第17話

いつも綺麗にまとめてある真っ赤な髪に銀色のメッシュの髪はボサっとして結えており、切長の銀色の瞳を眼鏡で隠している。


約束を破ってトレイヴォンを振り回してしまったことに罪悪感を感じていた。

三年間で後略対象者である彼ともすっかり仲良くなる。

今ではマスクウェルの護衛をしているトレイヴォンに様子を聞くのを必死に我慢しながらチラチラと視線を送っていると、トレイヴォンからマスクウェルの様子がどうだったのかを説明してくれる。


以前の表情は固く令嬢達から怖がられていたトレイヴォンだったが、ファビオラがいつも楽しげに話していたからか、誤解はあっという間に解けていき、トレイヴォンは婚約者がいないこともあり、今や王太子のマスクウェルを超えて凄まじい人気を放っている。

令嬢達が放っておかないそうで、よくファビオラのところに避難してくる。


しかしこれだけトレイヴォンと関わっているのにアリスと顔を合わせないのも不思議なところだ。

約束をしておいてこのままでは申し訳ないと思ったファビオラは、いいことを思いつく。



「なら、今から街に行きましょう!」


「はぁ!?」


「エマ、街娘風にお願い!」


「かしこまりました」



そうして予定通りにトレイヴォンと共に街に出かけることになった。

馬車の中でいつものように話していた。

隣にはエマが限りなく空気を薄くして座っている。



「さっきのドレスに合う髪飾りを探しに行こうと思うの!レイ、さっきわたくしのドレス姿を見たでしょう?マスクウェル殿下のドレスに合う髪飾りを選んでちょうだい!」


「マスクウェル殿下、マスクウェル殿下って、よく飽きないな」


「全然……!むしろ年々、好きが増していくの。不思議よねぇ」


「ふーん」


「どれだけ嫌われたって少しの希望に縋りたくなってしまう。たとえ自分が散るとわかっていても、最後まで側にいたい……まぁ、レイにはわからないかもしれないけど」


「いいや……わかる」


「え……?」



今日のトレイヴォンはいつになく大人っぽく思えた。

眉を寄せて困ったように笑ったトレイヴォンの笑みを見て、呆然としていると御者から声が掛かる。



「ビオラ、そろそろ行くぞ」


「…………」


「マスクウェル殿下のために頑張るんだろう?」


「も、もちろんよ!」



そう言ったトレイヴォンはいつもの彼と同じだった。

先程の言葉の意味を問おうとしても、何故かいつものように聞くことができなかった。

騎士として腕が確かなトレイヴォンと共に行動すれば護衛いらずだ。

いくら仲がいい友人とはいえ婚約者でもない令息と二人きりになるわけにもいかずに、エマにも同席してもらっている。

トレイヴォンとエマを連れて色々な店を巡った。



「わぁ……!ここの店可愛いっ」


「ビオラ、声でかい」


「レイ、見てみて!これ、コレっ!」


「見てる」


「マスクウェル殿下にこのピアス、とても似合いそうね。でもわたくしがプレゼントしたものを受け取ってくれるかしら。でもドレスの御礼をしたいし」


「……。喜ぶと思うぞ」


「ほっ、ほんとかしら!どうせならお揃いにしましょう!」



トレイヴォンの言葉を信じて、ファビオラはハートのピアスを購入する。

赤と黒のハートを半分ずつにできて、合わせるとひとつにハートになるというものだ。

調子に乗りすぎかとも思ったが、勢いで買ってしまった。

ファビオラら鼻息荒く興奮していた。

トレイヴォンは溜息を吐きながらも一緒についてきてくれる。

ふと、黒い石の飾りがついた髪紐が目に入る。



「これ、レイに似合うそうね!」


「髪紐か……?」


「そうそう!最近、髪が邪魔って言っていたでしょう?あ、そうだわ。今日のお詫びにこれ買ってあげるわね。ちょっと待ってて……!」


「あ、おい……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る