第3話 登場

 部屋に入り、テレビをつけると、夕方のニュースが流れていた。同性愛の特集らしく、俺は愛し方を知りたかったので流れるようにテレビの前に座った。

「人を愛するって、どんな感じですかー」

 キャスターの人が、マイクに向かって聞いていた。俺は真剣にテレビを見つめた。

 愛し方を知ってる人からしか、教わることはできない。

 でも、愛されることを知らないから、どうやったら自分が人を愛する人間になれるか分からないから困ってるんだって言いたくなる。

 そんな俺の思いを代弁するかのように、コメンテーターは、自分の愛が相手に伝わったかどうかじゃないかと言った。

「伝えるのが難しいんだよ」

作文で悩んでいるのも同様、捨てられるのが怖いのも同様。伝えることが難関なのだ。

「伝えなくても理解してくれるような道具でも発明してくれないかなー」

と言って、テレビを消そうとした時、俺より少し大きい手が、握っていたリモコンの上に手を置かれた。

「あるぞ、公には公開されてないけど」

男の人の声だった。

ゆっくりと声のする方に顔を向けた。


 少し長い金髪で白い肌。Tシャツの上に白衣。Gパンを履いた見た感じ二十歳後半からか三十歳くらいの塩顔のすらっとした男が目の前にいた。

 まず、動揺が隠せず、小さく悲鳴をあげる。

「お前、俺が未来人って言ったら信じる?」

鼻にかかった声。目を丸くして、男の手に触れた。骨太で、大きくて、男らしく、それでいて綺麗な手だ。

「幽霊じゃない……」

男は、俺の手を握る。

「未来って、なんでもあるようでそうでもないぜ。神の世界じゃあるまいし」

 俺は、男の顔をしっかり見た。本当は、鍵を閉めた家の中に未来人を信じるかと聞いてくる男が怖くてたまらなかった。誘拐犯かもしれないし、もしかしたらファンかもしれないとも次に思った。

「俺、未来人なんだ」

男はそう言う。微笑んでそう言っているけど、俺は少し残念だった。熱烈なファンとかだったら、愛が伝わるのに。例え、リスクを犯してでも。

 それが顔に出ていたのか、男は「不思議がらないんだ」と、ため息混じりに言って

「俺、未来じゃね、ある意味有名人なんだぜ。若くして、大学のお偉いさんになったんだよ」

未来人の男は少し考え込んでから、また口を開いた。

「お前が思ってる以上に、俺が未来人って言うことを信じてるのかもね」

と、笑って言った。俺は少し間を置いて 、ゆっくりと頷いた。

「オカルトとか、都市前説とか、好きな人いますし」

「健司はそっち派なんだ」

俺は目を見開いた。

「なんで、俺の名前知ってんですか?」

男は、なんだよと面倒臭そうな顔をして

「順番が違う。なんで未来人がここにいるんだよ、だろ?」

俺は、男の言う通りだと渋々思うことにして頷いた。男はため息を吐いてから、口を開いた。

「まぁいいよ、俺は、ある目的で未来から来た。でも、俺なしでも達成出来そうだから、暇つぶしにお前に会っておこうかと思ったわけ」

俺は男が言っている意味がわからなかったし、何よりこの男の正体に疑問だらけだった。

 ただ黙って男を睨みつけながら聞いていたのが気に入らないのか

「なんか言えよ! せっかく会いに来たのに!」

「見た目が大人なだけで、中身は子供なんですか?」

「大人ってみんな永遠の子供だろ? だから俺みたいになっても、大人と子供の中間地点にいるようなもんだし」

そう言って男は笑った。見た目、二十代後半から三十歳前半に見える男がそんなことを言ったものだから、俺が鼻で笑う。

 「嫌?」と言われたので、俺は急いで首を横に振った。「じゃあ、暇潰し付き合ってよ」と言って、男も隣に座り込んだ。テレビを消そうとすると

「テレビつけっぱなしでいいよ。同性愛かぁ、この時代はそうだよねぇ」

と言いながら、テレビ画面をつまらなそうに見つめていた。

男の横顔を見ると、なんだか切なく思えてしまって、俺はチャンネルを変えずにそのままにしていた。

 ただ、男が隣にいると言う現実から逃げるために、作文の題材を考え始めると案外捗ったので、男のことはすぐに頭から消え去ることになった。

 けれど、俺が黙って作文の題材になる題材を探していることを知らずになのか、男は話し始めた。

「同性愛でも、愛しい人がいるのらいいのかもね」

俺は、男を横目で見て

「俺も、そう思います」

と、答えた。自分の声があまりにも情けなく聞こえる。

「愛される人になって、本気で誰かを愛してみたいです。家族いなくて、猫でも飼おうかなって思ったんですけど、同じ人間で会話がしたいなって」

男は、不思議そうに俺を見て

「地球がこれから滅びるから、猫を飼うのは遅かったね」

男は平然と少し悪戯に笑って言ってきた。

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