第2話 現役騎士のお兄ちゃん

ジャイノスに渡された果たし状に目を通した。


必要な部分だけ読んで部屋の中に投げ捨てた。


まぁ一般的な果たし状と言われるようなものと中身は同じだった。


ただ違うところがあるとすれば


(本番で使う武器は真剣か、模擬刀か選べる、というところか。それと使用する武器の持ち込みはOK、か)


それと、


(屋内か屋外か選べる、ということか)


そんなことを思いながら庭の噴水のフチに座ってると声をかけられた。


「やぁ、レイナス」


そちらを向くとレイナスの兄貴が立っていた。

いわゆるスネ〇兄さんのポジションだが。


俺の兄というだけあって美形だ。


「こんにちは、ハインツ兄さん」

「【親睦会】で戦うらしいね」

「うん」

「僕が鍛えてあげるよ。現役の騎士の僕がね。知ってるだろう?【最強騎士】ハインツの噂は」


そう言うと兄さんは少し離れて剣を抜いた。


(とは、言われましても)


俺がとまどっていると兄さんは、手に持っていた長細い箱を渡してくる。


「そうだ。これはレイナスが【親睦会】に行くってことで用意したプレゼントなんだ。模擬刀で出るだろうけど、本物もいずれ必要になるだろうしさ」

「あ、ありがとうございます兄さん」


とりあえず開けてみることにした。


中に入っていたのは、新品の本物の剣だった。


で、ハインツ兄さんは穏やかに笑いながらこう言った。


「手加減するからさ。抜いてみてよ」

「う、うん」


シュッ。


見よう見まねで剣を抜いてみた。

自分の顔が反射して映るくらいピカピカの刀身。

まるで鏡みたいだった。


「本物だけど、一応贈り物だからね。いわゆる儀式で使うような代物にしておいたよ。だから自分の顔が映るんだよ」


(なるほど)


それで見よう見まねで構えてみたのだけど。


今はちょうど正午くらいだろう。

そのため真上で太陽がすごく光っていて眩しい。


だからだろう。


キラッ。

剣に少し反射して眩しかった。


(待てよ)


これをこうして。


俺は剣の角度を少しずつズラしていく。


すると。


ビカッ!


太陽の光が剣の等身に反射して俺の目に飛び込んできた。


思わず目をそらす。


(これだ)


一気に勝算が出てきた。


俺は兄さんと向かい合って口を開いた。

その前に1つ確認してみよう。


「兄さん、一週間後の親睦会は晴れるかな?」

「え?うん。晴れると思うよ。でもそれがどうかした?」


ハインツ兄さんの質問には答えないでおく。

俺が今質問したことの意味はすぐにわかると思う。


剣を握ったことなんてない、振ったこともない。


でも今の俺は勝てるような気がした。


そのときシーナがやってきた。


「ハインツ様。お分かりだと思いますがお加減なさってくださいね?現役の騎士様とレイナス様とではあまりにレベル差がありすぎますから」

「はは、分かってるよ」


次に俺の顔を見てこう言ってきたハインツ兄さん。


「僕の鎧に剣を当てることが出来たらレイナスの勝ち。ま、レイナスには僕をこの場から動かすのも無理だと思うけど」


俺はシーナに目を向けた。


「シーナが開始の合図を頼む」

「はい。では、よーいどん」


気の抜けたような合図で戦いは始まる。


「さぁ、来なよ」


隙がないように構えるハインツ兄さんに向かっていく。


タッタッタッ。


(勝負は一瞬で決める)


この作戦は長引けば長引くほど俺が不利になる。


だから、最初の1回で全力を出す。


距離が5メートルくらいになったところで俺は剣の角度を変えた。


ビカッ!


太陽の光が剣の刀身に反射して……


ハインツ兄さんの目に光が飛んでいく。


「なっ……!」


思わず顔を逸らしたハインツ兄さん。


(ここだ)


ブン!


俺は剣を振りかぶってぶん投げた。


全力で。


勝利条件は


【鎧に剣を当てる】


だ。


当て方は問われてない。

つまりぶん投げて当てても、勝ちだ。


ぶん投げた直後にハインツ兄さんは顔を戻した。


「な、なんだ!今のは!魔法【フラッシュ】か?!」


ハインツ兄さんは迫り来る剣に目を戻した。


ギョッとしたような顔をしていた。


そして。


コツン。


俺の剣はハインツ兄さんの鎧に届いた。


(児戯にでも本気を出す。それはこういうことさハインツ兄さん。例えお遊びでも手は抜かない)


カランカラン。


ハインツ兄さんに当たった剣が落ちた。


「……」


ハインツ兄さんはなにかおそろしいものを見るような目で剣を見ていた。


「は、ハインツ様が」


いつもボーッとしてるようなシーナも目を見開いていた。


それだけ今起きたことが理解できないんだろう。

ハインツ兄さんは歯を食いしばりながらシーナの目を見た。


「そこのメイド。ジャッジを」

「で、ですが。ここでジャッジしてしまっては」

「負けは負けだ。僕の負けだぁぁぁあぁあっ!」


潔い宣言にシーナは頷いてこう言った。


「しょ、勝者レイナス様」


そのジャッジを聞きながら思った。


(この作戦は使えるな。これを使えばジャイノスにも勝てる)


たまたま閃いたことだったけど。


なかなかいい作戦を思いついたかもしれない。


俺がそう思ってるとハインツ兄さんが聞いてきた。


「なぁ、聞かせてくれないか?レイナス。今のはなんなんだ?悪いが納得できないぞ。魔法ではないよな?魔法を使った兆候は見えなかったし、そもそも僕の鎧は半魔法素材で作られてる。【フラッシュ】程度なら防げるからな」


そう言われて俺はさっきもやったように剣を少し傾けた。


その様子を見てハインツ兄さんは首をひねった。


「そういえばさきほどからカチャカチャと角度をいじっていたね。それになんの意味が?」


俺は剣をかたむけて角度を調整すると家の壁に太陽の光を集めて照らしてみせた。


「これは【反射】という現象だよ兄さん」

「反射?」


やはり知らないらしい。

日本では義務教育だったけど、この世界では認知度が低いのかもしれない。


だがシーナは反応した。


「反射……聞いたことがあります。反射を知っているのですか?レイナス様」

「な、なんだなんだ?君は反射というものを知っているのか?それは【魔法】なのか?!」

「魔法ではありませんけど、反射というのは現在魔法学園のエリートたちが研究している現象ですよ」

「なっ!そんなエリートたちが研究している現象をレイナスが知っているのか?!」


なんだか大変なことになってきたな。


俺は適当に口にすることにした。


「あっ、いや。かなり前に読んだ本に載ってたんだ」


そう答えるとハインツ兄さんはニンマリ笑ってシーナにこう言っていた。


「レイナスはすごいぞ!天才だ!今度魔法学園に推薦してみよう!すごいぞこの子は!なっ!君もそう思うよな?!」

「はい。レイナス様ならばきっと魔法学園で首席にもなるでしょう」


すごいな異世界。

日本での一般常識と思われるものでここまで評価されてしまうなんて。


これが文明レベルの違い、というものなんだろうか。


このあと俺は兄さんに剣を教えてもらうことにした。


さて、1週間。

ちゃんと教えてもらうことにしよう。


強くなるのに必要なことは妥協しない。

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