第13話 デートなんて聞いてない!

「だめっ、そこッ…あぁっ」

「ここだろ?ここなんだろ?」

「違う!絶対だめっ」

「いや、絶対ここだ」

「だから、ああぁっ…」

「そんなにいきたくないのか?」

「だめええぇ!!!」

二人の声が絡み合うように室内に響き渡る。


「アンタたち!?何いきなりおっ始めて……ん?」

俺の脳は黒夢部長の一声で一気に現実に戻された。


「なんですか黒夢部長…」

白衣のいかにも博士っぽい服装の黒夢部長がむすっとした顔で仁王立ちしていて、


「アンタたち、今何時かわかる?」


 そう言いながら黒夢部長は俺の背後を指差す。

俺は指さされた方の壁にかかった溶けたような形の時計に目をやる。

時計の針はちょうど一時を指していて。ここに来てから7時間も時間が経過していた。

時の流れが忙しさからか早いなぁと思っていた所だが、こんなにゲームに熱中したのは生きていた時を含めて初めてかもしれない。


「や、やべっ明日も仕事なのに…!こんなに時間が…」

冷や汗がダラダラ湧き出てくる。


「いや、その心配はいいよ〜」

「?」

「明日は神無くんの代わりにウチが久しぶりに仕事に向かうから大丈夫!」

「俺の代わり…ですか?大丈夫かな…」

「大丈夫って…流石にお前よりベテランだよ?大丈夫!多分」

(多分って言った…)


「その代わり神無くんは…そうだな〜、ニ号ちゃんとデートでも行ってくるのはどう?」

いきなり大きな爆弾を黒夢部長は投下してきた。

「でも俺このデートが仮に政府にバレたら確実に地獄行きになるんですけど!?」

「じゃあそれは変装でカバーするしかないね〜!別人にしてあげるから覚悟しててね?」

俺は言い返したかったが黒夢部長のニマニマした顔はどこかさっきの二号ちゃんと重

なる部分があってどこか叱れなかった。


「えぇ!?神無さんがウチとデート、ですか?」

「そうだよ〜二号ちゃんもめっちゃ可愛くしてあげるからね〜!」

黒夢部長は我が子同然の二号ちゃんに頬擦りをする。

一方二号ちゃんの方はなんかすごい考え込んでいる感じで、顔がなんかしわぁて感じになっている。


「黒夢部長、俺、まだ地獄のこと完全に網羅したわけじゃないんですけど…」

「あぁ〜、神無くん地獄デートにオススメの場所とかわかんないもんね」

「いや、そういうことじゃなくて…」

「よし、これを差し上げよう!」


 そう言って白衣のポケットから『魑魅魍魎叫樂園ちみもうりょうきょうらくえん』と書かれたチケットを俺に差し出した。

「ててててーん!遊園地のチケット〜!」

地味に某ロボットの真似をしてるけど多分黒夢ロボはヒト型ロボットだから仲間なのかもしれない。

「凄い名前…本当に遊園地なんですよね……?」

「私はそこ、行ったことないけど業火ジェットコースターが有名らしいよ、なんか燃えるとかなんとか…」

現世にも水にダイブする某夢の国のジェットコースターはあるが、燃えるとなると普通に火傷しないか…?そんなことを思いながら俺は絶対にジェットコースターには乗らないと心に誓った。


 一方一緒に話を聞いていた二号ちゃんはいつの間にか目を輝かせている。

ヤバい、俺は今日の昼間に生きながら丸焼きになるかもしれない。

「神無さん!楽しみですね!私もう遅いので充電して寝ます!おやすみなさい!」

「あ、あぁ…そうだな」

今日一瞳を輝かせてから二号ちゃんは自室というか黒夢部長の出てきた部屋に入って行った。さっきの真剣に悩んでいた顔はすっかりどっかに行ってしまったようだ。


俺も明日に向けて黒夢ロボから布団を借りてソファーで寝ることにした。

明日俺、骨になるかもしれない、死んでるけど。

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