第5話 ジャイノスの推薦は消えるシーナ視点

シーナ視点


(レイナス様が勝ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)


親睦会の決闘についてはいろいろと話を聞かされていたけど結果についてはジャイノスの勝利で終わるのが濃厚って言われてたのに。


(さすが!私のレイナス様!レイナス様が負けるわけないんですよね!信じてました!やっぱり私のレイナス様は素敵なんですね!)


でそんな気分のまま私は仕事に戻ることにしました。


少し油断したらレイナス様のかっこい〜勝ち姿を思い出してしまいそうになるけど首を振ってその想像を消す!


でも、そうしても別の光景が脳裏をよぎる。


そのせいで仕事中だと言うのに高鳴る鼓動を止められなかった。


『耳栓を貸してくれる?』


ご主人のレイナス様にそう言われて私の胸は爆発しそうなほど高鳴っていた。


「はうぅ……やばい……こんなことだめなのに」


メイドはあくまでメイド。

主人に尽くすだけのメイド。


メイドは主人を愛してはならない。

そう言い聞かされた。


だからいくらレイナス様が好きでも気持ちを押さえ込んできたはずだったのに。


(耳栓貸しちゃった)


本来メイドというのは高貴ではない者がする職務である。

なので私も高貴なわけではかい。


なので、貴族の人はほとんどがメイドの私物を好き好んで触ったりしない。

それがメイドが使った後の耳栓ともなれば触る人間なんていないだろう。


でも


(レイナス様が私の耳栓(使用済み)を受け取ってくれた……)


これが意味することはつまり


(レイナス様は私のことが好き……ってこと?)


だ、だめよ!シーナ!


レイナス様は高貴なる人!

私みたいな一般人が好きになっていい相手ではない!

例え耳と耳で関節キスしたとしてもだめなの!


そう。


つまり。


ニヤついてはいけない。

でも今回ばかりはニヤついてしまいそうだが、私は堪える。


そしていつものような表情をする。


(ボケーッ)


ボケーッと何も考えないでいるのは楽だ。


だって、レイナス様のことを思って頬が緩んだりもしにくいのだから!


だから私は今日もボケーッとする。


でも、仕事は最低限しておこう。


(レイナス様のパンツを嗅ぎに……間違えた!レイナス様の選択したパンツを回収しにいかないと!)


メイドの仕事はボケーッとしていてもちゃんとやるのです!



Sideパパイヤ


「まさかジャイノスくんが負けるとは」


パパイヤの言葉に続く言葉があった。


「本当にだ。ジャイノスには失望した」


ジャイノスの父上……ジャイパだった。


この場で正座させられていたジャイノスの表情は暗かった。

当然のことだろう。

ジャイノスは人々の期待に応えられなかった。


これで居心地がいいことなどあるわけがない。


「すみませんでした」


ジャイノスはジャイパに謝っていた。


「まったくだよジャイノス。私の期待を裏切りおって。しかしレイナスくんはおもしろいものを見せてくれましたな。パパイヤ殿」

「えぇ。たしかにそうですね。レイナスは期待以上の成果を残した。というより誰もが予想していなかった結果を、ね」


この場にいる誰もがレイナスの勝利を予想していなかったことについては理由がある。


これは本来であれば出来レースだったからだ。


"ジャイノスが勝つ、という出来レース"


だからこの場にいるジャイノス以外は内心動揺している。


もっとも表には動揺している様子など出さないが。


「しかしジャイパ殿。ジャイノスくんが挑むはずだった【試練の洞窟】はどうなさるつもりですか?」

「それについてだがレイナスくんに行かせてはどうかね。うちのジャイノスはこのように失態を犯したからな」

「しかし、それではジャイパ殿の功績は……」


功績……それは貴族が貴族であるために必要なもの。活躍。


貴族は国に対して功績を残さなければならない。


しかし功績さえ残せば貴族を続けられる。

そういうシステムだ。


そしてパパイヤの功績に関してはレイナスの兄であるハインツが残している。

故に今回はジャイノスに功績を挙げさせるというのが原作の流れだったのだが……レイナスのせいでその流れは大きく変わってしまっていた。


つまりこれはジャイパの身すら危うい状態なのだが、そんな状況ですら笑っているジャイパ。


「功績に関してはまた後ほど、どこかであげればいい」


ギロッ。

ジャイノスに目をやる。


「できるよな?ジャイノス。お前は貴族の息子だ。功績をあげなければならない。それは分かっているよな?」

「わ、分かってるぜとーちゃん」

「ならいい」


過ぎ去ったことをいつまでも蒸し返すような男ではなかった。


しかし、ジャイパのジャイノスを見る目は厳しいままだった。


「ジャイノスお前に用はもうないぞ」

「で、でもとーちゃん」

「出て行けといってる。少しでも訓練してレイナスくんに追いつこうという気はないのか?喧嘩ばかりするせいで頭の回転が鈍いのかね?」

「わ、分かったよ」


ジャイノスは部屋を出ていった。


残されたふたりの話題は静かにレイナスへと移っていく。


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