第6話 試練の洞窟1

ザッザッ。


ジャイノスとの決闘から3日後。

俺は試練の洞窟までやってきていた。


地図を見ながら歩いてきた。

たしか


「山を2つ超えたとこにある小さな洞窟がそうだったよな」


となると、足を止めて俺は目の前に開いていた穴に目をやった。


「これだな。超えた山はひとつな気がするけど俺が勘違いしたかな」


山歩きなんてしたことがないけどたぶん山をふたつ超えたんだと思う。


それからシーナに目を向けた。


「悪いなシーナ。付き合わせてさ」


一応シーナに謝っておく。


「守りはするけどさ、ここからは命をかけることになるから。ごめんな」


誇張したかもしれないけど、一応モンスターとの戦闘もある以上覚悟はしておいてもらう。


「私はレイナス様と死ねるなら本望です」


ボケーッとした顔でそう言ってくるシーナ。


(冗談だよな?イマイチ感情が読みにくいけど、さすがに冗談だと思う。うん)


自分に言い聞かせるように頷いてから俺は試練の洞窟に目を向けた。


入口を見て俺は口を開いた。


「んじゃ、中行こっか」


中は少し薄暗くて入るとひんやりしていた。


「ちょっと寒いな。防寒具でも持ってきたらよかったかも。っていうか父さんも必要なアイテムくらい言ってくれたらいいのにな」


初めて向かう場所なのに必要なものを何も言わないなんてな。


防寒具くらい持っていけくらい言って欲しかったな。


「そうですね。ちょっと寒いです」


シーナも寒そうなので俺はアイテムポーチを漁った。


なにかで使えると思って木の棒を持ってきていた。


「ふぅ、持ってきててよかったな」


木の枝を手に持ってみたが。


「火はどうします?」

「えっ?」


俺はシーナの顔を見た。


「えーっと、シーナは【ファイア】を使えたりは?」

「しません」


俺のリサーチ不足だったか。


あらかじめ知っていたら対策を用意したんだが、仕方ないな。


俺はダンジョンの横の壁を見た。


そして触ってみた。


なんていうんだろう。

カサッとしてるような感じ。


「うん、乾いてるな。湿っていたりするわけじゃなさそうだ」

「乾いてたらなにかいいことがあるんですか?」

「できるか分かんないし、まぁ見ててよ」


俺はそう言って木の棒の側面を壁に当てて。

そのまま。


「おぉぉぉぉらぁぁぁぁぁっ!!!!!」


ズアッ!


思いっきり横にスライドさせたが、


失敗した。


「もういっちょ!」


ズアッ!

振り抜くと。


ポッ。


火がついた。


それを見たシーナが口を開く。


「す、すごい、な、なんで火が?なんで火がついたんですか?!わーすご!ほんとにすごいです!」


目を見開いて興奮したような様子で聞いてくるシーナに答える。


「摩擦熱ってやつさ」

「あっ、聞いたことがあります!でもそれで火がつくんですねぇ、やっぱりレイナス様はすごいです!」


聞いたことあるならこれ以上の説明はいいか。


俺はそう思いながら歩く速度を早めた。


下へ、下へと降りていく。


そうして下に降りているとだんだん雰囲気が重くなってきた。


(序盤も序盤のはずなんだが……こういうのってメタ的に考えたら最初の方に訪れるダンジョンって簡単なとこじゃないの?)


すごい陳腐な表現だけど。

このダンジョンはやばそうな気配がしてる。


ここに来るにあたってこれはしてこいという目標を言い渡されている。


それは


『赤い果実があるからそれを持ってこい』


というものだった。


(とてもじゃないがチートもスキルも持たない俺にはこのダンジョンは無理かもしれない。さっさと目標を済ませて帰ってしまおう)


本当は経験値を稼いだりすべきなんだろうけど、俺には無理な気がしてきた。


弱気になりながら進んでいると


ズゥン。

ズゥン。


やけに耳に響く足音が聞こえてきたので慌てて岩陰に姿を隠して、覗き見た。



名前:ミノタウロス・レジェンド

レベル:985



「……やべぇのいるな」


小さく呟いていた。


「大丈夫ですよレイナス様なら負けません」


そう言ってくれるシーナの言葉は心強かったけど


「さすがにあれは無視するよ。いくらなんでも勝てない」


ゲーム用語で言うならスルー推奨敵というやつだろう。

俺がチートを持ってればそんなやつでも楽々突破出来るんだろうけど、俺にはチートがないからな。


そうして更にダンジョンを進んでいると


「なんだこの部屋」


扉があった。


「寄り道してみるか」


試練の洞窟は基本的に一本道らしい。

だからこんな部屋があっても普通は入らなくていいんだけど、せっかくだから中を覗いてみることにした。


扉を開けて中に入るとそこは小さな部屋だった。


そして真ん中には宝箱。


「なるほど。宝箱部屋か」

「宝箱っ!はやくあけましょう!」


走っていこうとするシーナの手を取って止めた。


「待ってよシーナ」

「宝箱が目の前にあるんですよ」


そう言っている彼女に俺はこう言った。


「ミミックかもしれない。慎重に行こう」

「ミミック?」


いろいろと知っているシーナだがミミックだけは聞き慣れないらしい。


「まぁ、見ててよ。ミミックじゃないことは祈るけどね」


俺はそう言いながらナイフを構えて近寄っていく。


ミミックにも個体差がある。

レベルやステータスなどは個体によって変わってきたりする。


だがミミックには共通するものがあった。


それは


【弱点を突けば一発で倒せるということ】


俺は慎重に近付く。

いつでも最短ルートで弱点を攻撃できるようにジリジリと近付いていく。


(ミミックが敵に反応する距離は1メートル。これがミミックの射程距離)


3,2。


距離を詰めていき


(1メートル)


ガバァッ!


宝箱が口を開けた。


そして飛びかかってくる瞬間に見えたのは



名前:ミミック

レベル:325



とんでもないレベルのミミックだったが


(やれることをやるだけだ!)


俺がやることは弱点を叩く!

それだけ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る