第3話 夢む

気づけば学校に居ました。どうやら眠っていたようです。……そうではありませんでした。目の前に広がるのは、ただのクラスメイトの後ろ姿。此処にどうやって戻ってきたのかを覚えていませんが、学校に遅刻という形で戻ってきたらしいのです。…否、夢では無かったのだろうか。私は彼女の席を見ます。彼女は居ませんでした。バレないようにスマホを取り出し、連絡が来ていないか確認します。其処には幾つかの『返答』が来ていました。

この世を生きているから。

折角生まれたなら楽しみたいから。

好きな人が居るから。

人生が楽しいから。

死ねないから。

大切な人に恩返しがしたかったから。

其処で、私の仮説は元に戻りました。そう、『後悔しないように生きたいから』。結局、そういうことになるのでしょう。人というのは何時だって後悔をします。後悔しない人間に成長はありません。後悔することで、同じ過ちを繰り返さぬようできているのです。後悔とは、『明日を見つめること』。もしかしたら、それができて、初めて人間として生きていられるのかもしれない。私は自分で納得しまして、授業に戻りました。


翌日。彼女が死んだ報せが届きました。恐らく、カフェを出たあの後、自殺したのです。私は別に、咎めたりはしませんでした。言ったでしょう、自殺は私たちに与えられた権利だと。クラスメイトは当然のように驚き、悲しみ、嘆き、泣き、青い感情の沼に沈み込んでいきました。私は元から、他人が死んでも別に良いじゃないかと思っていました。しかし、妙なことに、とてもとても悲しかったのです。唯一、素の私を認めてくれた人なのでしたから。

その夜、死んだ彼女から手紙が来ました。遺書でした。最初から死ぬつもりだったとは、彼女も潔いものです。

今思えば、彼女の笑顔はどうも作り物のようでした。ずっと前から。何時しか新しい機械のようだ、だとか、正常な笑顔だ、だとか表現した彼女の笑顔は、まさに作り物でありました。それも随分品質の高い笑顔でした。彼女の生き様が彫られていたようなその仮面の笑顔が、目の裏にまで焼き付いて、目を瞑る度に戻ってくるのです。なんだ、まだ彼女は生きているんじゃないか。これもただの冗談なんだろう。彼女の本当の笑い方も知らない私は、自分と彼女を嘲笑する気持ちで遺書を開きました。

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