第4話 お化け蟹ザラタン 010b

 「マイク様お手紙です」イムリー城の自室

「エッ、僕にかい」コニーの言葉に半信半疑だ

「差出人が冒険者ギルド長のトム様ですが」頷くとコニーが封を切る

トラップの回避の為で、直接には渡さず封を切り読み出す。

読んだ後に主に渡すが慣習だ「用件だけでいい」

コニーの黙読が終わる迄待つと「マイク様へのザラタンの討伐依頼です、

ファナティネサン灯台とマタンロンの間の航路に大蟹が出るそうで、

セルシャへの荷役が滞ってるようです」

「怪物なら僕じゃ無く軍隊の出番でしょうに」

「軍への願いは出しているとの事ですが、決定までに時間と準備が掛かり

過ぎるとの事で、商人や漁師も焦れて、ギルドへの依頼も膨れ上がり、

早急に討伐して頂ければ、依頼料の他マイク様ならチームでS級ランクの

進呈とあります、推薦人はジョアン様と成っております」

「何にせよ、まずは父上に相談だな~」


 城の父の執務室のテーブルの上に手紙が置いてある

父が読み終わり僕の方へ返したものだ。

沈黙のまま僕を見つめていたが「お前は如何したい」

問いは、手紙への返事と艦隊を差し向ける立場としてだろうが

「蟹が泳ぐ処を見たい気がします」思わず本音を言ってしまった

予想外の答えに呆れながら「ザラタンだぞ、怖いとか思わんのか?」

「意外に怖さは有りません、むしろワクワクします」

親として心配したのに余裕を見せられ、自分の心の動揺を抑えながら

「ならこの件、お前に任せていいか?」

頷きつつ「一隻囮をお願いしたいです」父は頷いて執務に戻って行く。


 その日、城から近い漁師町でうろつくマイクの姿があった

漁師を捜しては声を掛ける、その仕草を続けている

「すみませんカニの急所、何処か教えてください」

「ふんどしだな~」やっと答えが来た

「え~、かにのふんどしって…」戸惑う様子に

「お前の持ってるかにを貸せ」見本用に持ち歩いていたのを渡す

「腹のこの三角の部分だ」海老からの進化の痕跡らしい

「普通に突き刺せばよいのですか?」

漁師は自前のナイフで「ふんどし」を突き刺す

「ああ、この三角の頂点付近を突き刺すと動きが止まるが、

それでもまだ暴れるようなら、こうすればよい」持ったナイフの方向が

蟹のハサミが有る上向きに変わる、不審そうな顔を僕がしていたのだろう

「動きを止めといて茹でるためだ、こうして処理しないと

生きたままでも、死んでる奴でも味が落ちるんだ

「〆る」と言うこの作業をする事で、美味しさを保てるんだ」

「おお~、食べ方まで教えて頂いて、ありがとうございます」


 後日、ギルド長のトムと差しで、依頼の蟹の件の受諾をしている

「ジョアン達の話では人数が多い様だし、技量も高いとの話であり

ギルドの依頼が成功時は、どんな形態に成ろうと登録は歓迎だ。

成功時のランクはSとするが、希望する形態はパーティーかい?」

「クラン設立と僕をS級にして貰い、メンバーは登録時に個々の力量を

ギルドで計ってランク付けで、お願いしたいけど」

「その条件はギルドとしてもありがたい、それで討伐予定は?」

「囮の船次第、大きくないと引きずり込まれるから」

「軍艦か、親父殿は何と?」

「了承済みで、用意出来次第連絡が來る手筈」

子供相手の話と思えぬ段取りと、打てば響く会話の進み具合いに本音が漏れ

「お前ホントに10歳か?、俺とため口で普通に話してるのが信じられん」

「コンコン」ドアがノックされる「入れ」ギルド長の返事で案内の

受付嬢がドアを開けると、その後ろからコニーが顔を出し

「坊ちゃん、囮の船の用意できたって旦那様が」

「あいよ、ギルド長聞いたよね、じゃまたね」身を翻し走り去って行く二人、

受付嬢は両手を広げ肘を曲げ掌を上に、「ヤレヤレ」と呆れた様に

ジェスチャーをした後、持ち場に戻っていった。

見送ったトムの一言「確かにあの去り際の態度は子供だ」


 港に大きな船と言うより、巨大な船が埠頭を占拠していた。

通常の大型船で50~70m程だが、100mは有りそう、船腹が細く

スピードを求める構造の様で3割程細い20m程の幅、マストは五本

新造船で砲や荷は積まれていない、船員も操船に必要な人数のみで

最低限の200人構成だがベテランにしてあるとの事。


 怪物はザラタンと呼ばれ、目撃情報では幅が30mは有る蟹の様なので

体躯が8~9mとして厚みを2~3mと予想して、胴体を貫通させるのに

4~5mの棒、出来れば鉄棒が欲しいが重過ぎて動かせまい穂先のみだね

それと網のぼろ多数集めて広く繋ぎ合わせる、蟹より広く造る

二重、三重に重ね、その準備が出来て出港となった。


 レフランスターの港を出港し、岬の先端のファナティネサン灯台から

南に海岸沿いをマタンロンへと進む、中間地点付近に生息するらしいが

それ以上の情報は無い、動く物や音に反応すると思われるが直接攻撃での

船狙いは避けたい、その為船の周りをワイパーンで囲むように飛びつつ

サビキの様に動物の内臓や肉片を引いている。


 「キャウ」船の進行方向の沖側の一羽が鳴いた、戦闘開始だ!

海の透明度が高く、蟹の足が忙しく動いているのが見える、

犬かきならぬ蟹かき、ひらひらと移動する様は意外に巧みで神秘的

「サビキを順番に切り離し喰わせて、船の方に誘導して」

蟹は切り離された餌に向かい、ハサミで起用に捕獲し口に運ぶ

誘導されて近づき、眼前に浮かぶ船が敵なのか、気になる様だ


 「蟹網下ろせー」ワイパーンで広げて降ろされる、傘の様な大きな網 

テルテル坊主を拡げた様な形状だ、真ん中の頭に餌が入れて有り誘き寄せせ

網の上を歩かせる様にして、足が絡まるのを待つ

テルテル首の紐は船に結んで、手繰り寄せれる太いものにしてある、

裾が開く様に樽が浮き輪代わりに多数、結んで有る。


 網は幅が40m程有り、餌目掛けて蟹が動き出した、餌を食べ様と

下から網に抱き着く姿勢になる、上手く腹側の両足共絡む、蟹にとっては

身体が固定され、ハサミが上手く使える体制となり貪り始めた。

海面から広げた網の上を餌に近づくと思ったが、下から餌に抱き着き

 予想外に早くチャンスが来た、ふんどしが上空から丸見えなのだ。

攻撃を行うサインを送り、上空から一気に近付くと物干しの様な銛に

魔法を通し蟹のふんどしを突き刺す、動きは直止まった。

「ワー」船上と上空から歓声があがるが、上空からの歓声が悲鳴に変わる


 一匹では無かったのだ、番か仲間がいた。

「〆終わったのは船に寄せておいて、予備の蟹網を急いで出してくれるかい

その後は戦闘準備で遠距離の武器をなるべく用意して」

船長に指示を出しておいて、仲間を集合させる

「想定外だけど、もう一度いくよ、今回は船か蟹かの何れに行くか見極め

到達前に蟹網を広げる、網は一枚、チャンスは一度しかないから頼むね」

動物には番の絆を有する者もいるが、蟹に怒りの感情が有るのか…

つい余分な事を思ってしまう


 「マイク様、目標は蟹の様です」目と無極めの感が鋭いパラの助言

「行くぞ!」ワイパーンで船から持ってきた網を投下する

闇雲に前進する蟹、網に絡まれがんじがらめになるがハサミが動く

「目潰しに遠距離攻撃を初めて」

ワイパーンや船縁から魔法や矢が、蟹の目に放たれる、

さらに船の胴へ手繰り寄せていく、

例え脚が絡まっていても、蟹は船の船底に抱き着く格好は取れる、

抱き着くと身体が安定し、ハサミが自由に動かせ力も入り易く、

側板を破ったり、甲板や帆柱に被害を与える可能性が高い、

重くも在り力任せに暴れられると、揺れるタイミングで沈む可能性も有り、

何れにせよ危険なのだ。


 「ヤッタ!」パラ、パル兄妹から想定通りで歓喜の声が上がる

樽の浮力で浮いた網の上を、もがき乍ら進む、浮くと事は、この個体が軽い

餌に齧り付く、身の危険より目先の食い物のようだが

威嚇でハサミを振ったタイミングで、ロープの輪がヒットした

片方のハサミに二本巻き付いた「上手い、引っくり返して」

二本のロープを、ワイパーンが喘ぎながら飛んで引っ張る。

「ブシツ」パルのロープが切れた、反動でかなりの距離を飛んでった

海面では重くなり片方のロープが加重に耐えられなかった。

「パラそこで止めて」持ち上げて海面から、ふんどしが見える位置をキープ

海面付近を低空で飛ぶ僕の目の前に三角が見える、「間に合え~」

蟹の腹の下方の三角の頂点が目標だ、魔力を通して「いけ~!、ズブリ」

気の抜けた音と同時に蟹の力が抜けていく、綱が切られる前に串刺しだ。


 上手く急所を貫けた様で、麻痺させる事に成功した。

流石に人力では船上には上げる事が出来ず、港まで引いて行くが

ここでも埠頭には重くて上げられない、港近くの浜に地引網の様に引く

浜に上げたが…、食べてみたい、魔獣化した訳でもなく巨大化しただけ

の蟹だが、生は怖いので茹でる…茹でる方法も無い、仕方なく「収納」

最初の蟹は死亡判定の様で仕舞えた、二匹目は息が有る様で無理


 思い余って火炎と熱風で炙り出した、やがて芳ばしい香りが漂い始め

小一時間程続けた頃、間接のつなぎ目から汁が漏れ出して湯気が上がり出す

辺り一帯に芳ばしい香気に包まれ、一旦魔法を止めて焼け具合を確認…

「マイク様美味いっす、こりゃたまんね~」パラの声だ、

獣人兄妹は待ち切れなかったとみえ、太さが1mは有る足の殻を剣で割り

剥がし「アチチ、アチチ」と喚きながら、手掴みで頬張り至福の表状、

パルも負けじと齧り付き「蟹はこんなに美味いのね」一言の後は無言で

「フーフー」しながら齧り付くのを見て、仲間も船員も食べだし、夢中だ、

匂いと噂で人が集まる、慌ててギルドに提出のハサミを確保し、解体し、

焼き蟹の身を民の好きにさせると、飲めや歌えで大騒ぎとなった。

流石に警備隊が出動する騒ぎと成り、これ幸いと任せて帰還する。


 船員の労いにカニを配って、結果を父に報告する

「ご苦労だった、人も船も被害が出ずに済んで大手柄だ」

「夜は王城は蟹三昧ですよ」厨房にも配りギルドへ


 「ウオ~、これがハサミか~」太さが2m、長さ5mのハサミが二本

解体場に転がる、太さがギルド長の身長を上回る「ご苦労だった」

「足を拡げるとどれくらいだ」解体主任が聞いてくる「30はあったね」

足の一節を取り出す「何だ、樽みたいだぞ、匂いが堪らん食えるのか」

「今頃港の浜はどんちゃん騒ぎだよ」「ここもこれだけありゃ、ハハ」

「実は…」と、二匹いた事を話し、ギルドの訓練場で生の大型の方をだす

流石にギルド長も驚いた様で「番か?」「ふんどしの形状から多分」

「下手すれば大惨事だったか」「えぇ…」マジックボックスへ仕舞う                              


 案内されて執務室へ入る、僕の護衛や遊び仲間がいる

「君達はギルドの冒険者と立ち会ってもらい、ランクを決めたい」

「はい」「段取りは隣でするから、その娘に付いて行って聞いてね」

皆が出ていくが「コニーは行かなくて良いのかい?」

「わたしは坊ちゃまのメイドです、お世話係です戦いはしません」

うんうんと頷く僕にギルド長が

「約束道理S級クラン誕生だね、これがクラン証と君のギルド証」


 この後、城に戻り、父にギルドの報告をしにいくと、褒美にと

市井にクラン用にと屋敷を貰った。

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