第2話

双葉の家は想像以上に古かった。

じいちゃんの家の5倍はボロボロだった。


「…」


「びっくり、したよね…ごめんっ」


「いや、はじめてのひとんち、俺はいつもきんちょーすんだ」


双葉はえぇ?と首を傾げたが、俺はそうなんですってその背中を押した。


「おじゃまーす」


「ただいまぁ」


玄関も古かった。

おじいちゃんの家だったそうだ。

今建て直す準備中でねって言われて、そうだよなって納得した。

家の中は暗かった。

明るい日差しを取り込んでるはずなのに、昏かった。


ギシ


踏んだ途端、廊下が鳴った。

ホラゲの廊下にしか感じられなかった。

嗅いだことのない匂いが漂っている。

柱一つ一つ、壁の染み、床の軋み、匂い。

全部が不気味に感じられた。


「双葉ちゃんおかえりなさい、あら、お友達?」


台所から女性が出てきた。

めっちゃ双葉に似ていた。

絶対お母さんだ。


「こんにちはっ」


「こんにちわ」


少し疲れた様子だったけど、俺は元気に挨拶した。

父さんがそうしなさいって教えてくれたからだ。


「ちょっとおじゃまします。でもすぐ帰りますのでお構いなく」


「うふふ…面白い子ね…双葉ちゃん…お母さんお買い物行って来るからお留守番お願いね…」


「うん、わかった」


「奏多くんも何のお構いも出来ずごめんなさいね」


「いえいえ急な訪問したのはこちらですので」


「…うふふふっ奏多ちゃんおもしろいこというのねぇ」


「もう、お母さんっお買い物はっ」


「あらあら、お母さんお邪魔虫みたいね」


双葉はお母さんの背中を押した。

お母さんは嬉しそうにうふふって笑い「ゆっくりしていってね、奏多ちゃん」と言って玄関に向かった。

双葉は顔を真っ赤にしていた。

小さな声でごめんって言った。


「双葉はお母さんに似てるな」


「嬉しくないよぅ」


「ははは、いーじゃん」


「そう言えば、あの、今日はおうち、何か用事あるの?」


「ん?ああ、父さんが仕事で遅いから家に居ないといけないんだ」


「お父さん、遅いんだ。僕もだよ」


「双葉んちもかぁー、俺んち母さん居ないからなぁ」


そう言った途端、双葉がハっとした。


「…そう、なんだ…ごめんね…」


「あ、ごめん。言わないようにしてたんだけどつい言っちゃった。気を使わなくていいからな」


失敗した。

反応に困るから言わないようにしてたのに。

誰にも言うつもりなかったのに。

つい、双葉に言ってしまった。


「…うん…」


双葉は俯いてしまった。

ちょっときまずい。

双葉と気が合い過ぎでついつい口が軽くなってしまった。

反省していると、双葉がパっと顔を上げた。


「じゃあ、もしかして奏多くんのお弁当って奏多くんが作ってる?」


「え、うん、そう。なんでわかったんだ?」


時々、お弁当日って行事がある。

校庭やいろんなトコで弁当広げてお昼ご飯を食べって行事だ。

母さんがいない上に仕事が忙しい&びっくり不器用父さんが作れるはずもなく、普段から料理をしている俺が自作していた。

それが、何故バレた。


「なんとなく、かなぁ…。すっごく美味しそうだなって…あ…その…覗き込んでごめん…」


「ううん、別に。むしろ今度食う?」


「え、いいの」


「うん。父さんが味音痴で俺の味覚が正しいか、知りたいんだぜっ」


キリっとして言うと、双葉クスクス笑ってお弁当楽しみって言ってくれた。

廊下で話し込んでしまった俺たちは、一緒になってハっとなった。

時間が無いって再認識した双葉が、僕の部屋はこっちだよ、と俺の手を引いた。

細くて柔らかくてびっくりした。

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