第11話 領主一族が登場しましたわ!!!
ゴールウェイ辺境伯軍総帥ランベルト=ランチェスターの目の前には、三人の人物が並んでいた。
上半身を衆目に曝け出した黒髪の次期辺境伯ギルバート=ゴールウェイ。
その隣には、満面の笑みの金髪の二十一歳、キャロライン=キャンベル。
さらにその隣にいる、巨大なクマの着ぐるみを着た何者かである。
……何者?
「ようこそ……お越しください、ました……」
そこから二の句が継げないランベルトに、次期辺境伯は構わない様子だ。
というか、次期辺境伯は、目の前の光景に口を開け、宇宙を背負ったような顔で固まっている。
改めて、ランドルフは背後を振り返った。
そこには、辺境伯ゴードン一押しの黒革の制服を纏い、赤いマントを着用し、腰に光る水袋をはめた、逆三角形のサングラスをかけた筋肉隆々の男達が勢ぞろいしている。
(あっ、異様だ)
総帥ランベルトは、素直にそう思った。
この五年で目が慣れてしまっていたけれども、やはりこの光景は異様だ。日常からかけ離れている。間違いなく、領主に寵愛される黒赤の悪魔達だ。民が不安になるのも無理はない光景である。
ランドルフが遠い目をしていると、金髪の新妻キャロラインが口を開いた。
「旦那様、これ、どう思いますの?」
「か、かっこいい……」
「だまらっしゃい」
ずばーーーん!!!
という、服が裂けるような音と共に、クマのぬいぐるみの上半身が吹き飛んだ。
吹き飛んだ跡地には、筋肉隆々、こげ茶色の髪に青い瞳の、ゴードン=ゴールウェイ辺境伯その人がいた。
その上半身の衣服はクマの着ぐるみと共に吹き飛ばされたのだろうか。
胸筋も乳首も丸出しのその姿、下半身クマ着ぐるみというギャップが恐ろしい領主の登場に、今度は辺境伯軍兵士達全員が、宇宙を背負ったような顔になっている。
「おま、おま、お前!!! 体から5センチ以上離さないと透過するんだぞ、せっかく透けない服(?)を見つけたのに!!!!」
「あら、破廉恥様。下側もいらないってことですの?」
「破廉恥っていうのは俺じゃなくてお前のことをいう単語じゃないか!!!!?」
「叔父上、もう諦めろよ。あまり騒ぐと、
「お前も他人事みたいに言うなこの上半身さらし者が!!!」
「ブーメランで大量出血している叔父上はもう見たくないんだ……!」
何やら騒がしい領主一族に、黒赤の悪魔達はオロオロするばかりで動けない。
一方、新妻キャロラインは、叔父甥コンビの上半身にうっとりと頬を赤くしている。
その隣では、侍女長サブリナが、キャロラインに日が当たらないよう、巨大
なお、その光景を、キャロライン達の背後から見ていた爆弾魔達(偽装)は、思った。
(これが、この世の地獄か……)
上半身裸の次期辺境伯。
上半身裸で下はクマの着ぐるみの辺境伯。
目の前に広がるのは、黒革に身を包み、赤マントを纏った、逆三角形サングラスの軍隊。
自我を保つだけで必死の彼らは、ガクリとその場に膝をつき、手を組んで何者かに祈り出した。
最近、爆弾魔達(仮想)は精神的に限界が来ると、神に祈る癖がついてしまったのだ。
「さて、あなたがこのゴールウェイ辺境伯軍の総帥ね」
総帥ランベルトはハッとして声のする方に顔を向けた。
金色の人形のような女が、仁王立ちで彼の方を見ている。
ランベルトは、居住まいを正して礼をした。
「は、はい……ランベルト=ランチェスターと申します。このゴールウェイ辺境伯軍の総帥を拝命しています。よろしくお願いいたします」
「ええ。わたくしは先日、そこのゴードン=ゴールウェイの妻となったキャロライン=ゴールウェイよ。よろしくお願いするわね」
「はい」
「今日はね、あなた方に告げることがあってきたのよ」
ランベルトが目を見開き、背筋を伸ばすと、キャロラインは嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしの旦那様が五年前から行っている施策を見直します。あなた方の給与体系を見直し、福利厚生として与えたその制服を元に戻しますわ」
「!!!! しょ、承知いたしました、是非とも」
「それでね、給与を下げて、与えたものを奪うだなんて、あなた方も納得いかないでしょう?」
「いえ、そんなことはございません、給与増額も福利厚生も不要でして」
「いいのよあなた方の気持ちは分かるわ。その苛立ち、鬱憤、全て原因となった旦那様を始めとするわたくし達領主一家が受け止めましょう」
「いえいえいえ、その必要はございませんので」
「という訳で、決闘よ!!!!」
「奥様全然こちらの話を聞いてくださらないですね!!!!???」
ばぁーーーん!!と手を広げて胸を張るキャロラインに、ランベルトもとうとう素が出てしまう。
こうして、領主一族vs黒赤の悪魔達の決闘の火ぶたが、無理やり切られたのである。
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