第4話
「はあ、はあ。やっと城の外に出れた。本当に無駄に広いんだから」
ずっと走っていた私は乱れた呼吸を整える。全速力で走ってきたのてそれなりにこたえた。
「本当、冒険者として現役で活動してた時より衰えたな〜。家出て冒険者としてやってくのは割と悪くない選択かもだけどそれをするなら鍛えないとね」
相変わらず考えているのはこれからの身の振り方だ。王子と婚約していたため活動は自重していたが、冒険者としての私の腕は決して悪いものではなかったので、結構現実的に思える。
「ま、とりあえず家に帰って婚約破棄のことは報告しないとね」
両親はなんと言うだろうか。この婚約は家同士の話し合いで決まった側面が強いから頭は抱えるだろう、特に父が。
「……そこに関しては申し訳ないなあ。私のやりたいことを出来るかぎりさせてもらってきたし」
父は昔から私が自由にやることをなるべく許してもらってきた。冒険者になることも父以外は反対したけど父がいいと言って後押しして反対意見を封じてくれたくらいだしね。
その父に迷惑がかかるのだけは申し訳ないなあ、本当。王子に関しては本当どうでもいいけど。
思い出すだけで嫌になる、あのエイデン王子との生活は。まず人の話を聞かない。自分の考えが正しいと思い込んで他人にも強要する。自分の思い通りにならないとだだを捏ねて文句ばかり言って周囲を困らせる。一緒にいてストレスが溜まる人間の典型だったのだ、彼は。
ただ向こうから婚約破棄してきたのだからこちらも遠慮する必要はなくなった、こっちもこっちで好きにやらせてもらう。
息も大分整ってきたので、再び走り出そうとした時声をかけられた。
「失礼。あなたがアリアナ嬢かな?」
あー、なんでこんな時に声をかけられるかな。こっちはいろいろ面倒事から解放されていい気分だから邪魔をしないで欲しい。
苛立ちながら声のしたほうを振り向くとそこには先程の男性が立っていた。
「あなたは……!?」
フェンリス・ノーウェン、先程ぶつかった相手がそこに立っていた。自分からぶつかってしまった相手のため、また鉢合わせると気まずい。しかし、なぜわざわざ追いかけてきたのだろう? 私は彼とは特に因縁があるわけではないから理由が分からない。
「私にまだなにか用事があるのでしょうか?」
「いやなに少し君の話を聞きたくてな。急いでいるところを申し訳ないが少し俺に付き合ってもらうぞ」
「!?」
言い終わると同時に彼から漂う殺気、私は咄嗟に横に飛ぶ。次の瞬間にはさっき私がいたところにフェンリス殿下の振るった剣が振り下ろされていた。
「……!? 一体なんの真似ですか!?」
あまりの出来事に私は思わず彼を怒鳴りつけてしまう。先程の報復としては妙だ。彼は戦う意志を持って剣を振るっている、罰したいならこうはならないだろう。
「なにって君の実力を少し見たかっただけだ、アリアナ嬢。しかしあれをかわすとは。なかなかやるな、もう少し手合わせに付き合ってもらうぞ!」
私の質問に答える気がないのか、フェンリス殿下はこっちの言葉を聞こうとしていない。ますます闘争心を漲らせ、こちらに向かってくる。
「……面倒くさいな」
不機嫌な感情を滲ませて私は呟く。この男はどうやら私の剣の腕を確認したくてこんなことをしているらしい。一度相手をしないと引き下がらなさそうだ。
ああ! あのくそ王子から解放されたと思ったら今度は別の厄介事に巻き込まれた! なんで今日はいろいろなことが立て続けにおこるかな!
「あなたはノーウェン王国のフェンリス殿下ですよね? こういうことをするならいくら殿下でも加減出来ませんよ?」
私は相手が行動をやめるように強く脅す。しかしながらフェンリス殿下は私の回答に満足したのかにやりと口元を歪ませる。
「むしろ本気でかかってきて欲しいな。そのために君に手合わせを申し込んだんだから」
そう言って剣を構えて私のほうへ向かってくるフェンリス殿下。
「簡単に終わってもらっても困るからな。もっと俺を楽しませてくれ」
彼は私に宣言するとそのまま切り掛かってくる。上段からの一撃。
私はそれを軽くかわすと近くにいた兵士の元へ走る。
「ちょっと失礼」
「え?」
呆然とする兵士の腰に下げている鞘から私は剣を抜き、構える。これで武器を持った相手に素手で戦うという状況は解消された。相手も加減する気がないから真剣に相手をしよう。
「やる気になってくれたようだな。ではこちらも手を抜かずいくぞ」
フェンリス殿下は嬉しそうに言うと剣を構え、こちらに向かってくる。その勢いのまま、剣を私に向かって振り下ろしてきた。
私はその攻撃を剣で受け流し、彼の側面に周りこむ。受け流した勢いを利用して私は彼に斬りかかる。
「ははは、面白い!」
笑いながら私の剣を受け止めた殿下はそのまま攻めに転じて凄まじい速度で攻撃を繰り出してくる。
この人、強い……!
冒険者でもここまでの実力を持っている人はなかなかいない。一国の王子がどうやってこんな実力をつけたのだろうか。
「やるじゃないか、なかなか楽しませてくれる」
対する殿下は楽しそうに笑いながら闘争心を漲らせる。なんでこんなにやる気満々なの……?
「もう少し付き合ってもらうぞ!」
フェンリス殿下はこちらに再びこちらに向かってくる。繰り出される斬撃を私は捌いて余裕があれば反撃する。しかし私の反撃は殿下にことごとく防がれた。
激しい応酬が続き、膠着状態に陥ったため、私は彼から距離を取る。参った、ここまで実力が同じくらいだと楽に勝負は付かないだろう。なんとかして彼の守りを突破しないと。
どうやって彼の守りを突破しようか考えていると、突然彼は剣を鞘にしまった。さっきまであんなに好戦的に私に戦いを挑んできたのに一体どういうことだろう。
「大体の実力は分かった。凄いな、俺の剣を裁ける腕の持ち主などそう多くはないのだが」
自信たっぷりに言い放つフェンリス殿下。そりゃあれだけの腕があれば相手になる人間は限られてくるでしょうね。
彼は自分の剣を鞘にしまうと私に近付いてきて目の前で跪いた。
「!?」
え? どういうこと? なんでいきなり跪いているの!? いきなり態度変わりすぎでは?
「先ほどは大変失礼なことをした。あなたの実力を見て見たくてあんな手段に出たことは謝罪する。そしてどうか俺の願いを聞いて欲しい」
「はい? 願い?」
「どうか俺の妻になって欲しい。それが俺の願いだ」
はっ?
「はああああああああああああああああああああああああああ!?」
素っ頓狂な私の叫びが辺り一面に木霊した。
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