第10話
相変わらず塩対応なマスクウェルは嫌々ながらも、何故かブラック邸に足を運んでくれている。
(きっとわたくしが婚約者だから気を遣ってくれているのね……!それか周りの目が気になるのかしら?)
最近では以前よりもずっと長くブラック邸に留まってくれるようになった。
とはいっても、マスクウェルは一方的に話すファビオラの話を不機嫌そうに聞いているだけ。
しかもマスクウェルは「あまっていたから」とお菓子を持ってきてくれたり「たまたま見つけたから」とドレスを持ってきてくれたりと、神に感謝するほどに嬉しいことがたくさんあったのだが、長くなりそうなのでここでは割愛させていただこう。
ファビオラはというとマスクウェルを見ているだけで幸せが止まらないのだが、一度聞いたことがあった。
「マスクウェル殿下はどうしてわたくしに会いに来てくれるのですか?」
「は…………?」
「理由が知りたいなぁ、と思いまして」
「婚約者だからだろう。それ以外に会う理由があるのか?」
低くて怖い声で言われてしまえば、ファビオラは苦笑いしながら頷くしかなかった。
最近、少し仲良くなれた気がしていたが、やはり気のせいだったようだ。
マスクウェルはファビオラを嫌っている。
その考えはいくらファビオラが変化したとしても変わらないのだろう。
(期待しても無駄なのに……わたくしったらバカね)
ファビオラが考え込んでいる間、マスクウェルが頬を赤く染めていたとも知らずに、大きなすれ違いが起こっていた。
年々、顔まわりのキラキラとした輝きが増しているマスクウェル。
ライトゴールドと赤いメッシュ髪は原作とは違い伸ばすことはなく、前髪はセンターわけにしているせいか知的に見える。
その理由はファビオラがマスクウェルを『可愛い』と言いすぎていたため、前髪を伸ばして大人っぽくみせていることに全く気づかずに、本人はどんな姿も美しいと、その神々しさに感動している。
琥珀色の瞳に見つめられると涎が口端から溢れるし、まつ毛は人形のように長くてずっと見ていられる。
洗練された仕草は惚れ惚れとしてしまう。
紅茶を飲む時に薄い唇がカップに触れるたびに悶えている。
ファビオラは今日のマスクウェルの姿わ、目に焼きつけながらも無意識に熱々の紅茶に砂糖を何個も何個も溶かしながら思っていた。
成長してもマクスウェルの美しさは年々増すばかり。
(はぁ……顔面国宝。こんな日々を週に一回も過ごせるなんて、わたくしはどうしてこんなに幸せなのかしら)
会う頻度は婚約してからは月に一度だったのに、それがいつの間にか三週間に一度、二週間に一度となり、そして今は一週間に一回はマスクウェルの顔面を拝めるというご褒美タイムがやってくる。
何年経っても飽きることはなく、例えるなら噛めば噛むほど味が出るスルメのようなマスクウェルの魅力にどっぷりと浸かっていた。
普通なら何年も過ごしていると、ここが嫌だなぁとか苦手だなぁという部分が出てきてもいいはずなのに、彼に関しては顔面は勿論のこと、ツンとした態度も超塩対応も全て好き過ぎて堪らないのである。
このどうしようもない気持ちは乙女ゲームのファビオラと同じものかもしれないと最近、そう思っている。
今なら『ファビオラ』の気持ちがよくわかるような気がした。
けれど原作のファビオラとは違うのは、ド派手な格好をしておらずマスクウェルが可愛いと言ってくれた清楚な格好を心がけて、マスクウェルを困らせるような我儘も一度も言ってないし、マスクウェルに付き纏っていない。
彼から連絡が来るまで待ち続けるという完全に受身スタイルとなっている。
何より女王様になるのは無理だと気づいたし、男性経験も皆無。
今後の自分のためにもいい人になったほうがいいと思った。
(神様、わたくしには悪役令嬢は無理でした……!ですがその分までしっかりマスクウェルを幸せに導いていきますので、どうぞ最後までよろしくお願いします!)
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