第4話

「そ、それで、なにして、遊ぶ?」


「…押し入れで、冒険、だっ」


「…え?」


「押し入れで冒険だっ!来い双葉!」


「ええ、あ、ぼ、ぼくのお布団の上に奏多くんが…あぅうう」


俺は双葉の手を引っ張り、押し入れを開け上段に昇った。

ひとの布団の上だが冒険が俺達を待っている。

俺は何故か顔を真っ赤にしている双葉を昇らせた。

そして襖を閉める。


「ふっふっふ、完全だけど不完全な密室へようこそ!」


「あぅう、奏多くん…お布団…くさくない?ぱ、パジャマ何処だっけぇ…」


慌てふためく双葉の手を握りながら俺は続けた。


「よし、何処に冒険する?宇宙?それとも宇宙?それとも宇宙?」


「全部宇宙だよぉ…」


「じゃあ宇宙だ!ワープ!ってワープ先に小惑星が!」


双葉「わぁ!奏多くんっ、しょ、小惑星にワープしたら危ないよっ!?」


「じゃあ避けないとー」


「きゃっ、あはは」


「ビーム!ってビーム機能ついてない!どこで買ったんだよこの宇宙船!双葉ーっ」


「ぼ、ぼくじゃないよぅ双葉くんが買ったんだよ!見た目で判断したんだよぅ」


「そうだったー!」


その後もきゃっきゃと笑って身体を揺らしてばたついて、冒険を続けた。

最初すごく戸惑ってた双葉も、押し入れで冒険することに夢中になっていった。

嬉しかった。

この遊びは、俺がじいちゃんとばあちゃんちに行った時、1人でいる時間潰しに始めたものだった。

色んなことがあって1人で遊んでいるしかなくって、俺は押し入れで冒険する楽しさに目覚めた。

クローゼットじゃあ駄目だった。

押し入れの微妙な暗闇と狭さ、上段という高さ。

これがなんだか楽しさを倍増だせるのだ。

誰かと一緒に遊びたい、とは思っていた。

けど、付き合ってくれそうな友達は一度も出来なかった。

なにせすぐ転校するから。

だから双葉が冒険に一緒に出てくれたのが、嬉しかった。

すぐに馴染んで、掛け合い、息ピッタリで、楽しくて涙が出そうだった。

アストライア星人と白熱のバトルを所望する俺を、奏多くんが殺されちゃう怪我しちゃうって双葉が止めてくる。


「俺なら大丈夫だっ」


「駄目ぇっ」


奏多がぎゅうって俺に抱き付いてきた。

こういうシーン好きだなぁ。

止めてくれるなっ双葉を守る為なんだ、的な気持ちが湧き上がる。


「双葉を守るんだっ」


「怪我しちゃうから駄目だよぅ」


さらに双葉に抱き締められ、これを振りほどくのヤダなって思った。

仕方ない俺が折れるか。


「分かった…双葉…じゃあ一緒に逃げようぜっ」


肩に顔を埋めてる双葉の方を見る。


「奏多くんっ…っ!……」


薄暗がり、もう慣れた目に嬉しそうな顔で俺を見上げる双葉が見えた。

その目が丸くなった。

俺の目も多分丸くなってる。


「…」


「…」


動けなかった。

息も出来なかった。

双葉も同じで、瞬きすることも止めていた。

でもさすがに息が苦しくなって離れる。

息をする。

はぁはぁ、する。

めっちゃ走った後みたいに、はぁはぁし続けた。

興奮が、治まらない。

だって今のってアレだ。

口と口がくっついた。

やわらかかった。

あったかくてしめってた。

きもちよかった。

ここでようやく双葉に焦点があわさる。

双葉の目が、なんだか光ってるように見えた。

どうなってんだろ、と思って頬を触る。

めちゃくちゃ熱かった。

双葉の目が閉ざされた。

顔の角度が調度良かった。

俺はもう一度、口を双葉の口にくっつけた。

身体がドロドロに溶けるようなきもちよさに襲われた。

離れるのが嫌すぎて、双葉の上にのしかかった。

双葉は身体をビクっとさせたけど、ふんわり俺の背中に両手を添えた。

身体がくっつくのもきもちよかった。

体温が。

匂いが。

全部。

きもちよかった。

俺たちは初めて知った感覚を、必死になって貪った。

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