第3話

双葉の部屋はとても綺麗だった。

ところどころ不気味な部分はあったけど、整然とした本棚や机、新しい畳やテーブルが俺を安心させてくれた。

とっても失礼だけど、安息地に感じられた。


「俺の部屋より綺麗」


「ぇ、ありがとぅ…」


「床にゲーム積んじゃうんだよ俺…って、押し入れ!?」


「え、うん、お、押し入れだ、よ?」


俺は押し入れを見つけ、押し入れに興奮してしまった。

気付かなかった。

圧倒的押し入れ感に。


「押し入れだぁ。押し入れだぁ…な、開けていい?」


「ぇ…うん…いいけど…」


「押し入れだぁあああ!」


許可を得たので襖を引くと、上段に布団下段に半透明な衣装ケースが入っていた。


「押し入れだぁ…押し入れだぁ…」


じろじろ覗き込んでしまう。

整頓されているのがますます好感触だ。

なんか良い匂いがするのは、双葉の匂いだろうか。


「えっと、恥ずかしいからもう閉めるよ」


双葉が顔を真っ赤にさせ襖を閉めてしまった。

残念だ。


「ごめん。俺、じいちゃんとばあちゃんちの押し入れがめっちゃ好きでさ。家に押し入れあったことなくて…うらやまだぜ、押し入れっ」


「そう、なんだ…」


双葉はなんで?という言葉を飲み込んだようだった。

そうだよな。

うん。

変、だよな。

ごめん。


「そ、それより、ゲーム、しようよっ…」


「あ、そうだった。じゃあ繋ぎますか」


「ソフトはね、えっとね…」


双葉は整頓された棚を探り、俺はキチンと箱に仕舞われていたハードを取り出しテレビと繋げた。


「あ…そうだった…」


「んー、どしたー?」


顔を上げると双葉が顔を青くさせていた。


「奏多くんごめん…お隣のお兄さんにゲーム、ね…その、もって…かして、て…」


声を震わせ今ここにゲームは無いって説明してくる。

なるほど、隣の家の上級生に借りパクされかかってるのか。

双葉、強く返せって言えなさそうだもんな。


「い、今、返してって言って来るっ」


双葉が玄関へ取って返そうとする。


俺は双葉の手を取った。

汗をかいたらしい。

さっきよりしっとりしていた。


「ゲームは今度でいいよ。今日はふつーに遊ぼうぜ」


ゲームは逃げない。

それに、なんとなく双葉を1人で交渉させに行くのは危ない気がした。

お母さんと双葉で返してって向こうの親に言うのが良いと思う。

ゲームって高いもんだし、年下から年上に返せって言うのは、勇気がいることだ。

双葉一人で返せって言ったら、絶対殴られたり返して貰えないままになると思う。

もしくは時間がある時に俺がなしつけてもいい。

目の前の大人しそうな双葉を俺は守るつもりでそう言った。

そしたら双葉は、


「いいの…?ゲーム…なくても…ぼくと遊んでくれるの…?」


なんだか泣きそうな顔を浮かべた。

俺は目を丸くした。

そして気付いた。

俺が双葉と気が合って楽しいなって思ったように、双葉もそう感じてるんだって。

そんで双葉は、俺とずっと前から仲良くしたかったんだって。

そう思うと今にも泣きそうな双葉が可愛くて仕方なかった。


「もちろん。当たり前だろ」


ぎゅって手を握る。

強く握りすぎたかな?って思ったけど、双葉もきゅって握り返してくれた。

嬉しくて笑ってしまった。

双葉も笑った。

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