第6話
私がノーウェン王国の王都に来て数ヶ月が経っていた。今のところ私の身にこれといって大きなトラブルはない。
フェンリス殿下は私に約束したとおり、行動の自由を許してくれた。おかげで私はこの数ヶ月好きに過ごしている。前婚約者の王子との生活に比べればここの生活は天国と言っていい。
「本当に約束を守ってくれるとは思ってなかったな。こっちとしては本当にありがたいけど」
出会った当初は腕試しのためにいきなり斬りかかってくるような人間だから本当に約束を守るとは思えなかったけど、フェンリス殿下は私に対して誠実に対応してこの国での私の行動の自由を保証するという約束を守ってくれた。生活のことで聞きたかったりすることがあると丁寧に答えてくれし、王城の人達も私に対して優しく接してくれる。
今ではこのノーウェン王国での生活が悪くないと思っているし、殿下への第一印象の悪さも薄らいでいた。
「あの婚約の申し出を受けた時はどうなることかと思ったけどこんなにいい生活をさせてもらってるから少しはなにか返せたらいいのだけど」
まあ、そこら辺はおいおい考えるとしよう。今、私が考えなければいけないことは別にある。
「この国の勢力関係をこの数ヶ月間で整理してみたけど……私の旦那様は敵が多いようで」
この国は現在、私の夫であるフェンリス殿下が公職に平民出身者を実力で取り立てたり、汚職を行った貴族を取り締まったりといった改革を行っている最中だ。
しかし当然そういった改革には反発がつきものだ。表立ってはいないが旧来の風習や伝統を重視する貴族層から反発を喰らっている。貴族層の中でもフェンリス殿下の改革に反発しているのは大貴族達だ。下位の貴族達は殿下の改革のおかげで自分達の家の栄達に繋がるため、基本的に賛成している。平民も基本的にこの改革には賛成しているし、王宮ですでに活躍している平民出身の官史達もいる。
「どこの国もこういったことを変えるのは大変よね」
ぼんやりと自分の祖国のことを思いながら私は呟く。私の国では女性は男性よりも低く扱われがちだった。私が冒険者になった時も奇異の目で見られたし、王子に政策について意見を述べた時もお前の意見は求めていないと言われたりと扱いが悪かった。
その点、この国は進んでいる。私が意見を述べた時に邪魔をする人間はいない。皆黙って聞いてくれた上で意見を誠実に述べてくる。意見をきちんと述べてくる分、女だからといって手加減はされないけれど。
「王国より過ごしやすいのは有り難いわ。でも私を取り巻く状況はいいとは言えない状況なのよね」
フェンリス殿下の婚約者の私は当然、改革を嫌がる人達に殿下の味方と思われているだろう。今のところ目立ったことは起きていないけどこれから自分も気をつけないとなー。
「さて、こんなことばかり考えててもしょうがないから城内を散歩でもしますか」
私は沈んだ気持ちを切り替えるために椅子から立ち上がり、部屋から出る。不安はあるものの今のところ私の嫁入り後の生活は順調だった。
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