第06話 浴衣、良くお似合いですよ
突然、御白様がチャラくなってしまった。そう思って唖然とした。
「湯上がり凜ちゃん。超カワイイじゃん!」
纏わり付いてくる男を、反射的に張り倒そうとした。けれども手を振り下ろす刹那、するりと身を
「だ、誰だ。君は」
御白様から品格を減じれば、この男のようになるのではないだろうか。最初は御白様だと錯覚した。美しい顔立ちはよく似ているし、
しかし別人だ。髪の色が違うだろうか。御白様の
「オックンだよ、オックン。忘れちゃった?」
「忘れるも何も。知らないな、君のことなんか」
「えぇ~。凜ちゃん冷たくない?」
馴れ馴れしく肩を組もうとする男から、今度は僕が身を
風呂から帰り、ぼっこちゃんに案内されて茶の間に入った。その途端、御白様に似たこの男に絡まれたという訳だ。
「ちょっと見ない間に、大人になっちゃってまぁ」
「僕を知っているのか!?」
「知ってるも何も、昔よく遊んだじゃん」
「人違いでは? 君と遊んだ憶えなんてないのだが……」
ヘラヘラと笑いながらにじり寄ってくる男に、思わず後ずさる。
どうしたものかと困っていると、奥の座敷から声が響いた。
「あまり困らせてやるな」
言いながら
「なんだよ。再会を喜んでるだけじゃん」
「凜華さんがお困りだ。それ位にしておけ」
「相変わらず堅いなぁ、御白は」
男は肩を
僕へ歩み寄る御白様に訊く。
「もしかして今の男は、
「思い出されましたか?」
「いや、察しをつけたまでのこと」
「相変わらず聡明でいらっしゃる。その通りですよ」
聡明と言われて、悪い気はしなかった。けれども褒められて思わず、照れ隠しに悪態を吐きそうになってしまった。「これしきの事で聡明とは、君たちの程度が知れるな」声になる寸前で飲み込んだ。
そうだ、奥内様に気を取られて忘れていたが、帰り道にすれ違った河童の事、御白様に聞こうと思っていたのだった。
「馬鹿な事をと
「どうしました? 改まって」
「さっき河童の女性とすれ違ったんだ……」
「岩清水さんでしょう。この辺で河童の女性と言えばあの方だ」
ぼっこちゃん同様、事もなげに答える。
「か、河童だぞ? え、岩清水さん河童なの!?」
あわてる僕を、不思議そうな顔で見詰めていた。
「そう言えば
「
成る程と言った風に、御白様が顎に手を添えて頷いた。
「河童のことは、改めてお教えしましょう。そんな事よりも、凜華さん……」
僕の耳元に顔を寄せ、御白様が
「な、なに……かな?」
不意を突かれてあわててしまう。
「浴衣、良くお似合いですよ」
言われて大きく胸が鳴った。
「な、何が狙いだ。褒めたって何も出ない……ぞ」
慌ててしまい、悪態を飲み込む余裕すらなかった。
微笑む御白様から目を逸らし、思わず俯いてしまう。
「可愛らしい面差しが見られただけで充分です」
頬が紅潮するのが判った。
顔から火が出るという慣用句の意味が、初めて理解できた気がする。
「ぼ、僕なんかが可愛い訳があるか! 恥ずかしくないのか! そんな歯の浮くような……その……」
言い淀む僕に、御白様は涼やかな笑顔で応えた。
「さぁ、
そう言って御白様は手で座敷を示した。
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