めた5人はさらに先行していた。おそらくシューメイを倒すために。


「ね、わたしが撃たれたときの映像あるかな?」

「あるけど……ちょっとグロいぞ」

「ん〜いいや、見せて」……うわっ、頭直撃でスイカが吹っ飛んだようだった。

「げぇ〜っ」

「だからやめておけと」

「ほらみろ……」

 オヤジさんとシューメイの2人に言われる。

「言われてないし! ……ん〜ラインが出てないから、スコープだけで1,790メートル直撃ってすごい腕だね」

「ああ。シノブが撃たれたあと、2発目を警戒して回避行動と反撃を開始したが、俺も数分後にやられた。が、そのときはラインが見えたな。先行していた5人が中距離から撃ってきたんだろう」とシューメイ。

「射程1,800メートルでスコープのみってことは……相当の腕か、シノブちゃんと同じ、『天の秤目』使い……もしかしたら『鷹の目』もそいつか?」とオヤジさん。

「何か心当たりがあるの?」

「……いや、射程1,800なら銃はPGMヘカートⅡあたりだとは思うけど、俺の店ではまだ売ったことないな……っていかん、個人情報だ」

「あ、あははは」

「PGMヘカートⅡだったら銃単体のスコープ非着装でも重量は13.8キロだから移動速度が遅くなるから、遠距離からシノブちゃんを倒す。そして先行してる他のメンバーが、中距離からシューメイ隊長を倒したんだろうな」とオヤジさんも同じ考えだ。


「AWSMの約2倍の重さかぁ……とてもわたしじゃ持てないや」

「『鷹の目』使いが、あのチームにいそうなことはわかったな。大収穫だ」

「うん、次の大会じゃチームM6とは最後まで当たりたくないなぁ」

「そうだな……じゃオヤジ、今日は情報ありがとう」

「いいってことよ」

「ありがと〜 またなんか情報あったら教えてね〜」

「じゃな、シノブちゃん」

 プレイヤーRedか……オレと同じ赤眼かな?


 その日はそれで切り上げ、ログオフした。

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