第6話 思い出迷子お姉さん

 ありがとう。キミが来てくれたおかげで、すごく居心地がよくなったよ。


 次はいよいよ、最終スペースだね。この平成レトロ部屋を、整理していくよ。

 棚に入らないモノは、ドンドン手放していって、と。

 

(ダンボールに、物を詰める音)


 なんか断捨離系のテレビ番組とかみて研究してみたんだけどさ、案外キャリア系の人も家だとだらしないんだね?

 人のために尽くすから、自分のことがおろそかになるのかも、って? かもしれない。

 脳のキャパシティを、他人に持って行き過ぎなんだろうね。


 そうだ! アルバムあるんだよ。

 

 ほら、これがお父さん。若いねー。今より頭の面積が狭いよ。

 え、そんなこと言ったら可愛そうだろって? いやいや。あの人にとって娘からの罵倒はご褒美だから。


 見て。お母さんの過去!

 ギャルだったの! ギャルピだったんだって! 

 なんか、家の三面鏡にシールを剥がした跡があるなーって思っていたんだよね。後で聞いたら、お母さんは都会のギャルだったんだってさ。で、塾講師だったお父さんと一緒になって、田舎に住んでるんだって。


 ギャル衣装か。着てみようかな。

 私が地味子だったの、キミも知ってるよね。ギャルってあんまり印象的に相容れないって思っていたんだけど。


 着替えるから、待ってて。


 

 おまたせー。

 どーおぉ? ちょーギャルっぽくない?

 こんなすっごい短いスカート、穿いてたんだねえ。

……なんか、照れくさくなってきた。ダメだ! これダメだよ。染まっちゃう。いい歳して、ルーズソックスとか。これこそ、想いで迷子になりそう!


 私の制服、まだ入るかな?

 ちょっと気分転換に、学生時代に戻ってみるね。

 え? 片付けが先だって?

 まあまあ。少しの間だけ、思い出に浸らせてよ。


 どうかな? やっぱり腰回りはきつくなってたよ。でも着られてよかったぁ。久しぶりのセーラー服も、いいもんだねぇ。

 学生時代から、キミが私のことをずっと見てたの、気づいていたよ。

 そんなキミも、もう社会人だ。

 懐かしいなあ。


 よし。どうせ制服だって捨てるんだから、この格好のまま断捨離始めよう!

 あっ、待って。制服は取っておいて、結婚したらまた着てあげようか?

 作業しろ? そーですかー。つれないなあ。


 いえーい。終わったーっ。


(ハイタッチをする音)


 はあ。汗かいちゃったね。

 お風呂溜めてあるから、入ってきちゃいなよ。


 いいから。私は後から入るよ。


 

(あなたが入浴する音)



 湯加減、どお? 

 ちょっとチェックするねー。


(あなたが、湯船から飛び上がる音)

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