第03話 おふろ、きらい?
造りから見るに、共同浴場だろうか。
僕たちの他には誰も
湯船に浸かり見上げてみれば、夜の
「こんなお風呂に
僕の膝に乗り湯に浸かる少女が、コクリと頷く。
歳の頃は、小学校の低学年くらいだろうか。此処への道すがら歳を尋ねてみたのだけれど、彼女は首を傾げるばかりだった。
ちなみに『ぼっこ』というのは子供を指す言葉なのだそうだ。皆からそう呼ばれてるらしい。名前や名字を尋ねてみたのだけれど、これまた小首を傾げるばかりで答は得られなかった。
口数が少なく不思議な子だ。しかし決して悪い子ではないと思う。湯に浸かる前も僕に気を使い、甲斐甲斐しく背中を流してくれた。お礼に髪を洗ってあげると、照れくさそうに身を任せていた。
僕の髪も洗ってくれると言っていたのだが、流石にこの長さだ。少女の手には余るので、何時ものように自らの手で洗った。
洗い髪をまとめて湯船に浸かると、少女は僕の膝に乗り身体を預けてきた。まったく、人懐っこい子である。
「僕がどうやって此処に来たか知ってるかな?」
一息ついてみれば、どうにもこの事が気にかかる。しかし僕の問い掛けに、彼女は首を横に振って答えた。
「知らないか……」
「うん。しらない」
「どうして僕は、こんな所で風呂に入っているのやら……」
膝の上で振り向いて、ぼっこちゃんが僕を見上げる。
「おふろ、きらい?」
「き、嫌いじゃない。むしろ好きだな」
「よかった」
安心した表情で、再び前を向く。
嫌なことに付き合わせているのではと、不安に思わせてしまったのだろうか。幼い子に心配をかけてしまうだなんて……。
悪態を
此処へ来る前、御白様にも憎まれ口を叩いてしまった。思い返すと、申し訳のない気持ちで一杯になる。後で謝ろうとは思うのだけれど、本人を目の前にすればまた悪態を吐いてしまうだろう。素直に謝ることができるのなら、こんなに悩んだりはしない。
思わず、溜息がこぼれてしまった。
悩むくらいなら、素直に謝ればよいのだ。解ってはいる。解ってはいるのだけれど、それが出来ないから困っているのだ。
いかん、いかん。こんな気持ちのいい温泉に浸かってまで、落ち込んでいるだなんて。気持ちを切り替えよう。眼前の問題にこそ、集中するべきだ。
此処に居る理由も
そう言えば縁側で御白様を初恋の人に似ていると感じた。けれども、肝心の初恋の事を思い出せずにいる。なぜ憶えてもいない初恋の相手と、似ているなどと思ったのか……まったくもって不可解なことだ。
忘れてしまった記憶も落ち着けば次第に思い出す、御白様がそんな事を言っていた。初恋の相手は思い出せないが、実際にこうやって落ち着いてみれば、確かにいくつか思い出す事が在る。
断片的ではあるのだけれど、此処に来る道中のことを思い出しつつあった。御白様は拐かしたのではないと言っていたが、確かにその通り。どうやら僕は、自らの足で曲家に辿り着いていたらしい……。
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