第18話 トレイヴォンside


そう言ったファビオラは背を向けて去って行く。

トレイヴォンは近くにあった椅子に腰掛けながら待っていた。


店員と仲良さげに話しながら、こちらを指差している。

恐らく「プレゼントで今つけたい」と話しているのだろう。

「パートナーですか?」とでも言われたのだろう。

「違いますよ。友達です」と言って話す声がここまで聞こえてくる。

その後に否定するように手を横に振りながらファビオラは笑っている。


(……友達、か)


ファビオラがダイヤ邸を尋ねてきた日のことを今でも覚えている。

我儘で手がつけられないと噂のブラック伯爵家の令嬢、ファビオラの話はトレイヴォンも聞いたことがある。

そんなファビオラが珍しくに訪ねてきたかと思えば「殺さないでぇえぇ」と訳のわからないことを言い出して号泣した時には、さすがにどうしようかと思った。


今後どうすればいいか相談を受けたトレイヴォンはとりあえず、他の令嬢達のようにマナーを会得することをすすめる。


まさかとは思ったが、アドバイス通りにすごい勢いでマナーや勉学に励み始めたのには驚いた。

その必死さはこちらが心配になるほどだった。

そして無理が祟り、高熱を出した際にトレイヴォンが責任を感じてお見舞いに行くと「悪役令嬢にならない」「断罪断固拒否」と次々に訳の分からない言葉を発していた。


体調がよくなり、ファビオラに独り言の内容を問えば「実は、わたくしは……!」と、言って自分が乙女ゲームに出てくる悪役令嬢で、何もしなければトレイヴォンに殺されてしまう。ひどい目にあうのだと説明を受けた。


実際に未来のことがわかるなんて信じられなかったが、学園のことやまだ知るはずのない令息達の名前をすらすら言っていたファビオラに信じられない気持ちもあったが、あまりにも必死なファビオラの様子にトレイヴォンは信じることにした。


そして自分がファビオラを殺すことになるのだと言われて、そうはなりたくないと強く思ったからかもしれない。



「信じてくれるの……?」


「ああ、信じる」



一緒に過ごしてわかったことはファビオラは噂とは全く違う。

無邪気で真っ直ぐで、兎に角放っておけなかった。

常に自分が見ていなければ、そう思うほどに。


そしてファビオラが決戦の日と言っていたあの時までは。

ファビオラは婚約を避けようとしていたマスクウェルに惚れ込んでしまい、婚約してしまったらしい。

見事に乙女ゲームと同じ道を歩みはじめたファビオラ。

落ち込むかと思っていたが、何故か彼女は幸せそうだった。

トレイヴォンはそれに驚きをを隠せなかった。


しかしファビオラの話を聞いているとイライラした。

それは侍女のエマも同じようだ。

マスクウェルはファビオラを大切にしていないように見える。

それでもファビオラはマスクウェルを大好きだという。

トレイヴォンも昔からマスクウェルを知っているため、彼の二面性には気づいている。


(どうしてビオラは婚約者にいることにこだわるんだ……)


マスクウェルの婚約者でいなければ、この問題は解決すると聞いていたトレイヴォンにとっては焦ったい。

ファビオラに訴えかけても「マスクウェル殿下の幸せのためよ!」と言って取り合ってもらえない。


そして今度はファビオラが「半年間、マスクウェル殿下に会わない」と言った。

そこから精神力を鍛えるといって、また訳の分からないことをはじめた。


そのタイミングでマスクウェルの護衛を任命されることになる。

しかしマスクウェルは何故かトレイヴォンを敵視していた。

「お前にはファビオラを渡さない」

そう威嚇されたのだが、その言葉や行動からマスクウェルが本当はファビオラをどう思っているのかが理解できた。


(マスクウェル殿下は、ビオラのことを……?)


しかしそれがわかったところで、トレイヴォンはマスクウェルにずっと言いたかったことがあった。



「なぜ、もっとファビオラ嬢を大切にしないのですか?」

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