第4話 平成レトロなお姉さん

 え? 一部屋、取り扱いがし辛い場所があるって?


(フスマを開ける音) 

 

 あーここかー。


 田舎の部屋にあった思い入れの深いものを、ぜーんぶ持ってきたんだっけ。

 ぬいぐるみでしょ? ゲーム機でしょ? シールまで持ってきてるなんて。


 固定電話の横においてあるメモ用紙も、年季が入ったやつでしょ。

 あれが一番、書きやすいんだよね。

 

 いわゆる、「平成レトロ部屋」ってやつよ。いい感じでしょ? 大昔にタイムスリップした感じがして。

 見て見て。ガラケーも保管してるんだよね。パカパカって、開いたり閉じたりするの。

 パカパカするタイプのケータイなんて、知らないでしょ? ほら、パカパカしないタイプも置いてあるんだから。これね、うちの父が初めて買ったケータイなんだよ。それも置いてあるの。ストラップだって、そのまま。


 え? 今だと、二つ折りタイプのスマホもあるの? すごい。未来だね。


 

 こんな古いゲーム機なんて、世代だったかって?

 親から譲ってもらったんだよね。捨てるのもったいなくてさ。いつかやるかもしれないじゃん。


 まあ、最新ゲーム機からダウンロードできるゲームが大半なんだけど。

 今だったら、「ミニ」つって、昔のゲームを遊べる端末も出てきたよね。

 でもさ、当時のゲーム機じゃないと出ない臨場感ってあるよね! 操作の感覚とか。

 ミニのシリーズって、コントローラーもミニサイズだったりするじゃん? 手に馴染むけど、小さすぎて扱いづらくってさ。

 で結局、ずっと持ったままになるという。



 うん。売ったりはしないかな? ムダだったなーって時間も、大切じゃん? 生きていく上ではさあ。ベストなソフトだけ遊んでるってのは、きっとダメなんだよ。クソゲーだろうとムリゲーだろうと、遊んでみたら案外生きるヒントが見つかったりするんだから。そうそう。「捨てる神あれば拾う神あり」っていうじゃん?

 捨てられないだけだろって? それを言っちゃあ、おしめえよ。


 じゃあ、久々に遊んでみようか?


 このカードゲームだったらわかるでしょ? ねえ? すごいよね! 当時のグラフィックって、こんなだったんだよ。懐かしいなぁ。


 今みたいになめらかじゃないから、慣性の法則が重要! 慣性のっ、法則、がっ!


 いえーい。勝ちましたー。

 なんだよ。「手を抜いてあげたのに、勝ち誇ってやんの」って顔はー?

 負け惜しみを言うなら、もう一戦してあげようか?


 あっ、電話だ。

 もしもし? 

 って違うわ! ガラケーの方を持っちゃった。

 カバンカバン。カバンカバンー……。


 


 あ、はい。もしもし。

 そのプランは、あなたに一任したはずです。自信を持って挑みなさい。

 ええそう。そう。

 ダメよ。そんな弱気は。先方に舐められるわ。

 全力で取り掛かったプランなのよ。勇気を持ってプレゼンしなさい。私は、あなたの背中を押すだけ。困ったときは相談に乗るし、ヘマをしたらサポートもできる。でも、なるべく自身で解決なさい。

 たしかにムリゲーかもしれないわ。でも、そこからヒントが得られるはず。捨てる神あれば拾う神あり、って言うでしょ?

 だから、当たって砕けちゃいな。

 あなたならできるわ。それじゃあ。



 

 あはは。ごめんね。かっこいいこと言っておいて、実生活こんなだもんね。

 うん。会社の後輩ちゃん。ちょっと自己肯定感が低くてさ。


 おっ? かっこよかった? 仕事してる依子よりこお姉さんは?


 惚れ直してもいいんだぞ。


 遠い目すんなや。

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