押し入れで冒険
狐照
第1話
この学校転校してから数週間、クラスの男子とはだいたい喋った。
父さんの仕事の都合で転校することが多いけど、何処に行ってもゲーム好き相手ならゲームの話は盛り上がるからありがたい。
「奏多、無謀シリーズの新作買った?」
「その前にオニガルの新作買って、お金が無いっ」
俺がそう答えると俺もだよ、俺も、と似たような声が上がった。
どうやら俺が買うことを期待していたようだ。
残念ながらお小遣いがもうないので買うとしても来月だ。
早く大人になって好きなだけゲーム買いたい…。
その後も、中古で買ったゲームがクソだったとか、隣の家の上級生に借りパクされて困ってるだとか、ゲームの話で盛り上がる。
もちろんサッカーとか野球とか、しないことはない。
話してる連中も同じだ。
でもまぁゲームのほうが楽しいのだ。
俺はそもそも家に居ないといけないからゲームが大好きだ。
ひとりで遊べるし。
「んじゃ今日はサッカーでもすっか」
「奏多はどーする」
問われちょっと悩む。
今日は父さんの帰りが遅い。
そういう日は絶対家に居なさいって言われてる。
「うん、ちょっと今日は、家で、俺のレベル上げる」
なんだそれと同級生たちが笑った。
前もそういう風に断ってるから正直ノリが悪いって言われたらどーしよ、とは思った。
「じゃあ、次の狩り先導ヨロ」
「ネタバレ厳禁、これな」
さらっとした返答に俺はホっとした。
ゲーム仲間は本当によいもんだ。
俺は適当に返事をして、サッカーやろうぜぇぇ、と飛び出してく背中を見送った。
さて、スーパーに寄って帰るかな。
「芦生くん…」
「ん?…えっと…水保、だったっけ」
「うん…」
クラスの男子とはだいたい喋ったって言うだいたいから洩れている、喋ったことがない奴がひとり居た。
それがこの水保双葉だ。
めっちゃ大人しくて、いつも教室の片隅で本を読んでる。
女子と仲が良い訳でもなく、特定の友達が居る訳でもない。
なんとなく、浮いてる存在だった。
俺は話しかけていいのかなって、思ってた。
とにかく大人しいのだ。
すごく静かだし細いし、なんか日を浴びたら熱出そうな感じだし。
俺のノリで振り回したら後で怒られそうだし。
俺のこと苦手って思ってそうだし。
って俺は勝手に思っていた。
「俺になんか用?」
「う、ん…あの…さっき話が聞こえて…ぼく、無謀シリーズの新作買ったんだけど…ぼく、このシリーズしたことがなくて…」
「え、マジで!?そっか、いーなぁ…」
「それで、その、少し、教えてもらえないかなって、思って」
そう言われ、俺はとても悩んだ。
サッカーを断った手前、水保の家に行くのはどうなんだろうか。
それに家に居ないといけない。
でも、ゲーム、したい。
「あ、ごめん、用事、あったよね…ごめんね…」
諦めて去ろうとした水保に、俺は慌てた。
「いや、俺が教えてやるよ」
せっかく水保が誘ってくれたんだ、断るのはちょっと嫌だった。
父さんが帰って来る前にちゃんとしておけばいい。
そう思い、俺は遊びに行くことにした。
ゲーム仲間にバレたら新作の誘惑に勝てなかったって素直に謝れば許してもらえるだろう。
「ほんと?」
「俺にまかせな!無印からやってるから!でも、早く帰んないといけないからそこんとこヨロ」
「うん、ありがとう」
水保が笑った。
始めてみた。
なんか、可愛いな。
「じゃあ早速水保…双葉んちいこーぜっ」
「…あ、ぅ」
「あ、急に距離詰めすぎ?」
「う、ううん…あの」
「うん」
「ぼくも奏多くんで呼んでもいいかな…?」
「おお、いーぜ」
双葉はなんか嬉しそうにしていたので、俺もなんか嬉しくなった。
「あ、そうだ」
「なに」
「ぼくの家、すごく古いんだ…驚くかも…」
「へぇ、そーなんだ。だいじょーぶだいじょーぶ、俺のじーちゃんちも古いから慣れてるから」
俺は注意されたにも関わらず、特に深く考えなかった。
それよりも未知の同級生と話すことが楽しかったのだ。
だって双葉、大人しいけどすっごく、気が合う奴だったから。
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