第8話
「ウフフ……」
「………君、変だよ」
「はい、ありがとうございますっ!」
「…………」
こんな調子で会話を続けていた。
そしてマスクウェルは何故かブラック邸に来た時よりも、げんなりとしながら帰って行く。
ファビオラは目に焼きつけた色んな表情のマスクウェルを思い出してはエマに話していた。
「でね、わたくしのこと〝変だよ〟〝意味わかんない〟って言ったのよ!その時の言い方も顔もすごく可愛かったのよ……!もうそれだけでパサパサなあの不味いパンを三個食べられるくらいなの~」
「………」
「それにね!わたくしを見るあの蔑むような目が……っ」
「ファビオラお嬢様」
「あらエマ、珍しいわね!マスクウェル殿下について何か質問が?」
「いいえ。目を覚ましてくださいと言おうとしただけです」
「覚めているわよ?」
「ファビオラお嬢様は何を考えているのですか?」
「え……?だから、マスクウェル殿下が可愛いなって話でしょう?」
「…………」
エマのドン引きしている表情を気にすることなく、ファビオラは話を続けていた。
父と母に何も喋らないようにと口を塞ぐことも忘れなかったが、エマはツーンとして顔を背けたのだった。
次の日、攻略対象者の一人であるトレイヴォン・ダイヤがいつものようにブラック邸に遊びに来た。
何故かといえば常識人でファビオラを高確率で殺す可能性のあるトレイヴォンを味方につけるのが最優先事項だと思ったファビオラは記憶を取り戻してすぐにトレイヴォンに接触を図っていた。
ファビオラに転生したばかりで混乱していたのもあったが、兎に角この恐ろしすぎる騎士団長の息子であるトレイヴォンだけは味方に引き入れなければと一生懸命だった。
『わたくし、心を入れ替えたんです!だから殺さないでっ』
そう言いながらダイヤ邸に突撃して怪訝な顔をされたものの、ファビオラの
『わたくしを助けてくださいぃぃ』
『死にたくないぃい!殺さないでえぇ』
『あなたはわたくしが嫌いなんでしょう!?』
という大絶叫と号泣っぷりにトレイヴォンをドン引きされた。
今思えば非常識極まりなく、大変迷惑な話ではあるがトレイヴォンは意外にもそんなファビオラを受け入れてくれた。
突然、知らない世界に放り込まれた不安で思いが爆発。
しかしトレイヴォンはファビオラの話を聞いて慰めてくれたことで、ファビオラもトレイヴォンからアドバイスをもらいマナーを会得。
その根性と心意気を買われて、何故か意気投合。
それから予定通りにマスクウェルと顔合わせすることになり、関わらないようにと意気込んでいたが、婚約してしまいトレイヴォンに言えずに、ついに呼び出しが来たというわけだ。
「ファビオラ、マスクウェル殿下と婚約したらしいな。説明を要求する」
「…………面目もありません」
「あんなに関わらないようにすると豪語していたように記憶しているが」
「そ、そうなのです……!ですが、やはり神様が決めた運命には抗えないみたいでぇ」
「……」
「え、えへ」
じっとりとした視線を感じてファビオラは目を逸らす。
真っ赤な髪に銀色のメッシュ、銀色の目は吊っており、肉食獣のようにも見える。
腕を組んでいるトレイヴォンを見て、ファビオラは静かにテーブルに額を擦り付ける。
「──すみませんでしたっ!」
「今まで散々聞かされていたファビオラの輝かしい人生設計はなんだったんだ?」
「そ、それはですね、全て台無しになりましたわ!シナリオ通りになってしまったけれど、わたくしは愛に生きるって決めたのですっ!」
「……」
「そうだわ!わたくし、今日からまた我儘に戻らないといけないんですわ!アリス様とマスクウェル殿下のためにっ」
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