ユッピー

一話完結

『ここから見える景色は最高だ。黒白の濃淡が実に変化に富んでいる。圧巻、感動、感激、この場所から見える景色の美しさはそんな言葉ではとても表せそうにない。ぐうの音も出ないほど美しい景色なのだ。

この国を取り囲む壁を登ったところから、その”美しい”景色は見ることができる。この国は、いや、この世界は、ドーム型の壁で覆われている。大きい大きい野球ドームの中に私たちは住んでいる、そう解釈してもらって構わない。もっとも、野球ドームの数千倍の広さはあるのだが。

僕が何でこんな文章を書いているかって大した理由はない。ただ僕はこの国の外、つまりこのドームの外に誰かがいて、そしてその誰かがいつかこの文章を読むことで、この国の美しさを私たちと共有できると信じているからだ。理由なんてその程度のものだ。

その誰かのために、この国の美しさについて記しておきたい。この国には色が溢れている。基本的に色の濃淡は10段階で表される。一割黒から10割黒までの10段階だ。そして、その各段階の間にはさらに10個の区切りがある。1割黒、次は1割1分黒、さらにその次は1割2分黒と続く。

とにかくこの国は美しい。街を歩けば色の美しさに目を奪われて、たとえ犬に小便をかけられてもきっとそのことには気づかない。それほど美しいのだ。

この国の外にもし人があるなら、この国に来て、そしてこの国の美しさを見てほしい。』

この手紙とも随筆ともとれない文章が書かれていたちょうどその時、ドームの壁の一部が崩れ、ドームの外の人間が一人、中に入って来て叫んだ。

「この国、色が何もないじゃないか。白と黒しかない。殺風景にもほどがあるってもんだ」

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ユッピー @yuppy_toishi

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