第4話 こじらせコミュ症、好奇心は猫野をも殺す

 体育の時間中に外周をしていると、散歩中のワンコとすれ違う。

 ワンワンワンワオーン!

「あの子……この間私の服を引きちぎって勝利の遠吠えしたワンコですか?」

「さあ、黒くてふわふわで似てるけど。違うんじゃないかしら?」

「そうですよね、あんな狂暴なワンコに引き取り手が現れるわけがないですもんね!」

「……柊さん、まだ根に持ってるの?」

 でも、あの遠吠えやっぱり聞き覚えがある気がする……。

「ふい~、疲れましたぁ……」

 学校で飼育している鶏小屋の飼育当番がぶちあたり、無数の鶏に卵泥棒だと追いかけまわされながらも掃除を終えて帰路に就いた。

 猫野さんは掃除が終わるまで待つと言っていたが、悪いので先に帰らせておいた。

 だから、今日は寄り道だ。

「それでですね、猫野さんと知り合ってからは毎日猫野さんにからかわれるわ、動物がめちゃくちゃ襲ってきたりなんだりしてくるわ……。大変なんです」

 ニャーオン?

「そうなんですよ! もうやんなっちゃいますよ。でも、まあこんな私の傍にいてくれるので、なんだかんだ憎めないんですけどね……はー、ノラちゃんの肉球ぷにぷにして癒されます~」

 ニャアン!

「あ、ちょ、ノラちゃん! ……またどこか行ちゃったです。はぁ、結局通じ合っていると思っているのはこちらだけなのかも……。好き好き言ってる猫野さんだって本当は……猫野さんって何者なんでしょう? 私猫野さんのことほとんど何も知らない気がします……」

 猫野さん。 

 成績優秀。運動神経抜群。スタイルよし、性格は悪戯好き。で、からかうのが生き甲斐。最近わかったことはワンコが苦手。

 思い返せば、たった二行くらいしか私は彼女の事を知らない。

 家族は? 交友関係は? 好きなこと、食べ物、飲み物は? 

 友達は本当に私だけ? 

 そもそも私は猫野さんの友達なの?

「…………え? え?」

 考えれば考える程わからなくなって怖くなる。

 どうして猫野さんは私の傍に? 友達って理由もなく傍にいるものなの? 

 私はどこ、ここは誰……?

 カー!!

 思考の迷宮に落ちて精神崩壊する寸前の私を救ったのは宿敵であるカラスだった。

「な、なんだカラスですか……びっくりさせないでください! きょ、今日のところは勘弁してやりますです!」

 ガアガア!!

 勘弁してやるのはこっちだ!! と言われているような気がした。

 翌日。

「なに? 今日はやけにこっちを見てくるのね柊さん? あ、もしかして恋かしら?」

 ジーッと見ていたら気づかれた。

「……違います」

「それならなんで? 悩みがあるならお姉さんに話していいのよ?」

「ぐっ……その無駄に大きなものを私おしつけないでください。ナチュラルに抱き着かないでください!」

「ふふ、喜ぶと思ったのだけれど」

「私は女の子です」

「あら、女の子でも女の子が好きな子はいるわよ? こ・こ・に・ね?」

「わ、私はノーマルですので!」

 おいそこのバカップルー、うるさいぞ~廊下に出てるか?

 キーンコーンカーンコーン。

 カー、カー……。

「バカップルって言われました。しかも先生から……勉強だけは真面目にやってきたつもりでしたのに……」

「放課後になったのにまだ言ってるの? 別にいいじゃないバカップルで」

「良くないです! 一体いつから私と猫野さんはそ、そういう関係に見られて」

 そういう関係=彼氏彼女的な関係。

「気づいてなかったの? 最初っからよ?」

「……嘘、ですよね?」

「ああ、最初っからって言うのは語弊があるわね。私が柊さんに付きまとい始めて数日かしら。私たちは学校公認カップルになったわ。クラスどころか全校生徒が私達をそっとしておいてくれているのよ? 優しい人達ばかりね」

「ま、まさか……そのせいで私は友達ができないんですか!?」

 つまり全校生徒に腫物扱いされてるって、こと!?

「それは休み時間になるたびに嘘寝したり、読書したりして『話しかけてこないで! でも友達は欲しい~』ってオーラ出して周りをちらちら伺っている柊さんのせいね。まあ、私は気にせずガンガン話かけるけど。柊さんの困った表情がたまらないのよねぇ。うふふ……」

 私に友達ができない理由が今わかった。

 猫野さんに付きまとわれて、周りの目が気になってコミュ症が加速してるからだ。

 絶対そうだ、そうに違いない。

「や、やっぱりこのまま猫野さんの生態を知らずに接するのは危険です!」

 早急に手を打たなければならない。

 既に私は学校中から百合っ娘だと勘違いされているアフターフェスティバル状態。

「なぁに? それはつまり、私ともっと親密な関係になりたいの柊さん? ふふ、それなら……そろそろ結婚しちゃう?」

「はっ!? そうだ、絶交です! 明日から距離を置かせてください!!」

 灯台は明るければ明るいほど足元が見えづらい。

 猫野さんのことを知るならば少し離れたところから観察するくらいでないと意味がない。

 絶交は言葉の弾みでつい……出てしまった。

「…………」

「あれ猫野さん? もしもーし? あ、あの……絶交は言葉の綾と言いますか……」

「……」

「し、死んでる!」

 猫野さんは立ったまま気絶していた。

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