第9話
トレイヴォンに落ち着くように言われて、婚約までの流れを説明する。
彼は目を閉じながらファビオラの話を最後まで聞いていたが、瞼を開いてこう問いかけた。
「本当にアリスはマスクウェル殿下を選ぶのか?」
「そ……そう言われると困りますわ。学園に行かなければわからないんですもの」
「そんな不確定なものに振り回される必要があるのか?」
「とは言いましても、わたくしはトレイヴォン様に殺されたくはありませんし」
「いや……こうして話している時点でありえないだろう」
「アリス様のためならやらないとは限りませんわ!」
「頑なだな」
「当たり前です!わたくしの命がかかっているんですもの」
トレイヴォンには、すでに自分が転生者のファビオラで、乙女ゲームの内容を話していた。
普通ならばドン引きしてしまう内容ではあるが、トレイヴォンはファビオラの話に真剣に耳を傾けてくれる優しくて心が広い男である。
元々、攻略対象者の中でも一番の強面で一番人気のなかったトレイヴォンだが、あまりの男らしさと頼もしさに感動でしかない。
今のトレイヴォンは面倒見がいいお兄さんといった感じだ。
(つまりは圧倒的にイケメンの兄貴枠……)
トレイヴォンは頼り甲斐があり、ファビオラが最も信頼している人物の一人である。
「アリスとマスクウェル殿下が学園で結ばれて、それから婚約破棄されて、ファビオラがざまぁされるんだっけっか?」
「そう、そうなのです……!破滅への階段を駆け上がっていくの。でもこれはマスクウェル殿下が幸せになるためだから仕方ないのよ!これは愛よ、愛っ!」
「……」
「そういうトレイヴォン様だって、アリス様と結ばれる可能性があるですっ」
「俺がアリスと……?」
トレイヴォンは髪を掻きながら不思議そうにしている。
しかしもしヒロインの選択肢によっては、トレイヴォンルートの場合だってありえるかもしれない。
「ならアリスがマスクウェル殿下を選んだら、俺がファビオラを娶ってやろうか?」
「……え!?」
突然のトレイヴォンの告白に驚いていた。
しかしすぐに優しい彼のことだから、気を遣ってくれているのだろうと気づくことができた。
ファビオラはバシバシと音を立ててトレイヴォンの背を叩く。
「まぁ!気を遣ってくださり、ありがとうございます」
「別に俺は……」
「さすがトレイヴォン様だわ。頼りにしております」
「ファビオラ、俺の言っている意味、ちゃんとわかってるのか?」
「もちろんですわ!トレイヴォン様信頼しているもの」
「まぁ、今はそれでいい……そのうちわからせてやるから」
「???」
トレイヴォンはエマと同じくらい一緒にいると楽しい友人である。
いつものように他愛のない話をしながら過ごしていたが、今日はマスクウェルのどこかカッコいいか、何が素晴らしいかと語っていたが、トレイヴォンはファビオラの話を最後まで聞いててくれる。
そんな毎日を繰り返しながら、三年の月日が流れてファビオラは十五歳になった。
女王様のように振る舞おうと努力していたが、見事に挫折。表向きは乙女ゲームのパッケージと同じファビオラの容姿を心がけていたのだが、維持するのはかなり大変だ。
家では面倒だからいいかと思いはじめて、マスクウェルの前でもすっかり素が出てしまった一年目。
パーティーで婚約者としてマスクウェルと一緒に行動することが増えていったのだが「いつもの方が可愛いんじゃない?」と、何気ない一言をマスクウェルに言われたことにより、何かが吹っ切れる。
徐々に原作のファビオラとのイメージがかけ離れていった二年目。
ファビオラの悪い噂が消えてパーティーやお茶会な誘いがたくさんくるようになる。
断るのも申し訳なく顔を出して忙しくなり、マスクウェルに「何余所見してんの?君は僕の婚約者じゃないの?」といわれたことにより更にマスクウェルに惚れ込んで、マスクウェルに褒めてもらくて清楚系になった三年目。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます