第2話 コミュ症と癒し猫
今朝はひどい目にあった。
「うう、いない? いないですか?」
校門を出る前に周囲を確認。
「右よし、左よし……電線よし、地面よし……オールクリア!」
カラスはいなかった。
私はおっかなびっくりそそくさと電信柱の影に隠れながら帰路に。
こんな日に限って、猫野さんは用事があるとかで先に帰ってしまった。
帰宅部故に本来なら即座に家路に着けたはずが、日直という強制労働システムに拘束された私は、黒板の上の板書が消せず帰りが遅くなってしまったのだ。
「ふっふっふ、カラスがいなければこっちのものです! 今日はゆっくり、本屋にでも寄り道しながら家に」
宿敵さえいなければ段々と、いつも通りの独り言が増えていくわけで……。
カー、カー。
「ひっ! ど、どどど、どこに!? 奴はどこにいるですか!? ああああ! な、なにかもさもさするものが足……に」
ニャオ?
頭上を警戒していた私の足元に、一匹の毛並みのいい白猫がすり寄っていた。
「にゃんこ!! しかもこの子は最近見なくなってたノラちゃんじゃないですか!! どうしたんでしゅか~? 足のケガは治りまちたか~??」
ニャーン!!
ゴロゴロゴロとのどを鳴らす白猫は数か月前に私が保護して数日間お世話をした野良猫のノラだった。両親に飼いたいと頼み込んだけどダメで、せめてケガが良くなるまで保護させてとわがままを言ったのは良い思い出だ。
ニャフ。
「あ、ノラちゃん! そんな細路地に入って行っちゃったら私がついていけないですよ? 待ってくだちゃい? おいでー? ほら、ちっちっちー」
「何してるのかしら~?」
「ひゃおふぁああああああああ!!??」
振り返ると、そこには猫野さんがによによと悪戯な笑みを浮かべていた。
「な、なんだぁ、猫野さんですかぁ……」
「どうしたんでちゅか~? 待ってくだちゃーい、ちっちっちー……でしたっけ?」
「ッ!? あ、あのあのあの? も、もしかして聞いて……」
「ええ、そりゃ最初から最後までばっちり聞いてたわふふふ、スマホに録音もしといたの。聞く?」
「いやぁああああ! ダメですぅううう! 消して! 消してぇええ!」
「うふふふふ! ほーら、届くかな~? 届いたら消してあげまちゅよー?」
「うわぁあああああん馬鹿にしてるぅ! 猫野さんの意地悪ぅうううう!! 嫌いです、嫌い嫌いキライ!!」
「ごめんね、冗談よ。ほら、スマホ見て? 写真残ってないでしょ??」
「うぅ、ちゃんと外部ストレージも見せてください」
「あら、案外しっかりしてるのね柊さん」
案の定、外部ストレージフォルダに、録音データが残っていた。
「……消してください!」
「うふふふ、それは聞けない相談ね~」
「き、嫌いになりますよ!」
「私は柊さんのこと大好きよ?」
「そ、そういう不意打ちは卑怯でひゃあああああ!? あ、足に何かが!! 猫野さん足元見て! 見てください!!」
ニャーン。
「あら? 茶トラ猫ね。お前も柊さんのことが好きなのかしら?」
ニャン!
「だって! 良かったわね~柊さん」
「良かったです!」
「……うふふ、良かったの?」
「はっ!? 猫ちゃんに好かれるのはいいですけど、猫野さんにからかわれるのは良くないです!!」
私はがるるると唸った。
親戚が飼っている小型犬に近い唸り声が出た。
「ひっ……柊さん、あんまり女の子がそういう声は……」
猫野さんはいつもより声が上ずっている。
「…………もしかしてワンコが苦手なんですか猫野さん?」
「そ、そそ、そんなこと!」
どうやら当たりみたいだ。
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