第3話

「殿下、大丈夫ですか?」


「ああ、大事ない。にしても変わった令嬢だったな」


「まったくです。礼儀のなっていない令嬢でした。殿下にあんな態度をとるなんて」


 不満そうに文句を言う自分の従者。それを宥めながら俺は立ち上がる。


「そう怒るな。怪我もないんだからそう目くじらを立てることじゃない。しかしあの令嬢は何者だ? 大分急いでいたが……」


「た、大変です!」


 思案に耽る俺の思考を遮るように向こうから慌てた人間の声がする。俺が連れていた者の一人だ、なにやらかなり慌てているようだが。


「落ち着け。殿下の前だ、失礼のないように」


「は、はい! そ、そのエイデン王子殿下がアリアナ様との婚約を破棄されました!」


「はっ?」


 あまりのことに俺は間の抜けた対応をしてしまうがすぐに気を取り直して状況の把握に努める。


「それは本当か?」


「は、はい、間違いありません。私もその場にいましたので」


 エイデン王子とは何度か会って話した結果、愚物だと結論付けていたがここまで馬鹿だとは。確かエイデン王子の婚約者は変わり者だが、しっかりしていると評判だった。


 アリアナ・ルビーハート。公爵令嬢としては変わりもので今の王子の婚約者になるまでは冒険者稼業をしていたという破天荒な人間。

 だがその剣技は確かなもので冒険者としての評判もよかった。仲間の冒険者からは人柄と実力に対して大きな信頼が寄せられていたという。またルビーハート家の領地の運営にも助言しており、治政の方面でも優秀だという。ただ行動が自由奔放なのが災いしてか古くさい貴族には嫌われていると評判だ。

 実際あの王子は話していても駄目な面が目立つと俺も思っているくらいだ。それでこのエルムリア国が持っているのは王子の婚約者であるアリアナ嬢のおかげというのは二人に対する評価を踏まえての結論だ。


「待て、まさかさっきの走って行った令嬢は……」


 従者からもたらされた情報ですべてが繋がる。先ほどぶつかったあの令嬢が王子の婚約者であるアリアナ嬢だったというわけだ。

  

「ふふ、面白い状況だ」


 彼女は以前より気になっていた人物だ、少し話をしてみたい。その人物が今婚約者から婚約破棄され、相手がいない状態という好都合な状況だ。


「殿下、どこに行かれるのですか?」


 歩き出した俺のことを訝しみ、従者が俺に声をかけてくる。


「どこって決まっているだろう。あの令嬢を追うのさ」

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