第07話 祝言などという戯言は結構だ。
座敷には白木の
御白様が、上座に座るよう勧める。
「いや。僕は下座でお相伴させてもらえれば……」
「
断り難い気に飲まれて従った。御白様と僕が上座に座る。
奥内様とぼっこちゃんが右手の襖側に座っていた。縁側が在る左手の障子戸側に座る男女は、川波さんとお雪さんだと紹介された。二人はこの家の事を手伝っているのだという。
「では、戴きましょうか」
御白様が言うと同時に、奥内様が手を挙げ声を上げる。
「はい、はーい!」
「何ですか、奥内」
「御白だけ凜ちゃんの隣に座って、ズルいと思いま~す!」
言い終わらぬうちに自分の膳を持ち、僕の隣へと移ってくる。
「ちょ! 近っ!」
思わず御白様の方へ逃げて膳をずらす。僕が逃げた分だけ、奥内様がにじり寄って来た。結果、肩が触れ合う距離で、御白様と奥内様に挟まれる事になった。
「それじゃ、食おうぜ!」
そう言って箸を取る奥内様は、ご満悦の様子だ。対して御白様は、呆れたように溜息を吐いている。
僕はと言えば、どうすれば良いの解らず、二人の間で小さくなって箸を取った。
「た、食べにくいのだが……」
他の三人は、上座での騒ぎなど無いかの様に黙々と食を進めていた。もしかしたらこんな騒ぎが、この家では日常なのかも知れない。奥内様の
今日の膳は、お雪さんが
「山の料理ばかりで恥ずかしいわ。お口に合えば良いのだけれど」
料理を紹介してくれたお雪さんが、不安げに声を上げる。
「お若いのに、大した腕前だ……とでも言っておこうか」
解っている。ただ一言「美味しい」と伝えれば済むことなのだ。
こんな可愛げのない言い方をすれば、場の空気が悪くなることなんて解っている。解ってはいるのだけれど、二十年以上かけて積み上げてきた悪癖はそう簡単に変えられるものではない。
「え、若い!? そう? そんなことは……フフ、あるけど!」
僕の物言いにも動じること無く、お雪さんが両手を頬に添え身をくねらせていた。
「いや、そっちかよ! 料理の話じゃないのかよ!」
すかさず奥内様がツッコミを入れる。
次の瞬間、お雪さんの表情が凍りついた。
「なんか文句あるの?」
今までとはまるで違う冷たい口調。奥内様を
心
「いえ、文句……ないです」
気勢を削がれた奥内様が、目を逸らして香の物を
それはそうと、可愛げのない物言いに雰囲気が悪くならなくて良かった。奥内様とお雪さんには、感謝しなくてはいけない……。
胸を撫で下ろして、残りの料理を戴いた。
食事が終わると、お雪さんが茶を淹れてくれた。
御白様は正座したまま静かに茶を飲み、奥内様はぼっこちゃんと一緒に茶菓子の入った
良い頃合いかと思い、御白様に訊いた。
「客として
「凜華さんが、此処に居る理由……ですか」
皆が優しく接してくれるが、どうして歓待してくれるのか判らず困っている。喉の奥に刺さった小骨のように、気になって仕方がない。
「祝言などという
「戯言ではないのですけどね。祝言の話も」
そう言って、御白様は困惑の笑みを浮かべた。
そして何事か思案しているところへ、奥内様が口を挟んだ。
「教えてあげればぁ?」
「しかし、奥内……」
「知る権利あるっしょ。凜ちゃんには」
「とは言ってもだな……」
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