第3話 ワンコとコミュ症と仕返し

 ということで、休日。

「お待たせ。待ったかしら柊さん?」

「ううん、今来たところです猫野さん」

「それにしても……柊さんの方から私をデートに誘うなんてどういう風の吹き回しかしら? しかも休日のショッピングモールって。柊さん人が苦手でしょう?」

「し、失礼な。いつ私が人が苦手って言いましたか?」

「教室ではいつも一人ぼっちじゃなかったかしら」

「それは別に好きで一人でいる訳じゃ……。なんですか? なんでにやにやしてるんですか!!」

「なんでもないわよ? ふふふふ」

 猫野さんは全部わかっていると言わんばかり。

 いつも通りからかわれているわけだ。

 でも今日は、負けない!

「ふっふっふ、楽しい一日になりそうです!」

「柊さん悪い顔ね~。せっかくショッピングモールに来たんだし、とりあえず最初はお洋服でも見に行きましょうか?」

「え?  あ、あのあの? い、一応私デートプランを考えてきたんですが……」

 最初は油断させるために喫茶店で他愛もないお話をして、それからちょっと本屋で立ち読み。で、クレープ屋さんとか、アイスクリーム屋さんに寄って、最後はペットショップに連れてってワンコと猫野さんを対面させるというのが私の完璧な仕返しプランだ。

「そうなの? でも、可愛い我が子には旅をさせろって言うじゃない? だから無計画に思いついたところから回っていくのもいいと思うわ」

「だ、誰が可愛い我が子ですか! そうやってまたからかって!!」

「あら、よくからかってるのがわかったわね? よしよし~」

「あ、頭を撫でないでください! み、みんな見てますし、恥ずかしいです……」

 これじゃあ本当に子どもみたいだ。

「じゃあ、早くお店に入りましょっか! れっつごーよ!」

「わ、私の完璧な仕返しプランが台無しに……」

 いらっしゃいませ~。どのようなお洋服をお探しですか?

「え、あ、あ、あ、あの……その……た、たた」

 コミュ症な私には店員さんの笑顔はまぶしすぎる。

「高くなくてそこそこ可愛くて、着心地のいい服ってあります?」

 あ、それでしたら今女子高生に人気なこういうお洋服が。少々お待ちください~。

「……な、なんで私が言おうとしたことがわかったのですか?」

「それは勿論、柊さんの表情とかしぐさで全部丸わかりって言うべきかしらね~? 私は柊さんのことが大好きだから」

「よくこんなあけっぴろげな場所でそんなことを、い、言えますね?」

「……愛、かしらね?」

 そうこうしているうちに店員さんが戻ってきた。

 こちらのお洋服などいかがでしょうか? 値段もお手頃ですし、袖のフリフリが可愛いでしょう? 初夏のお出かけにはきっとぴったりだと思いますよ~。

「あ、私が着るんじゃなくて、こっちの子で」

 え? そちらのお子様のお洋服をお探しで??

「ぷっ! そ、そうです。えっとぉ、その服の子供用サイズってありますか? ふふっ」

「こ、子供じゃないもん! 高校生だもん! 間違えないでください!!」

 し、失礼いたしました! サイズを確認してまいりますので、少々お待ちを!!

「うく、うくふふふふ!」

「笑わないでください!!」

 もう頭に来た! 

 プランなんて関係ない。 

 さっさとペットショップに連れてってやるんだから!

「ちょっと~、柊さん? 悪かったからどんどん進まないで? 迷子になっちゃうわよ」

「しゃらっぷ! 私が迷子になったらなったで笑った罰です! その時は一生懸命探すがいいです! そんなことより到着です!」

「到着って、ここは……」

 猫野さんの声が若干上ずった。それだけで私の口元は緩みそうになる。

 このペットショップは県内で唯一動物との触れ合いができる大型ケージが設置されている上に、ペットショップ自体が様々な犬種のワンコを数多く取り揃えている。

 いわばイヌ派の楽園。

 さあ、今まで私をからかった報いをうけて猫野さん!

 ワンワン! ワンワンキャン! ワオーン!

 人懐っこいワンコ達がケージ内から遊んで!とお誘い吠え。

「えっと……私そこのベンチで一休みしてるから、柊さん存分に触れ合ってきていいわよ?」

「ええ!? せっかく猫野さんが喜ぶと思って、デートプランを練ったのにぃ……残念ですぅ」

 大げさにため息をついてみせると、猫野さんは何かを察したようだ。

「柊さん何か企んでいると思ったら……読めたわ。デートは囮、本命は私の苦手な犬畜生共と私を引き合わせること……くっ、柊さんどうしてこんな悪い子になってしまったの!」

「はん! 今更です! いつも振り回される私の怒りを思い知るがいいです! さあ、猫野さん! そこにふわっふわな黒い毛並みで小さなワンコがいますよね? この子を抱っこしてみてください!!」

 キャンキャン! ワン! 

 ガブッ!!

「ああ! こ、この子! 私の買ったばかりのお洋服にかみつきました!! は、はな、離してください!! ちょっと! 裾がちぎれちゃいます! ふりふりがぁ! ダメ! め!!」

 ウルルルル!!

「唸り声をあげてもダメなものはダメなんです! やめてください! やめ……うわあああん! 猫野さんたしゅけてぇええ! 新品のお洋服がちぎれちゃいますぅうう!」

「こ、こら! ワンコ! ダメでしょ! しっし! 柊さんを泣かせていいのは私だけなのよ! あっち! あっちいって!!」

 びりぃいいい!

「ああ!! ……や、破けちゃった」

「ごめんなさいね、犬が苦手でなければこんなことには……」

 本気で申し訳なさそうな猫野さんに、なんだかこっちが申し訳なくなってくる。

「……いえ、きっとこれは罰なんです。仕返しなんて愚かなことを考えた私への罰……あのワンコちゃんは私にそれを教えてくれたに違いありません」

 ワオーン!!

「っ!? 柊さん……あの黒いワンコさん、柊さんのことクソ雑魚人間って言ってるわ!」

「許しません! 許しませんよワンコ!!」

「柊さん落ち着いて!」

「いつか! いつか絶対復讐してやります!! それまで売れ残っているがいいですワンコぉおお!!」

 どうしましたか!? なにかありましたか!!

 監視員さんが今更やってくるが、私は猫野さんに引きずられるようにしてその場を後にした。

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