第8話 突然の来客お姉さん

 ごめんねー。平成部屋に押し込んじゃって。

 急に後輩が、「話がある」って言ってきたんだよね。

 

 大丈夫? お風呂上がりでカゼを引いてない?

 平気だったらいいんだけど。


 今の子? この間話した後輩。

 男じゃないよ。違う違う。

 

 彼氏の話をしていたって? 

 

 ああうん。後輩ちゃんのね。


 あの子、もうすぐ結婚するの。大学生の頃から、付き合っていたんだって。


 で、退職するかどうか悩んでいて。仕事を放り出してしまうようで、後ろめたいんだって。せっかく仕事を覚えたばかりなのに、自分だけ幸せになるみたいで。

 もちろん、私は応援するつもりだよ。上司だもん。カバーはちゃんとするつもり。 

 働きながらでもできる仕事を回して、あとは結婚や出産の準備をすればって言っておいたよ。その間に、私も新人の指導をするつもり。

 


 あーでも、キミの靴を隠す余裕がなかったんだよね。

 あの子カンがいいから、もしかすると、キミの存在に気づいているかもね。


 にしても、結婚かー。うらやましい。

 

 それより、本当に熱はない? 顔が熱いんだけど。

 くっつきすぎだって?

 

 私? カレシなんて、いるわけないじゃーん。


 美人なのに、だなんて。ありがと。けど、私にはもったいない褒め言葉だよ。 

 こんなポンコツ、誰も好きになってくれないよー。ほんと、こんなポンコツ……。


 ふえ!?

 どどど、どうしたの、積極的じゃん。


 あー。キミも、意識しちゃったのか。

 後輩ちゃんの話を聞いて。

 で、まだフリーターみたいな生活をしていて、肩身が狭いと。

 就職浪人だもんね。

 いいじゃん、それでも。

 私にとっては、大切な人だよ。キミは。


 あ、電話だ。


 ああ。はい。依子よりこです。いつもお世話になっております。はい。元気にしていますよ。


 はい。キミのお母さんから。


(長い沈黙)


 なんていってた?


……え? きみ、もう帰るの?


 内定が決まったって、連絡があったと。


 そう、なんだ。


 じゃあ、さよならだね……。

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